17.詫びの印に
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そんな顔、しないでください」
「俺が恐ろしかったか、みっともない姿を見せちまったな」
「怖かったんじゃありません、痛みも、大丈夫です。……怖くは……ただ、驚いて……あんなに怒ってる一さん、初めて見たから……」
「俺が」
「はぃ、吃驚しました・・怒ってる姿、本気で一さんが……怒ってるの……」
確かに驚きで目は見開いたままだ。
斎藤はまたも「すまん」と小さく謝り夢主を抱き寄せた。
「驚かせたな」
「はい、あんなに怒って我を忘れるなんて……一さん、怒っていても……いつも冷静で……」
赤篠がすぐそばで片手を腰に置いたまま突っ立って、余った手で赤面してしまう己の顔を隠している。
見ているこちらが恥ずかしいと、藤田の珍しい姿から目を逸らした。
「ふっ、そんな一面がおありとは、藤田さん……ははっ」
「何がおかしい」
「いえ、申し訳ない、迂闊にも夢主さんが可愛らしいと思ってしまいましてね」
「迂闊とは失礼な」
「仕事柄、どれ程愛らしい女性相手でも心動かされぬよう心がけているのですから、仕方がありませんでしょう。しかし……参りましたね。藤田さんは全く罪なお方だ」
「黙れ」
斎藤はゆっくり夢主の体を離すと再び赤篠に向かい立ち上がった。
「堅気の女を言い包めるのはさぞ簡単だっただろう、俺の家内を使うとは笑えんな」
「違うんです一さん、私は自分で……」
「そう、自分で動くようお前が仕向けたんだろう。許さんぞ」
「待って……」
「夢主さんの言う通り、少し話をお聞きください。これは上からの指示、貴方も篠原さん達も失う訳にはいかないからです。彼らはこれで何も手出し出来なくなりました」
「ほぅ、都合がいいもんだな」
「貴方だって良いでしょう、夢主さんが狙われ続けるより」
赤篠の挑発に斎藤の拳がコキコキと鳴った。
先程の続き、いつでも構わんと語っているようだ。
「しかしこれ以上貴様と仕事をする気にはなれんな。排除しておくか」
「ご心配なく。私の任務はこの一件の解決、不安要素を取り除く事……貴方が安心して職務に励めるよう、幕末に縛られた彼らを貴方の前から取り除く」
「つまり、もう貴様の顔は見なくて良いと」
「私は今後別の任に就くでしょう。後任の手伝いには貴方の部下となる密偵達が選ばれるはずです。ご自分の目で見て使える者達を選抜すれば宜しい。来たるべき日に備え部下の把握を」
「勝手なもんだ。何故最初から俺に知らせなかった」
全てはそれで解決できたはずだ。
何故妻を巻き込んだと苦い顔をして、無意識に煙草を一本取り出し、口に咥えた。
「貴方を恐れてご内儀さんを狙ったのです。そもそも貴方に知らせれば殺してしまうでしょう、それでは困るのですよ」
「ちっ……政府連中は面倒だ。だが無下にも出来ん、か。今回の件で川路の旦那にひとつ貸しだと伝えておけ。それで終いだ。失せろ」
「では……お言葉通り」
「待ってください!」
「おや……」
夫の肘が入った頬に手を添えたまま、夢主が出て行こうとする男を引きとめた。
「あの……一さんを案じてくださってありがとうございました。それと……赤報隊って、どんな繋がりがあるのですか」
男は夢主を厳しい眼差しで見つめ、ちらりと斎藤を横目に入れた。
男は夢主がどこまで幕末と戊辰戦争を知っているか知らずにいる。だが永倉に親しげな反応を見せたからには全くの無知ではないのだろう。
「赤報隊、お前は知らんのか」
斎藤は斎藤で、歴史の流れに詳しい妻もそこまでは知らないのかと確かめた。
