20.あの日の優しさ

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主人公の女の子

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主人公の女の子

夢主が去った警視庁では、斎藤が昨夜済ませるはずだった仕事を急ぎ片付けていた。
剣腕だけではなく要領の良さも密偵一。午前中には遅れを取り戻し、次の案件の処理に取り掛かっていた。
やがて署を出た斎藤は、この辺りで捉まるだろうと目星をつけた浅草の裏通りで、予想通り沖田を捉まえた。

「あ!斎藤さぁあ……ん」

「遅いお帰りだな。夕べは楽しかったか」

ここにいるという事は廓帰り。
眉を浮かせて沖田を揶揄するが、揶揄われた沖田はそんな事はどうでも良いと斎藤に詰め寄った。

「楽しかったか、じゃありませんよ!行ってきましたよ昨日!しかも夢主ちゃんに聞くまで知りませんでしたよ、家に戻らないと!人に仕事を押し付けておいて酷いではありませんか」

「早とちりするな、ちゃんとこうして捉まえただろう」

自分が振った仕事の後始末ぐらいするさと斎藤は肩をすくめた。

「もう少しはっきり合流を決めておいてくださいよ。家に来てくれるものと思っていたんですから」

「どのみち、夕べはいなかったんじゃぁないのか」

沖田を見据える斎藤の目がニッと笑う。
お前の行動などお見通しと言いたげな視線に、沖田は腕組みをしてそっぽを向いた。

「ふぅん、良くご存知で」

「情報では負けん」

「まぁいいですけど。斎藤さんが戻らないと思ったから吉原に行ってきたんです」

「ほぅ、何故」

夢主ちゃんが風呂敷持って南へ向かうのが見えましたから、予想はつくでしょう。貴方の所です。でしたら僕が家にいる必要はない。ですから情報を仕入れに行ったんですよ」

「フッ、まるで監察方か政府の密偵だな。やるじゃないか」

「やるじゃないかではありませんよ、まぁ今回は暇潰しみたいなものですから」

自ら動くなど珍しい。頭を使う任務を嫌がっていた男の変わりようを、斎藤は嬉しい驚きで褒めた。

「何か分かったのか」

訊ねられた沖田は両手をぽいっと投げて笑顔で頭を傾けた。

「それがさっぱり。武田は遊郭に登楼する男ではないみたいですね。さすがに楼主は名前を知っていましたが。随分と儲けを広げているそうです」

「ほぉ、そうか」

「それで、火熨斗はどうすればいいですか」

「家に帰る時に通るからそのままでいいさ。武田はどうだった」

「別人です」

「やはりそうか」

「やはりって、目星ついてたんですか!」

「そりゃあこちらの人間も動いているさ。だが直接面識のある男が面通しするのが確実だ」

「まぁそうですけど」

「何か気になる事はなかったか」

「気になる事といえば……やけに小さい眼鏡でしたね」

「ほぅ……」

「あとは女性を気持ち良くする品があるが興味はないかと……それから郊外に凄い屋敷が建てられいますね!斎藤さん地図間違えたんですか?!」

「あれは」

わざとだ、と言えば口をつぐむだろうか。
斎藤はこれからも頼まれ事を引き受けて欲しい沖田の感情を酌んで、己の間違いと偽った。

「すまん、別件の図と混ぜて写してしまったようだ」

「もう、しっかりしてくださいよ!」

「郊外の屋敷はどんな屋敷だった。女を気持ち良くするとは、四ツ目屋の薬の類か」

「あんなもの本当に効くんでしょうかね」

両国に江戸の頃から続くちょっと変わった店がある。
四ツ目屋は俳句に詠われた事もある有名な店だ。扱う品は色事に関する物、媚薬に張形や春画まで、様々な品を扱っていた。
男がより勇ましく勃ち上がるように、女の体がより潤い締め付けが増すように服用する薬。
または体の感度を上げて刺激に慣れた遊女すら溺れてしまう薬と、過剰な謳い文句で客を寄せていた。

「試してみたらどうだ」

見栄を張りたいが為に、または面白がって媚薬と呼ばれる薬を遊郭に持ち込む男は珍しくない。
斎藤は君もどうだと顔を歪ませて勧めるが、沖田はあっけらかんと笑い飛ばした。

「冗談言わないでくださいよ、あんな胡散臭いものにお金を払うなんて」

「ハハッ、すまん。その通りだな。話を戻すぞ、屋敷の話だ」
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