20.あの日の優しさ
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「見た事もない大きな機械で地面を掘っていました。物凄く巨大な建物になりそうですよ、何を建てているんですか」
「さて、そこまでは把握していない」
……巨大な屋敷か。いい気なもんだ。ま、今の所は白だが怪しいのは間違いない……
現場が武田の土地で、何やら大掛かりな工事が行われていることは把握済み。
だが今の段階で沖田に告げる話は無いと斎藤はしらを切った。
武田が秘密裏に販売する四ツ目屋の薬を模した粉薬には、阿片が混ぜられ中毒性が高められている。
これからその割合が増え、やがて阿片その物を売り出す時が来る。
輸入阿片の利益に満足出来なくなった武田がついには独自の阿片・蜘蛛の巣を作り出すなど、今は誰一人考えていない。
人けのない路地で会話を終えた二人は、それぞれの方向へ去って行った。
その頃、斎藤と沖田が話を交わした浅草の裏から少し離れた赤べこ前で、夢主は驚きの状態で妙に遭遇していた。
「妙さんっ?何してるんですか」
「あぁ!夢主ちゃん!いややわぁ、やっぱりまだ知られてへんのね、人力車よ」
たった今着いたのか、妙は車夫の手を借り人力車から降りる所だった。
人力車の黒塗りの美しい車体に、赤い漆が豪華に映えている。大きさとその見事な造りが人目を引いた。
「人力車はわかりますけど、お店まで人力車で来たんですか」
「ふふっ、宣伝よ、人力車の宣伝にもなるしお店の宣伝にもなるやろう、この方、お父はんの知り合いなんよ」
車夫を紹介された夢主はお辞儀をして初対面の挨拶を交わした。
明治三年末、人力車を始めて半年経てども、なかなか客が定着せず困っていた。
物珍しさから乗る者はいるが、人力車が目指しているのは交通の足になる事。台数が少なく目立つ存在であり、人目を引くから乗車を躊躇う客が多いそうだ。
「赤べこの宣伝しながら浅草をぐるっと一周してもろたんよ」
「お店、繁盛してないんですか」
「ありがたいことにお客はん来てくれてるのよ、夢主ちゃんに手伝い頼みたくても誘いに行けないくらいよ」
「ふふっ、凄いじゃありませんか」
人力車に乗ったのは赤べこの為というより、父の知人の力になった部分が大きのだろう。
「夢主ちゃん、入れ替わりに乗らへん?夢主ちゃんなら人目を引くし、人力車の最高の宣伝になるわよ」
「えっ、でもそんな目立つこと私は……」
「お願いっ、力になると思って一回だけ、ねっ!」
申し訳なさそうに笑う車夫の男と、車から降りて手を合わせる妙の願いを無下に出来ず、夢主は乗車する羽目になってしまった。
車夫の手を借り車に乗ると、高い視界に緊張して身が縮まる。
「ははっ、大丈夫ですよ。いい景色でしょう」
「はいっ……あの、どちらまで……」
「どちらまででも、行ける道ならお連れ致しますよ」
「……警視庁まででもですか」
警視庁までの長い道のり、人力車に揺られて行けばそれは楽だろう。
夢主は軽い気持ちで訊ねた。
「警視庁、何か用でもあるんですかい。もちろん構いませんけどね」
「あぁっ、聞いてみただけです!冗談ですから!えぇと……私は人のいない辺りを一周してもらえたら……」
「それじゃあ宣伝にならへんで、夢主ちゃん」
妙の言葉に小さな笑いが起こった。
結局川沿いを進み、暫く進んでから折り返して戻ることになった。
人通りがある川沿いなら注目を浴びる。宣伝の為に妙が選んだ道だ。
高い視界も慣れてしまえば確かに景色は良く、風も気持ち良い季節だ。普段見られない景色を夢主は楽しんだ。
「今年の両国の花火は見ましたかい」
「花火……いいえ、実はまだ一度も……」
川開きの水神祭から始まった隅田川の夏の風物詩、両国の花火だが、幕末の動乱で一度途絶えていた。
