20.あの日の優しさ
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東京に住み始めた頃、夢主と沖田は人混みを避けており、花火は見に行かず耳に届く音を楽しむに止まっていた。
「実は旦那様をお誘いしたかったんですけど……忙しい人で……」
「そうだったんですか、悪い事を聞いてしまいましたね。でも綺麗ですから、いつかは旦那様と見に行けるといいですね」
「はぃ……」
明治の花火とはどんなものだろう、夢主は隅田川の景色を眺めながら素朴な花火を思い描いた。
それから会話は他愛のない東京や江戸の頃の浅草の話題になり、赤べこに戻るまで楽しいひと時を過ごした。
夕暮れ時、赤べこで車夫を労い牛鍋を振舞うというので、夢主も妙の誘いに甘え、共に馳走になった。
斎藤は今夜も戻らない。夢主は妙達と楽しい夜を過ごして盛り上がった。
人が集まれば食事と共に当然のごとく酒が用意される。夢主は手渡されそうな猪口を慌てて拒んだ。
「私、お酒は呑めないんです」
「そうなん?もったいないわぁ、美味しいのに。前に買って帰ったんは旦那はんの為やったんやね」
「お月見の時ですよね、そうなんです。私は舐める程度で」
「少しやったらいけるん、なら今日は人力車があるし呑んだらえぇやないの」
「でも、お酒飲んだら人力車も引けないんじゃ」
「大丈夫よ、夢主ちゃんの道場まで平らな道やもん」
結局人力車への乗車と同様、強引な勧めを断り切れずに酒を含むことになった。
比古に教わった通りにちびりちびりと舐めるように味わい、酔いが回らぬよう気を付けるしかない。
「酔ぅた夢主ちゃんも可愛いやろなぁ、もっと呑んだらえぇのに。でも酔わせて帰す訳にもいかないしねぇ」
「えぇ、あの……ご馳走様です、私そろそろ……」
「あかんで、もっとゆっくりして行き!旦那さん帰らへんのやろ。なんなら泊まっていけばいいのよ」
「それはさすがに怒られちゃいます、お家を空けるなんて……」
それから宴のように盛り上がり、すっかり夜が更けた頃に赤べこの夜は解散された。
酔った車夫の車は怖いと乗車を断り、代わりに人力車を引いたまま車夫が沖田の道場まで送ってくれた。
昼間の礼を告げ、楽しかった赤べこでの晩を振り返り二三の話をして男は帰っていった。
その間、話し声に気付き出てきた沖田が驚いたのは言うまでもない。
「じっ、人力車?!噂に聞いた事はありますが」
日本橋辺りにいるのでいつでも乗ってくださいと車夫に誘われ、沖田は苦笑いで応じ、去り行く車を見送った。
「それにしても夢主ちゃんが夜遊びだなんて意外ですね」
「夜遊びじゃありませんよ!妙さんのお店でご飯を頂いたんです。先程の方は妙さんのお父さんの知人の方でっ」
「あははっ、冗談ですよ。本気で夜遊びだなんて思っていませんから。でも気を付けてくださいね、今の方は本当に優しさで送ってくださったようですけど、下心で女性を送る男もいますからね」
「あ……ごめんなさい……」
「謝る必要はありませんが、斎藤さんには僕からは言いませんからね」
「すみません、秘密を作るみたいで……一さんにはちゃんと伝えます」
「ふふっ、それでお土産のお酒まで貰っちゃたんですか」
はっと手元を見れば、妙に渡された小さな酒瓶がぶら下がっていた。
旦那との仲の良さを知る妙が手土産に持たせたのだ。
「一さんがお酒控えてるって言えなくて……総司さん呑みますか」
「いいえ、折角ですから家に置いておくといいですよ。家でなら夢主ちゃんが一人晩酌しても平気でしょう」
沖田はくすくす笑って夢主の酔い姿を思い出した。
