17.詫びの印に
夢主名前設定
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「おかしな気配があると思ったんだ。確認してよかった……夢主ちゃんを、どうする気だ」
「警視庁へお連れします。私は藤田さんの同僚、警官です」
「警官」
ピクリと沖田の顔が歪んだ。
確かに周りに控える男達は警官の制服を身に纏っている。
「即ち、貴方が私に剣を向ければ捕える事が出来る。どうします」
「総司さん、刀を抜いちゃ駄目です!」
沖田は刀に添えた手に力を込め、思い詰めたように歯を食いしばった。
ここで暴れ捕まっては元も子もない。深く一息吐いて、鯉口をそっと元に戻した。
「分かりました。その代わり……僕も一緒に行きます。構いませんか」
近付くのも嫌がっていた警視庁に同行を求めた。
夢主は沖田が馬車に近付き、密偵の同意を得て乗り込む姿から目を離せなかった。
「さぁ夢主ちゃんも。大丈夫です。僕は構いませんよ」
差し出された手を掴み、夢主は大人しく馬車に乗り込んだ。
自分の為に避けていた場へ行く決意をしてくれた沖田。恐ろしい気配は既に消え、つと横顔を見るとにこりと目が合った。
揺れる馬車の中、自分が連れ出される理由を考える夢主は俯いて、先程聞かされた名前を繰り返した。
「篠原さんと三木さん……」
「貴女のご主人と深く関わりがありますね、ご存知ですか」
確かめるように訊ねる男の顔を見て、はっきりと頷いた。幕末に夫が在籍した御陵衛士の男達だ。
御陵衛士崩壊のきっかけは斎藤が作ったと思っているだろう。
「今も恨んでいるのでしょうか」
「永倉新八をご存知ですか」
「永倉さん……もちろんです」
「もちろん、ですか」
新選組を良く知っていると答えたようなものだ。
夢主の身の上を知らない者には奇妙な返答だろう。
「その永倉さんが御陵衛士の残党に襲われかけた事はご存知ですか。他にも元隊士が襲撃を受け殺されております」
男の言葉で夢主は上野での永倉の言葉を思い出した。
御陵衛士の生き残りに遭遇し、刀を持たなかったので肝を冷やしたと語っていた。共に話を聞く沖田は黙って渋い顔をし、密偵の男の表情を読んでいた。
「一さんも狙われているのですか」
「いいえ、それはありません。永倉さんのおかげかもしれません」
「永倉さんの」
「相手が彼ほどになると刺客は恐れを成して立ち向かえなかったそうです。そうなれば必然的に藤田さんに対してもそうなるでしょう」
「じゃあさっきの人は……」
「貴女を狙ったのです。藤田さんがいないと知って」
お前が狙われる事はないだろう、私的な恨みでも無ければな……
刺客を差し向けた二人はとても深い個人的な恨みを抱いているらしい。
「御陵衛士という場を奪い、三木にとっては兄を奪った男。篠原に関しても伊東殿は非常に大切な存在だったでしょう。しかし貴女のご主人はそれが幕末の仕事」
「知っています。でもそれは不問になったはずでは」
「新政府としてはそうです。だがそれでも認めない者はいる」
だからこそ夫の居ぬ間に妻を襲うなどと姑息な手に出たのだ。
一方で目の前の男は何を企んでいるのか、夢主にはこの男すら不安な存在だ。
「貴方は警視庁の方なのですか、何をなさりたいのですか。そのお二人をどうなさるおつもりなので……」
「それは着いてからお話します」
「……わかりました」
ガラガラと音を立てて車輪が地面を削る音が大きくなり、馬車は速度を上げた。
残された轍はとても深いものだった。
やがて馬車は無事に警視庁に到着した。
男は間違いなく斎藤の同僚で、優しい表情で声を掛け、手を取り馬車から降ろしてくれる態度はとても紳士だ。
続いて降りる沖田にも差別無く笑顔を向けている。
二人が通されたのは、先日斎藤が案内してくれた立派な面会室。
男が置いた洋燈が照らす室内は、明るかったあの時とは全く異なって見える。それでも大きな窓から差し込む月明かりは美しかった。
「先日いらしておいででしたね」
気付いていなかったが、男は夢主の存在を確認していたのか。
改めて男の顔を見上げ、ある事に気が付いた。
「あの時のお巡りさん!」
「ははっ、ようやく気が付いていただけましたね、お団子は美味しかったですか」
