17.詫びの印に

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「失礼致します」

やっと来たかと待つ声に、夢主はそっと襖を開いた。
男達は女中に目もくれず声を潜めて話を続けていたが、いつまでも酒を注がない女に異変を察した。

「こやつ……」

「斎藤の女!!」

反射的に男は刀に手を伸ばし、膝を立てて今にも斬りつけんと夢主を睨む。
激昂にも近い怒りを感じ、夢主は腰を抜かして怯んでしまった。

「ちょうど良い、お前の始末の話をしていたのだ!留守中に済ませて家に放置するつもりだったが!!」

「あぁ、暴漢に嬲らせて殺されたさまを見せ付ける、それが一番効く!!奪われる悔しさを!!奴に味わわせてやる!!」

腰を抜かした夢主、鯉口を切る二人を眺めながら密偵の男の登場を待った。
夢主の精神はもう限界である。二人の悪事は明らかだ。

「ぁ……あ……」

「だがもういい、殺せればそれで、殺して着物を剥いでやる!!」

「死ねっ!!」

殺される……目の前で抜かれた二本の刀が鈍く光り、目を瞑ると背後で大きな音が響いた。
気付いた時には密偵の男が二人の刃を受けていた。

「そこまでです!確かに検分致しました、篠原泰之進、鈴木三樹三郎!刀を引かなければ立場を失いますよ。明治の世で居場所を失う、宜しいので!」

「くっ……」

「外にも待機しております。加えて説明が必要でしたら……私が動いているのは川路警視総監の命」

川路の名が出ると、二人はよろよろと引き下がり震えながら刀を納めた。

「ご理解いただけたようですね。そうです、川路殿も更には大久保卿も、貴方がたを評価なさっている。同時に藤田さんの力も必要です。今更引きずっていてはいけません。ここで引き下がるのならば目を瞑りましょう。ただし、次はありません」

優しい顔立ちの男は笑みを絶やさぬまま、例えようのない凄みを利かせて二人の男を言いくるめた。

「ふぅ。これで私の任務は終了ですね。お二人には一度警視庁へ出向いていただきます。外に馬車が参りますので一階へ下りてください」

料亭内からの合図で馬車を回した警官により、二人は警視庁に連行されていった。
腰を抜かした夢主は手を添えられて助けを受けると、ふらふらながら立ち上がることが出来た。

「これで……はぁ、終わったんですね……」

「頑張りましたね、緊張なさいましたか」

「はぃ……とっても……」

ゆっくり呼吸を整えた夢主は赤篠に背中を支えられて階下へ移動した。あっという間の出来事だ。
これで狙われる事も斎藤に迷惑を掛ける事も無くなる。そう考えると別の意味で力が抜けた。

「このままお送りしましょう」

「でも……」

二人が料亭の出入り口に目を向けた時、目を瞑るほどの突風が吹き込んだ。

「一さっ……」

開け放たれた戸に見えたのは、調査で京都に出向いたはずの斎藤。仕事を終えて戻ったのだ。
それにしても何故この場所に、夢主は驚いて見つめるが、斎藤の手に抜き身の刀があると気が付いた。

「一さん?」

「動くな」

「えっ……」

声が聞けたと思った刹那、斎藤は刀を水平に構え、一直線に突進してきた。
一瞬の出来事に動けずにいると、夢主から離れた赤篠が身をかわして斎藤の突進を避けていた。

……一さんっ何を……

呆けたように瞳だけを動かし夫を目で追うと、左腕を伸ばし突き刺した切っ先から血が溢れ出た。
突かれたのは赤篠ではなく、店に潜んでいた見知らぬ男。
篠原達の用心棒か、それとも夢主を見つけ次第討てと依頼された男か。
何れにしろ斎藤に利き腕の肩を一突きされ、痛みで気を失っていた。
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