17.詫びの印に
夢主名前設定
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「いいえ……新政府軍の側にいたけど……偽官軍だったと、それしか……」
その実態は新政府の裏切りにより仕立てられた嘘。
しかしそこまで伝えては赤篠に不審を与えるだろう。夢主は言葉を途中にして話を預けた。
「そう、偽官軍。公にはそうです」
赤篠は夢主の手が頬から離れないのを見て、手拭いを水瓶から汲んだ水に浸し、絞って手渡した。
今見せている優しい笑顔は偽物ではないようだ。
「あ……ありがとうございます」
「お構いなく。篠原さんと三木さんですが、戊辰では赤報隊に身を置いた時期があります。三木さんに至っては二番隊隊長を務めたお方。しかし一番隊率いる相楽総三と対立、やがて偽官軍として投獄されるも赦されると再度新政府軍に加わり軍曹を拝命するまでに」
「そんな事が……」
斎藤と関わりのある者が赤報隊に深く関わっていたとは。
夢主はこの先で出会うだろう赤報隊・元準隊士の青年、相楽左之助を思い浮かべた。若い彼に期待しているようにも感じた、記憶にある斎藤の行動。
……繋がりがあったんだ……一さん、本当にいろんなものを背負ってみんなと接してたんだ……
「どうした夢主」
「いいえ、一さんは凄いと思って……」
赤報隊の話から何故夫を褒める話に繋がるのか、斎藤本人も赤篠も目を大きくして驚いた。
「ははっ、良く分かりませんがそのようですね、夢主さん。広い世界の中、貴女を見つけ傍に迎えるとは藤田さんは凄いお人だ。ご協力ありがとうございました。またどこかでお会いする機会があればその時に」
「あっ……あの、お豆腐美味しかったです!」
「ははっ!」
一声上げて笑った後、にこりと柔らかい笑顔を残して赤篠と名乗っていた男は姿を消した。
「一さん……」
「顔は大丈夫か」
冷やす事に気付かないほど男に怒りをぶつけていた斎藤は反省をし、申し訳なそうに夢主の前に跪いた。
痛みで弱々しく微笑む妻を前に、斎藤は自らの口から伸びる煙草の煙に気付き、咥えていた一本を店の入り口から外へ投げ捨てた。
「すまん、煙は嫌いだったな」
「いえ……」
「傷を見せろ」
「大丈夫です、痛くありません。一さん達こそもっと痛い思いをなさって来たんでしょう、これからもきっと……」
「阿呆、俺とお前の体を一緒にするな。家を空けた挙句、お前の顔に肘を入れるなどと……」
「本当にかすっただけですよ、腫れてませんでしょう」
強がってみせるが頬の赤みは隠せない。斎藤は頭に血が上ってしまった己を悔いた。
何時如何なる時も冷静でなければならない。
身に沁みて学んできたではないか。夢主の存在があるからこそ冷静でなければ。斎藤は改めて自分を戒め己に課題を突きつけた。
しかし今は夢主の体が一番だ。手拭いの下を再度覗き症状を見た。
「阿呆が強がるな、ここで休んで帰るぞ。痛みが治まってからだ」
「でも総司さんが心配して……一さんのお仕事の報告とか、宜しいのですか」
「沖田君はやる事があるだろう。報告は後で構わん、あの男が済ませるさ。俺は東京に戻って既に川路の所へ行っている。そこでお前が一泊したと小耳に挟み、話を聞き出したんだ。本当にすまなかったな」
「いえ……」
「警視庁に泊るなど、大丈夫だったか」
「大丈夫です。先程の方が一晩中寝ずの番を……総司さんも一緒でしたし」
「そうか」
……俺の不安を取り除く、確かに手を打ち尽くしてくれてはいたようだ。責任を問うべきは川路の旦那だな。こいつはでかい貸しだぜ……
斎藤は手桶に冷たい水を汲み、夢主と共に料亭の二階へ上がり込んだ。
その実態は新政府の裏切りにより仕立てられた嘘。
しかしそこまで伝えては赤篠に不審を与えるだろう。夢主は言葉を途中にして話を預けた。
「そう、偽官軍。公にはそうです」
赤篠は夢主の手が頬から離れないのを見て、手拭いを水瓶から汲んだ水に浸し、絞って手渡した。
今見せている優しい笑顔は偽物ではないようだ。
「あ……ありがとうございます」
「お構いなく。篠原さんと三木さんですが、戊辰では赤報隊に身を置いた時期があります。三木さんに至っては二番隊隊長を務めたお方。しかし一番隊率いる相楽総三と対立、やがて偽官軍として投獄されるも赦されると再度新政府軍に加わり軍曹を拝命するまでに」
「そんな事が……」
斎藤と関わりのある者が赤報隊に深く関わっていたとは。
夢主はこの先で出会うだろう赤報隊・元準隊士の青年、相楽左之助を思い浮かべた。若い彼に期待しているようにも感じた、記憶にある斎藤の行動。
……繋がりがあったんだ……一さん、本当にいろんなものを背負ってみんなと接してたんだ……
「どうした夢主」
「いいえ、一さんは凄いと思って……」
赤報隊の話から何故夫を褒める話に繋がるのか、斎藤本人も赤篠も目を大きくして驚いた。
「ははっ、良く分かりませんがそのようですね、夢主さん。広い世界の中、貴女を見つけ傍に迎えるとは藤田さんは凄いお人だ。ご協力ありがとうございました。またどこかでお会いする機会があればその時に」
「あっ……あの、お豆腐美味しかったです!」
「ははっ!」
一声上げて笑った後、にこりと柔らかい笑顔を残して赤篠と名乗っていた男は姿を消した。
「一さん……」
「顔は大丈夫か」
冷やす事に気付かないほど男に怒りをぶつけていた斎藤は反省をし、申し訳なそうに夢主の前に跪いた。
痛みで弱々しく微笑む妻を前に、斎藤は自らの口から伸びる煙草の煙に気付き、咥えていた一本を店の入り口から外へ投げ捨てた。
「すまん、煙は嫌いだったな」
「いえ……」
「傷を見せろ」
「大丈夫です、痛くありません。一さん達こそもっと痛い思いをなさって来たんでしょう、これからもきっと……」
「阿呆、俺とお前の体を一緒にするな。家を空けた挙句、お前の顔に肘を入れるなどと……」
「本当にかすっただけですよ、腫れてませんでしょう」
強がってみせるが頬の赤みは隠せない。斎藤は頭に血が上ってしまった己を悔いた。
何時如何なる時も冷静でなければならない。
身に沁みて学んできたではないか。夢主の存在があるからこそ冷静でなければ。斎藤は改めて自分を戒め己に課題を突きつけた。
しかし今は夢主の体が一番だ。手拭いの下を再度覗き症状を見た。
「阿呆が強がるな、ここで休んで帰るぞ。痛みが治まってからだ」
「でも総司さんが心配して……一さんのお仕事の報告とか、宜しいのですか」
「沖田君はやる事があるだろう。報告は後で構わん、あの男が済ませるさ。俺は東京に戻って既に川路の所へ行っている。そこでお前が一泊したと小耳に挟み、話を聞き出したんだ。本当にすまなかったな」
「いえ……」
「警視庁に泊るなど、大丈夫だったか」
「大丈夫です。先程の方が一晩中寝ずの番を……総司さんも一緒でしたし」
「そうか」
……俺の不安を取り除く、確かに手を打ち尽くしてくれてはいたようだ。責任を問うべきは川路の旦那だな。こいつはでかい貸しだぜ……
斎藤は手桶に冷たい水を汲み、夢主と共に料亭の二階へ上がり込んだ。