17.詫びの印に
夢主名前設定
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「ずっと私を見張っていたのですか」
「危険な情報が入っておりましたのでね」
「一さんには教えてくれなかったんですね……」
「怒らないでください、伝えれば彼が殴り込みに行きかねませんでした。それでは困るのです。彼らは今は政府側の人間、そして藤田さんも我々に欠かせない力ですから」
「貴方は一体……」
「藤田さんの同僚で、警視総監の命で動く仲間。それだけは確かですよ」
「密偵……」
男は何も答えずにフフッと笑い、話を進めた。
時折沖田を一瞥し、話の腰を折るなと牽制を忘れない辺りは斎藤に似ている。
「明日、今宵の報告の為に二人は面会するでしょう。その場で貴女に顔を出していただきたいのです」
「私がですか、どうしてそんな事を」
「言い方は悪いですが、囮を引き受けていただきたい」
「囮……」
「駄目です!そんな危険な事はさせられない。夢主ちゃんを差し向けるくらいでしたら僕が!」
部外者は口を出すなと訴える視線に大人しく口を閉ざしていたが、沖田は囮の提案に堪らず口を挟んだ。
元新選組幹部である自分は恨みを買っている張本人、囮には適役だ。
「貴方では意味がありません。必要なのは元新選組隊士の親しい人物。それも彼らが確実に勝てると考える相手でなければ」
「くっ……」
「今宵捕らえた男はただの捨て駒。ならば元を断たねば次が来るでしょう。夢主さんはまた狙われる」
夢主は夫の言葉を思い出しハッとした。
ただの駒に過ぎない、大元を断たねばと語っていた言葉を。
「貴女の為にも、我々の為にも。早く彼らを止めたいのです」
「でも……私、何も出来ません」
「彼らがいつも密会に使う料亭、そこへ足を運んでくださるだけで構いません。彼らが直々手を下そうとした時、現場を押さえます。企みが我々に知られたとなれば立場を守る為に彼らもそれ以上の手出しを止めるでしょう」
「一さんが戻ってからでは駄目なのですか」
「藤田さんがいないからこそ彼らは動いたのです。ご自身で判断を、夢主さん」
口を出したい沖田を抑え込むよう、笑顔で男は首を傾げた。
「我々は必ず貴女をお守りしてみせます」
「ぁ……」
男は腰を落として西洋式の忠誠の示し方を行った。夢主の手の甲にそっと唇で触れたのだ。
思わぬ行動に固まると、男は夢主の反応を見ずに立ち上がり、机上に置かれた明かりを消して扉へ歩いて行った。
「あの……」
「今夜はこのままお泊りいただき、明日馬車で近くまでご案内致します」
ドアノブに手を掛け静かに振り向いた男。
強引に、既に貴女の合意を取り付けました、そんな澄ました笑顔を夢主に向けた。
「えぇと……名前を聞いておりませんでしたね。勝手についてきたそこの客人、男の貴方を一晩一緒にさせる訳に参りません。一緒に来てください」
「あのっ、総司さんは一緒で構いませんから。とても信頼できるお方です。こんな場所ですし……」
意味有り気に目を細める男。
部外者はこれ以上首を突っ込んで欲しくないと沖田を睨む。
「総司殿……いくら夢主さんが良くてもここは警視庁。淫らな噂が出ては困ります」
自分の自制心を馬鹿にされたようで、沖田は冷たい笑みの男に厳しい視線を送り返した。
「でしたら部屋の外で待機します。僕は眠らなくても平気な体なので」
「いいでしょう。私も警備をするつもりですので。では一晩お付き合い願います」
「総司さん……」
「大丈夫。ゆっくり休んでくださいね」
「はぃ……」
二人の男が部屋を出て静かになると、異質な空間に一人取り残された気分になる。やがて男が毛布を持って戻ったが、手渡すとすぐに出て行った。
夢主は慣れない部屋で一人、一夜を明かすはめになってしまった。
「カーテン閉めてもいいかな……」
月明かりが眩しい。夢主は自分の背の倍もありそうな巨大な窓に近付き、カーテンを纏める房飾りを解いた。
分厚く立派なカーテンを手に夜空を眺めると、見事な月が浮かんでいた。満月に程近い月は大きく輝き、夢主の顔を照らしている。
「そっか、もうすぐ二夜の月見だ……すっかり忘れてた……一さんも見てるかな」
月を暫く眺めた後、カーテンを広げて窓を隠すと、美しいドレープが目の前に広がった。
