19.その男、実業家
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見知らぬ道を歩くのとは違い、一度歩いた景色は不安が薄く、道行きが早く感じられる。
我ながら順調に警視庁を目指していると夢主は進んだ。
迷わず目的地に辿り着き、経験を活かしてすんなり面会の目的を伝えた。
妻が来た時の対応を斎藤から指示されているのか、夢主はあの立派な面会室に通された。
「良かった、ちゃんと来れた」
夢主は長椅子に座りほぅっと安堵の息を吐いた。
斎藤の同僚に連れられて来た時を含めば三度目の長椅子。
取次ぎをすると言われて待つが、五分十分と待っても斎藤はやって来なかった。
「外に出てるのかな……」
それからもう五分が過ぎた頃、分厚い木の戸をノックする音が響いた。
「あっ……はい、どうぞ」
どう返答すべきか戸惑いながら答えると、戸が開いて若い巡査が姿を見せた。
背格好からあの赤篠かと思い顔を見るが、立っているのは見知らぬ若者だ。
「あの……」
「お待たせして申し訳ございません。藤田巡査は今、席を外しております」
「そうですか……」
「言伝やお荷物があればお預かりいたします」
「あっ……」
面会人が帰れるよう、用事を引き受けると申し出た若い巡査の心遣いに、夢主は悲しい顔を見せてしまった。
巡査は意外な反応を小さな声で笑った。
「いやっ、失礼致しました。あの、いずれはお戻りになりますので、もし宜しければこのままお待ちいただいても構いませんよ」
「本当ですか」
背筋を伸ばして大きな目で問いかける夢主に、巡査は一瞬息を呑んでから頷いた。
むやみに反応してはならない、冷静を装って対応しなければ。にやけそうな頬を堪え、平然を装い男は静かに応対した。
「はい。部屋は使用中にしておきますので誰も近付きません」
「ありがとうございます、待たせていただきます!」
「畏まりました。ではその様に」
素直に喜びを表す夢主に巡査も心を許し、任務中の真面目な表情を崩して部屋をあとにした。
藤田さんの奥様は実に愛らしいと、また巡査達の間で噂されるだろう。
そんな事は露知らず、夢主は斎藤を待てる喜びで気が緩んでいた。
今朝送り出したばかりで、数日で戻るというのに喜んでいる自分が可笑しい。
「また怒られちゃうかな、ふふっ」
やれやれと眉間に皺を寄せて睨まれるかもしれない。しかし不機嫌に迷惑がっても最後は許してくれる斎藤を思い浮かべ、夢主は長椅子の背凭れに体を預けた。
巡査の計らいで誰かが来る心配もない。背凭れに頭も預け、柔らかい長椅子の感触を味わった。
「気持ちいい……」
迷わず来られたが、それでも一時間は歩いた。夢主の体は疲れを思い出したように突然重たくなった。
心地よい椅子に体が安らぐ。
「一さんは凄い体力だなぁ……やっぱり、違うよ……」
そっと瞼を閉じると夢主はうとうとと揺れ、やがてすぅすぅと寝息を立て始めた。
何度か意識を引き戻されるが、部屋に差し込む暖かな陽に夢主の目は再び閉じてしまう。それを繰り返すうちに深い眠りへと入っていった。
我ながら順調に警視庁を目指していると夢主は進んだ。
迷わず目的地に辿り着き、経験を活かしてすんなり面会の目的を伝えた。
妻が来た時の対応を斎藤から指示されているのか、夢主はあの立派な面会室に通された。
「良かった、ちゃんと来れた」
夢主は長椅子に座りほぅっと安堵の息を吐いた。
斎藤の同僚に連れられて来た時を含めば三度目の長椅子。
取次ぎをすると言われて待つが、五分十分と待っても斎藤はやって来なかった。
「外に出てるのかな……」
それからもう五分が過ぎた頃、分厚い木の戸をノックする音が響いた。
「あっ……はい、どうぞ」
どう返答すべきか戸惑いながら答えると、戸が開いて若い巡査が姿を見せた。
背格好からあの赤篠かと思い顔を見るが、立っているのは見知らぬ若者だ。
「あの……」
「お待たせして申し訳ございません。藤田巡査は今、席を外しております」
「そうですか……」
「言伝やお荷物があればお預かりいたします」
「あっ……」
面会人が帰れるよう、用事を引き受けると申し出た若い巡査の心遣いに、夢主は悲しい顔を見せてしまった。
巡査は意外な反応を小さな声で笑った。
「いやっ、失礼致しました。あの、いずれはお戻りになりますので、もし宜しければこのままお待ちいただいても構いませんよ」
「本当ですか」
背筋を伸ばして大きな目で問いかける夢主に、巡査は一瞬息を呑んでから頷いた。
むやみに反応してはならない、冷静を装って対応しなければ。にやけそうな頬を堪え、平然を装い男は静かに応対した。
「はい。部屋は使用中にしておきますので誰も近付きません」
「ありがとうございます、待たせていただきます!」
「畏まりました。ではその様に」
素直に喜びを表す夢主に巡査も心を許し、任務中の真面目な表情を崩して部屋をあとにした。
藤田さんの奥様は実に愛らしいと、また巡査達の間で噂されるだろう。
そんな事は露知らず、夢主は斎藤を待てる喜びで気が緩んでいた。
今朝送り出したばかりで、数日で戻るというのに喜んでいる自分が可笑しい。
「また怒られちゃうかな、ふふっ」
やれやれと眉間に皺を寄せて睨まれるかもしれない。しかし不機嫌に迷惑がっても最後は許してくれる斎藤を思い浮かべ、夢主は長椅子の背凭れに体を預けた。
巡査の計らいで誰かが来る心配もない。背凭れに頭も預け、柔らかい長椅子の感触を味わった。
「気持ちいい……」
迷わず来られたが、それでも一時間は歩いた。夢主の体は疲れを思い出したように突然重たくなった。
心地よい椅子に体が安らぐ。
「一さんは凄い体力だなぁ……やっぱり、違うよ……」
そっと瞼を閉じると夢主はうとうとと揺れ、やがてすぅすぅと寝息を立て始めた。
何度か意識を引き戻されるが、部屋に差し込む暖かな陽に夢主の目は再び閉じてしまう。それを繰り返すうちに深い眠りへと入っていった。