19.その男、実業家
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食事を終えた子供達がそれぞれの帰路につくと、二人は片付けながら笑っていた。
「あっという間に空っぽでしたね、総司さんあんなに作ったのに」
「ははっ、みんな育ち盛りですね。見ていて気持ちがいいや」
「試衛館のみなさんもあんな感じだったんですか」
「あはははっ、比べちゃいけませんよ!あの子達みたいな品はありませんからね、お代わりの奪い合いですよ!」
「奪い合い……楽しそうっ」
「楽しいなんてものじゃありませんよ、手は出る足は出る、まぁお櫃でもひっくり返そうものなら近藤さんの拳が飛びますけどね、あはははっ」
「ふふっ、目に浮かびます。でも一さんは加わったりなさいませんよね……」
「あの人は要領がいいですからね、皆が争う間に静かにお代わりを頂くんですよ、ずるいですよね~」
「ずるいですか、ふふふっ、一さんらしいです」
賑やかな食事の間、淡々と一人食事を進める若い斎藤の姿が目に浮かぶ。夢主は口を隠して肩を揺らした。
片付けを済ませた二人は日が暮れるまで各々の時間を過ごした。
沖田はいつも通りの一人稽古をして軽く庭の畑に手を入れる。採れる野菜は少ないが、生活の足しと潤いになっていた。
夢主は掃除と夕飯の食材の買い出しだ。
広い沖田の屋敷は常に人の手が必要。伸びた草を抜いたり、まれに沖田と共に庭の手入れをしたりもする。
どこからともなく飛んでくる野草の種が庭に咲かせる季節の小花を愛でる時間はとても楽しい。
時間はあっという間に過ぎて、斎藤の帰りを待つ頃になるのだ。
夕飯を先に済ませてしまおうか、待つ限界を迎えた頃に斎藤は帰ってきた。
疲れた様子も見せず、屋敷の庭に現れた。
「良かった、一さん!どうしようかって思ってたんですよ」
「阿呆、待たずとも良いものを」
「まぁまぁそう仰らずに、斎藤さんも適当に腰掛けてくださいよ。温め直している栗ご飯がちょうど良い頃合いです」
「フン、確かに懐かしい香りだな」
「一さんわかるんですか」
「フッ、さぁて」
斎藤はニヤリとして襟元に手を掛けて首元の釦を外した。人通りが多い時間、往来では一応人目を気にして身なりを保っている。
ようやく堅苦しさから解放され、帽子を外して強張りを解くように頭を振った。
「さぁこちらへどうぞ、斎藤さん」
縁側に寄せられた二つの行灯には既に火が灯っている。肌寒い夕暮れ時、夢主は半纏を羽織っていた。
「私、運んできますね」
「僕も手伝いますよ、斎藤さん待っていてください」
「悪いな」
沖田の台所には立ち入ったことがない斎藤。勝手を良く知る二人に任せて縁側から座敷に上がり、庭にほど近い辺りに腰を下ろした。
明かりが庭に寄せられているのは縁側近くで食事しようと考えての事。
日は沈み、余光が西の空を仄暗く染めている。山へ帰る鴉の声も止み、庭では秋の虫が静かに鳴く穏やかな夜だ。
「お待たせしました」
暫く待つと二人が三人分の膳を持って戻ってきた。
嬉しそうに目の前に膳を置く夢主の姿に、仕事から解放された斎藤は顔を崩した。静かな夜、懐かしい香り、そしていつもと変わらぬ妻の笑顔。
おまけに昔と変わらぬ小憎たらしくも頼もしい男の笑顔もひとつ。
「良く作れたな。沖田君が仕込んだんだろう」
斎藤は沖田の笑顔を見て悪態を付きたくなった。
だが慣れた沖田は笑顔で応じた。
「あははっ、馬鹿にしないでくださいよ、鍋物以外もちゃんと出来ますから!……作った事はありませんけど」
「フッ、まぁ栗飯が出来ればいいんじゃないか。いい匂いだ」