酔ってしまっても、布団さえ敷いておけばそのまま寝て朝を迎えるだけだ。
夢主は見抜かれている自分の酒癖に顔を染めた。
「実は旦那様をお誘いしたかったんですけど……忙しい人で……」
「そうだったんですか、悪い事を聞いてしまいましたね。でも綺麗ですから、いつかは旦那様と見に行けるといいですね」
「はぃ……」
明治の花火とはどんなものだろう、夢主は隅田川の景色を眺めながら素朴な花火を思い描いた。
それから会話は他愛のない東京や江戸の頃の浅草の話題になり、赤べこに戻るまで楽しいひと時を過ごした。
夕暮れ時、赤べこで車夫を労い牛鍋を振舞うというので、夢主も妙の誘いに甘え、共に馳走になった。
斎藤は今夜も戻らない。夢主は妙達と楽しい夜を過ごして盛り上がった。
人が集まれば食事と共に当然のごとく酒が用意される。夢主は手渡されそうな猪口を慌てて拒んだ。
「私、お酒は呑めないんです」
「そうなん?もったいないわぁ、美味しいのに。前に買って帰ったんは旦那はんの為やったんやね」
「お月見の時ですよね、そうなんです。私は舐める程度で」
「少しやったらいけるん、なら今日は人力車があるし呑んだらえぇやないの」
「でも、お酒飲んだら人力車も引けないんじゃ」
「大丈夫よ、夢主ちゃんの道場まで平らな道やもん」
結局人力車への乗車と同様、強引な勧めを断り切れずに酒を含むことになった。
比古に教わった通りにちびりちびりと舐めるように味わい、酔いが回らぬよう気を付けるしかない。
「酔ぅた夢主ちゃんも可愛いやろなぁ、もっと呑んだらえぇのに。でも酔わせて帰す訳にもいかないしねぇ」
「えぇ、あの……ご馳走様です、私そろそろ……」
「あかんで、もっとゆっくりして行き!旦那さん帰らへんのやろ。なんなら泊まっていけばいいのよ」
「それはさすがに怒られちゃいます、お家を空けるなんて……」
それから宴のように盛り上がり、すっかり夜が更けた頃に赤べこの夜は解散された。
酔った車夫の車は怖いと乗車を断り、代わりに人力車を引いたまま車夫が沖田の道場まで送ってくれた。
昼間の礼を告げ、楽しかった赤べこでの晩を振り返り二三の話をして男は帰っていった。
その間、話し声に気付き出てきた沖田が驚いたのは言うまでもない。
「じっ、人力車?!噂に聞いた事はありますが」
日本橋辺りにいるのでいつでも乗ってくださいと車夫に誘われ、沖田は苦笑いで応じ、去り行く車を見送った。
「それにしても夢主ちゃんが夜遊びだなんて意外ですね」
「夜遊びじゃありませんよ!妙さんのお店でご飯を頂いたんです。先程の方は妙さんのお父さんの知人の方でっ」
「あははっ、冗談ですよ。本気で夜遊びだなんて思っていませんから。でも気を付けてくださいね、今の方は本当に優しさで送ってくださったようですけど、下心で女性を送る男もいますからね」
「あ……ごめんなさい……」
「謝る必要はありませんが、斎藤さんには僕からは言いませんからね」
「すみません、秘密を作るみたいで……一さんにはちゃんと伝えます」
「ふふっ、それでお土産のお酒まで貰っちゃたんですか」
はっと手元を見れば、妙に渡された小さな酒瓶がぶら下がっていた。
旦那との仲の良さを知る妙が手土産に持たせたのだ。
「一さんがお酒控えてるって言えなくて……総司さん呑みますか」
「いいえ、折角ですから家に置いておくといいですよ。家でなら夢主ちゃんが一人晩酌しても平気でしょう」
沖田はくすくす笑って夢主の酔い姿を思い出した。
酔ってしまっても、布団さえ敷いておけばそのまま寝て朝を迎えるだけだ。
夢主は見抜かれている自分の酒癖に顔を染めた。