真っ赤な顔で頷いた。
目の前の男は、斎藤を訪ね始めて警視庁に来た帰り道、迷いかけた夢主を団子屋へ導いてくれた警官だった。
「警視庁へお連れします。私は藤田さんの同僚、警官です」
「警官」
ピクリと沖田の顔が歪んだ。
確かに周りに控える男達は警官の制服を身に纏っている。
「即ち、貴方が私に剣を向ければ捕える事が出来る。どうします」
「総司さん、刀を抜いちゃ駄目です!」
沖田は刀に添えた手に力を込め、思い詰めたように歯を食いしばった。
ここで暴れ捕まっては元も子もない。深く一息吐いて、鯉口をそっと元に戻した。
「分かりました。その代わり……僕も一緒に行きます。構いませんか」
近付くのも嫌がっていた警視庁に同行を求めた。
夢主は沖田が馬車に近付き、密偵の同意を得て乗り込む姿から目を離せなかった。
「さぁ夢主ちゃんも。大丈夫です。僕は構いませんよ」
差し出された手を掴み、夢主は大人しく馬車に乗り込んだ。
自分の為に避けていた場へ行く決意をしてくれた沖田。恐ろしい気配は既に消え、つと横顔を見るとにこりと目が合った。
揺れる馬車の中、自分が連れ出される理由を考える夢主は俯いて、先程聞かされた名前を繰り返した。
「篠原さんと三木さん……」
「貴女のご主人と深く関わりがありますね、ご存知ですか」
確かめるように訊ねる男の顔を見て、はっきりと頷いた。幕末に夫が在籍した御陵衛士の男達だ。
御陵衛士崩壊のきっかけは斎藤が作ったと思っているだろう。
「今も恨んでいるのでしょうか」
「永倉新八をご存知ですか」
「永倉さん……もちろんです」
「もちろん、ですか」
新選組を良く知っていると答えたようなものだ。
夢主の身の上を知らない者には奇妙な返答だろう。
「その永倉さんが御陵衛士の残党に襲われかけた事はご存知ですか。他にも元隊士が襲撃を受け殺されております」
男の言葉で夢主は上野での永倉の言葉を思い出した。
御陵衛士の生き残りに遭遇し、刀を持たなかったので肝を冷やしたと語っていた。共に話を聞く沖田は黙って渋い顔をし、密偵の男の表情を読んでいた。
「一さんも狙われているのですか」
「いいえ、それはありません。永倉さんのおかげかもしれません」
「永倉さんの」
「相手が彼ほどになると刺客は恐れを成して立ち向かえなかったそうです。そうなれば必然的に藤田さんに対してもそうなるでしょう」
「じゃあさっきの人は……」
「貴女を狙ったのです。藤田さんがいないと知って」
お前が狙われる事はないだろう、私的な恨みでも無ければな……
刺客を差し向けた二人はとても深い個人的な恨みを抱いているらしい。
「御陵衛士という場を奪い、三木にとっては兄を奪った男。篠原に関しても伊東殿は非常に大切な存在だったでしょう。しかし貴女のご主人はそれが幕末の仕事」
「知っています。でもそれは不問になったはずでは」
「新政府としてはそうです。だがそれでも認めない者はいる」
だからこそ夫の居ぬ間に妻を襲うなどと姑息な手に出たのだ。
一方で目の前の男は何を企んでいるのか、夢主にはこの男すら不安な存在だ。
「貴方は警視庁の方なのですか、何をなさりたいのですか。そのお二人をどうなさるおつもりなので……」
「それは着いてからお話します」
「……わかりました」
ガラガラと音を立てて車輪が地面を削る音が大きくなり、馬車は速度を上げた。
残された轍はとても深いものだった。
やがて馬車は無事に警視庁に到着した。
男は間違いなく斎藤の同僚で、優しい表情で声を掛け、手を取り馬車から降ろしてくれる態度はとても紳士だ。
続いて降りる沖田にも差別無く笑顔を向けている。
二人が通されたのは、先日斎藤が案内してくれた立派な面会室。
男が置いた洋燈が照らす室内は、明るかったあの時とは全く異なって見える。それでも大きな窓から差し込む月明かりは美しかった。
「先日いらしておいででしたね」
気付いていなかったが、男は夢主の存在を確認していたのか。
改めて男の顔を見上げ、ある事に気が付いた。
「あの時のお巡りさん!」
「ははっ、ようやく気が付いていただけましたね、お団子は美味しかったですか」
真っ赤な顔で頷いた。
目の前の男は、斎藤を訪ね始めて警視庁に来た帰り道、迷いかけた夢主を団子屋へ導いてくれた警官だった。