自身は密偵の職に就いてから嫌というほど読み込んだ資料で、赤報隊の裏での扱いも表での扱いも知っていた。
「俺が恐ろしかったか、みっともない姿を見せちまったな」
「怖かったんじゃありません、痛みも、大丈夫です。……怖くは……ただ、驚いて……あんなに怒ってる一さん、初めて見たから……」
「俺が」
「はぃ、吃驚しました・・怒ってる姿、本気で一さんが……怒ってるの……」
確かに驚きで目は見開いたままだ。
斎藤はまたも「すまん」と小さく謝り夢主を抱き寄せた。
「驚かせたな」
「はい、あんなに怒って我を忘れるなんて……一さん、怒っていても……いつも冷静で……」
赤篠がすぐそばで片手を腰に置いたまま突っ立って、余った手で赤面してしまう己の顔を隠している。
見ているこちらが恥ずかしいと、藤田の珍しい姿から目を逸らした。
「ふっ、そんな一面がおありとは、藤田さん……ははっ」
「何がおかしい」
「いえ、申し訳ない、迂闊にも夢主さんが可愛らしいと思ってしまいましてね」
「迂闊とは失礼な」
「仕事柄、どれ程愛らしい女性相手でも心動かされぬよう心がけているのですから、仕方がありませんでしょう。しかし……参りましたね。藤田さんは全く罪なお方だ」
「黙れ」
斎藤はゆっくり夢主の体を離すと再び赤篠に向かい立ち上がった。
「堅気の女を言い包めるのはさぞ簡単だっただろう、俺の家内を使うとは笑えんな」
「違うんです一さん、私は自分で……」
「そう、自分で動くようお前が仕向けたんだろう。許さんぞ」
「待って……」
「夢主さんの言う通り、少し話をお聞きください。これは上からの指示、貴方も篠原さん達も失う訳にはいかないからです。彼らはこれで何も手出し出来なくなりました」
「ほぅ、都合がいいもんだな」
「貴方だって良いでしょう、夢主さんが狙われ続けるより」
赤篠の挑発に斎藤の拳がコキコキと鳴った。
先程の続き、いつでも構わんと語っているようだ。
「しかしこれ以上貴様と仕事をする気にはなれんな。排除しておくか」
「ご心配なく。私の任務はこの一件の解決、不安要素を取り除く事……貴方が安心して職務に励めるよう、幕末に縛られた彼らを貴方の前から取り除く」
「つまり、もう貴様の顔は見なくて良いと」
「私は今後別の任に就くでしょう。後任の手伝いには貴方の部下となる密偵達が選ばれるはずです。ご自分の目で見て使える者達を選抜すれば宜しい。来たるべき日に備え部下の把握を」
「勝手なもんだ。何故最初から俺に知らせなかった」
全てはそれで解決できたはずだ。
何故妻を巻き込んだと苦い顔をして、無意識に煙草を一本取り出し、口に咥えた。
「貴方を恐れてご内儀さんを狙ったのです。そもそも貴方に知らせれば殺してしまうでしょう、それでは困るのですよ」
「ちっ……政府連中は面倒だ。だが無下にも出来ん、か。今回の件で川路の旦那にひとつ貸しだと伝えておけ。それで終いだ。失せろ」
「では……お言葉通り」
「待ってください!」
「おや……」
夫の肘が入った頬に手を添えたまま、夢主が出て行こうとする男を引きとめた。
「あの……一さんを案じてくださってありがとうございました。それと……赤報隊って、どんな繋がりがあるのですか」
男は夢主を厳しい眼差しで見つめ、ちらりと斎藤を横目に入れた。
男は夢主がどこまで幕末と戊辰戦争を知っているか知らずにいる。だが永倉に親しげな反応を見せたからには全くの無知ではないのだろう。
「赤報隊、お前は知らんのか」
斎藤は斎藤で、歴史の流れに詳しい妻もそこまでは知らないのかと確かめた。
自身は密偵の職に就いてから嫌というほど読み込んだ資料で、赤報隊の裏での扱いも表での扱いも知っていた。