感傷に浸るのは好きではないが、懐かしい味というのは悪くはない。
三人の賑やかな夕餉だ。斎藤は潔く懐かしさに身を任せた。
「あっという間に空っぽでしたね、総司さんあんなに作ったのに」
「ははっ、みんな育ち盛りですね。見ていて気持ちがいいや」
「試衛館のみなさんもあんな感じだったんですか」
「あはははっ、比べちゃいけませんよ!あの子達みたいな品はありませんからね、お代わりの奪い合いですよ!」
「奪い合い……楽しそうっ」
「楽しいなんてものじゃありませんよ、手は出る足は出る、まぁお櫃でもひっくり返そうものなら近藤さんの拳が飛びますけどね、あはははっ」
「ふふっ、目に浮かびます。でも一さんは加わったりなさいませんよね……」
「あの人は要領がいいですからね、皆が争う間に静かにお代わりを頂くんですよ、ずるいですよね~」
「ずるいですか、ふふふっ、一さんらしいです」
賑やかな食事の間、淡々と一人食事を進める若い斎藤の姿が目に浮かぶ。夢主は口を隠して肩を揺らした。
片付けを済ませた二人は日が暮れるまで各々の時間を過ごした。
沖田はいつも通りの一人稽古をして軽く庭の畑に手を入れる。採れる野菜は少ないが、生活の足しと潤いになっていた。
夢主は掃除と夕飯の食材の買い出しだ。
広い沖田の屋敷は常に人の手が必要。伸びた草を抜いたり、まれに沖田と共に庭の手入れをしたりもする。
どこからともなく飛んでくる野草の種が庭に咲かせる季節の小花を愛でる時間はとても楽しい。
時間はあっという間に過ぎて、斎藤の帰りを待つ頃になるのだ。
夕飯を先に済ませてしまおうか、待つ限界を迎えた頃に斎藤は帰ってきた。
疲れた様子も見せず、屋敷の庭に現れた。
「良かった、一さん!どうしようかって思ってたんですよ」
「阿呆、待たずとも良いものを」
「まぁまぁそう仰らずに、斎藤さんも適当に腰掛けてくださいよ。温め直している栗ご飯がちょうど良い頃合いです」
「フン、確かに懐かしい香りだな」
「一さんわかるんですか」
「フッ、さぁて」
斎藤はニヤリとして襟元に手を掛けて首元の釦を外した。人通りが多い時間、往来では一応人目を気にして身なりを保っている。
ようやく堅苦しさから解放され、帽子を外して強張りを解くように頭を振った。
「さぁこちらへどうぞ、斎藤さん」
縁側に寄せられた二つの行灯には既に火が灯っている。肌寒い夕暮れ時、夢主は半纏を羽織っていた。
「私、運んできますね」
「僕も手伝いますよ、斎藤さん待っていてください」
「悪いな」
沖田の台所には立ち入ったことがない斎藤。勝手を良く知る二人に任せて縁側から座敷に上がり、庭にほど近い辺りに腰を下ろした。
明かりが庭に寄せられているのは縁側近くで食事しようと考えての事。
日は沈み、余光が西の空を仄暗く染めている。山へ帰る鴉の声も止み、庭では秋の虫が静かに鳴く穏やかな夜だ。
「お待たせしました」
暫く待つと二人が三人分の膳を持って戻ってきた。
嬉しそうに目の前に膳を置く夢主の姿に、仕事から解放された斎藤は顔を崩した。静かな夜、懐かしい香り、そしていつもと変わらぬ妻の笑顔。
おまけに昔と変わらぬ小憎たらしくも頼もしい男の笑顔もひとつ。
「良く作れたな。沖田君が仕込んだんだろう」
斎藤は沖田の笑顔を見て悪態を付きたくなった。
だが慣れた沖田は笑顔で応じた。
「あははっ、馬鹿にしないでくださいよ、鍋物以外もちゃんと出来ますから!……作った事はありませんけど」
「フッ、まぁ栗飯が出来ればいいんじゃないか。いい匂いだ」
感傷に浸るのは好きではないが、懐かしい味というのは悪くはない。
三人の賑やかな夕餉だ。斎藤は潔く懐かしさに身を任せた。