僅かに出来た隙間から、白い線のように一筋の光が伸びている。
「危険な情報が入っておりましたのでね」
「一さんには教えてくれなかったんですね……」
「怒らないでください、伝えれば彼が殴り込みに行きかねませんでした。それでは困るのです。彼らは今は政府側の人間、そして藤田さんも我々に欠かせない力ですから」
「貴方は一体……」
「藤田さんの同僚で、警視総監の命で動く仲間。それだけは確かですよ」
「密偵……」
男は何も答えずにフフッと笑い、話を進めた。
時折沖田を一瞥し、話の腰を折るなと牽制を忘れない辺りは斎藤に似ている。
「明日、今宵の報告の為に二人は面会するでしょう。その場で貴女に顔を出していただきたいのです」
「私がですか、どうしてそんな事を」
「言い方は悪いですが、囮を引き受けていただきたい」
「囮……」
「駄目です!そんな危険な事はさせられない。夢主ちゃんを差し向けるくらいでしたら僕が!」
部外者は口を出すなと訴える視線に大人しく口を閉ざしていたが、沖田は囮の提案に堪らず口を挟んだ。
元新選組幹部である自分は恨みを買っている張本人、囮には適役だ。
「貴方では意味がありません。必要なのは元新選組隊士の親しい人物。それも彼らが確実に勝てると考える相手でなければ」
「くっ……」
「今宵捕らえた男はただの捨て駒。ならば元を断たねば次が来るでしょう。夢主さんはまた狙われる」
夢主は夫の言葉を思い出しハッとした。
ただの駒に過ぎない、大元を断たねばと語っていた言葉を。
「貴女の為にも、我々の為にも。早く彼らを止めたいのです」
「でも……私、何も出来ません」
「彼らがいつも密会に使う料亭、そこへ足を運んでくださるだけで構いません。彼らが直々手を下そうとした時、現場を押さえます。企みが我々に知られたとなれば立場を守る為に彼らもそれ以上の手出しを止めるでしょう」
「一さんが戻ってからでは駄目なのですか」
「藤田さんがいないからこそ彼らは動いたのです。ご自身で判断を、夢主さん」
口を出したい沖田を抑え込むよう、笑顔で男は首を傾げた。
「我々は必ず貴女をお守りしてみせます」
「ぁ……」
男は腰を落として西洋式の忠誠の示し方を行った。夢主の手の甲にそっと唇で触れたのだ。
思わぬ行動に固まると、男は夢主の反応を見ずに立ち上がり、机上に置かれた明かりを消して扉へ歩いて行った。
「あの……」
「今夜はこのままお泊りいただき、明日馬車で近くまでご案内致します」
ドアノブに手を掛け静かに振り向いた男。
強引に、既に貴女の合意を取り付けました、そんな澄ました笑顔を夢主に向けた。
「えぇと……名前を聞いておりませんでしたね。勝手についてきたそこの客人、男の貴方を一晩一緒にさせる訳に参りません。一緒に来てください」
「あのっ、総司さんは一緒で構いませんから。とても信頼できるお方です。こんな場所ですし……」
意味有り気に目を細める男。
部外者はこれ以上首を突っ込んで欲しくないと沖田を睨む。
「総司殿……いくら夢主さんが良くてもここは警視庁。淫らな噂が出ては困ります」
自分の自制心を馬鹿にされたようで、沖田は冷たい笑みの男に厳しい視線を送り返した。
「でしたら部屋の外で待機します。僕は眠らなくても平気な体なので」
「いいでしょう。私も警備をするつもりですので。では一晩お付き合い願います」
「総司さん……」
「大丈夫。ゆっくり休んでくださいね」
「はぃ……」
二人の男が部屋を出て静かになると、異質な空間に一人取り残された気分になる。やがて男が毛布を持って戻ったが、手渡すとすぐに出て行った。
夢主は慣れない部屋で一人、一夜を明かすはめになってしまった。
「カーテン閉めてもいいかな……」
月明かりが眩しい。夢主は自分の背の倍もありそうな巨大な窓に近付き、カーテンを纏める房飾りを解いた。
分厚く立派なカーテンを手に夜空を眺めると、見事な月が浮かんでいた。満月に程近い月は大きく輝き、夢主の顔を照らしている。
「そっか、もうすぐ二夜の月見だ……すっかり忘れてた……一さんも見てるかな」
月を暫く眺めた後、カーテンを広げて窓を隠すと、美しいドレープが目の前に広がった。
僅かに出来た隙間から、白い線のように一筋の光が伸びている。