しかしさすがは江戸っ子、時代の激変にもめげず、すぐに夏の花火は再開された。
「さて、そこまでは把握していない」
……巨大な屋敷か。いい気なもんだ。ま、今の所は白だが怪しいのは間違いない……
現場が武田の土地で、何やら大掛かりな工事が行われていることは把握済み。
だが今の段階で沖田に告げる話は無いと斎藤はしらを切った。
武田が秘密裏に販売する四ツ目屋の薬を模した粉薬には、阿片が混ぜられ中毒性が高められている。
これからその割合が増え、やがて阿片その物を売り出す時が来る。
輸入阿片の利益に満足出来なくなった武田がついには独自の阿片・蜘蛛の巣を作り出すなど、今は誰一人考えていない。
人けのない路地で会話を終えた二人は、それぞれの方向へ去って行った。
その頃、斎藤と沖田が話を交わした浅草の裏から少し離れた赤べこ前で、夢主は驚きの状態で妙に遭遇していた。
「妙さんっ?何してるんですか」
「あぁ!夢主ちゃん!いややわぁ、やっぱりまだ知られてへんのね、人力車よ」
たった今着いたのか、妙は車夫の手を借り人力車から降りる所だった。
人力車の黒塗りの美しい車体に、赤い漆が豪華に映えている。大きさとその見事な造りが人目を引いた。
「人力車はわかりますけど、お店まで人力車で来たんですか」
「ふふっ、宣伝よ、人力車の宣伝にもなるしお店の宣伝にもなるやろう、この方、お父はんの知り合いなんよ」
車夫を紹介された夢主はお辞儀をして初対面の挨拶を交わした。
明治三年末、人力車を始めて半年経てども、なかなか客が定着せず困っていた。
物珍しさから乗る者はいるが、人力車が目指しているのは交通の足になる事。台数が少なく目立つ存在であり、人目を引くから乗車を躊躇う客が多いそうだ。
「赤べこの宣伝しながら浅草をぐるっと一周してもろたんよ」
「お店、繁盛してないんですか」
「ありがたいことにお客はん来てくれてるのよ、夢主ちゃんに手伝い頼みたくても誘いに行けないくらいよ」
「ふふっ、凄いじゃありませんか」
人力車に乗ったのは赤べこの為というより、父の知人の力になった部分が大きのだろう。
「夢主ちゃん、入れ替わりに乗らへん?夢主ちゃんなら人目を引くし、人力車の最高の宣伝になるわよ」
「えっ、でもそんな目立つこと私は……」
「お願いっ、力になると思って一回だけ、ねっ!」
申し訳なさそうに笑う車夫の男と、車から降りて手を合わせる妙の願いを無下に出来ず、夢主は乗車する羽目になってしまった。
車夫の手を借り車に乗ると、高い視界に緊張して身が縮まる。
「ははっ、大丈夫ですよ。いい景色でしょう」
「はいっ……あの、どちらまで……」
「どちらまででも、行ける道ならお連れ致しますよ」
「……警視庁まででもですか」
警視庁までの長い道のり、人力車に揺られて行けばそれは楽だろう。
夢主は軽い気持ちで訊ねた。
「警視庁、何か用でもあるんですかい。もちろん構いませんけどね」
「あぁっ、聞いてみただけです!冗談ですから!えぇと……私は人のいない辺りを一周してもらえたら……」
「それじゃあ宣伝にならへんで、夢主ちゃん」
妙の言葉に小さな笑いが起こった。
結局川沿いを進み、暫く進んでから折り返して戻ることになった。
人通りがある川沿いなら注目を浴びる。宣伝の為に妙が選んだ道だ。
高い視界も慣れてしまえば確かに景色は良く、風も気持ち良い季節だ。普段見られない景色を夢主は楽しんだ。
「今年の両国の花火は見ましたかい」
「花火……いいえ、実はまだ一度も……」
川開きの水神祭から始まった隅田川の夏の風物詩、両国の花火だが、幕末の動乱で一度途絶えていた。
しかしさすがは江戸っ子、時代の激変にもめげず、すぐに夏の花火は再開された。