17.詫びの印に
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夢主が望んだ通り、翌日も便利な豆腐屋はやって来た。
夕べの豆腐は沖田にも好評で、斎藤が戻ったらぜひ食べさせてあげたいと考えるほど美味しかった。
「これはこれは、昨日のお嬢さん」
「お嬢さんだなんてっ」
昨日は流れる作業を見せる豆腐屋の手元が気になり、その顔を見ていなかった。初めて顔を見る豆腐屋は若く綺麗な顔立ちの青年だった。
そんな若者に揶揄われた夢主は恥ずかしそうに桶を差し出した。
「今日も二丁ですか」
「えっ、えぇ、今日も二丁で」
気まずい沈黙の中でも男は笑顔を変えずに豆腐を桶に移した。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
お代を払い小さく会釈を残して細い路地に入ろうとした夢主に、豆腐屋が声を掛けた。
「裏道は人けも無く狭くて危険です、お気をつけて」
「はい……」
……変な豆腐屋さん……もしかして危ない人なのかな……
俯いて戻ると沖田は「どうしたの?」と首を傾けてきた。
素直に豆腐屋が気になったと答えるしかない。
「お豆腐屋さん、どんな男なんです」
「こう……色が白くてお綺麗で、笑顔が絶えなくて、器用な方で豆腐を移すのが上手です。お嬢さんって揶揄ってきて、裏道に気をつけてと優しくて……」
「そうですか。色は白いのは出歩かず常に豆腐を店で作っているから……器用なのは慣れているから……お客さんを気遣って……その、いいお豆腐屋さんですね」
「……はい……確かに……」
良く考えてみれば商売に慣れた優しい豆腐屋だ。
警戒しすぎた自分を自惚れと恥らうが、沖田は優しく笑ってくれた。
「あははっ、いいですよ。気になるのでしたら明日は僕も一緒に行きましょう。すぐ近くまで来ているのでしょう」
「はい、家のすぐ傍です。前の通りをいらっしゃるので」
「では明日も来るでしょう。美味しいお豆腐ですからね、僕もお礼を言いましょう」
なんて恥ずかしい勘違い。
夢主はその夜の帰り道、沖田の屋敷から出て細い裏道を見て、自分の勘違いを再認識した。
我が家まで近すぎて気にしていないが、道は確かに暗くて細い。
普通に考えれば夕方、女子供が一人通り抜けるには危ない道だ。
昼間は裏口同士、すぐ目の前で行き来が出来る。
暫く家を空ける時は正面の門から出入りするが、それでも裏道を通れば近く、夢主の感覚は麻痺していた。
「私ったら恥ずかしい……」
ただの親切だったと思い知り、長い息を吐いて裏口を通り過ぎた時、後ろで大きな物が動く気配を感じた。
振り返った夢主は驚きで声を失った。
大きな男が崩れ落ちたのだ。何が起きたのか把握できずに戸惑っていると、今度は突然背後から口を塞がれた。
「っ……」
「ご安心を、声を上げないでいただきたいだけです。私は藤田さんの同僚です」
「一さんの……」
押さえをそっと解かれた夢主は呟いた。
振り向いて見えた顔は昼間見た顔と同じものだった。
「お豆腐屋さんっ」
「しーっ……」
にこにこと微笑んだまま再度夢主の口に手を置いた男。
首を傾げてしーっとして見せた。
「一緒に警視庁まで来ていただけますか。少しお話がしたいもので」
「っ、今からですか、こんな時間に」
手を離した男の手が、驚く夢主の両肩を抱える。
「時間がありません。通りに馬車がおります。こう言えば話を聞いてくださるでしょうか、篠原泰之進、そして三木三郎」
覚えのある名に夢主の顔は青ざめた。
幕末の頃、斎藤に裏切られたと考える男達だ。
冷たい夜風の所為ではない寒気を感じる。
「お心当たりがおありですね、馬車に乗っていただけますか」
夢主は黙って頷き、男の後に続いた。何かを引きずる音で後ろを見れば、路地に倒れた大男が警官の男達に抱えられ運ばれていく。連行後は取調べだろう。
馬車の扉が開かれ、初めて見る空間に緊張し立ちすくむと、隣で手を添えてくれていた男が突如鋭く振り返った。
「夢主ちゃんをどこへ連れて行くのです」
「総司さん!」
鯉口を切った沖田がゆっくりと歩み寄ってくる。
いつも絶やさぬ笑顔を潜め、激しく怒りの気を放っていた。その迫力に、男を連行する警官達も動きが止まった。
夕べの豆腐は沖田にも好評で、斎藤が戻ったらぜひ食べさせてあげたいと考えるほど美味しかった。
「これはこれは、昨日のお嬢さん」
「お嬢さんだなんてっ」
昨日は流れる作業を見せる豆腐屋の手元が気になり、その顔を見ていなかった。初めて顔を見る豆腐屋は若く綺麗な顔立ちの青年だった。
そんな若者に揶揄われた夢主は恥ずかしそうに桶を差し出した。
「今日も二丁ですか」
「えっ、えぇ、今日も二丁で」
気まずい沈黙の中でも男は笑顔を変えずに豆腐を桶に移した。
「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
お代を払い小さく会釈を残して細い路地に入ろうとした夢主に、豆腐屋が声を掛けた。
「裏道は人けも無く狭くて危険です、お気をつけて」
「はい……」
……変な豆腐屋さん……もしかして危ない人なのかな……
俯いて戻ると沖田は「どうしたの?」と首を傾けてきた。
素直に豆腐屋が気になったと答えるしかない。
「お豆腐屋さん、どんな男なんです」
「こう……色が白くてお綺麗で、笑顔が絶えなくて、器用な方で豆腐を移すのが上手です。お嬢さんって揶揄ってきて、裏道に気をつけてと優しくて……」
「そうですか。色は白いのは出歩かず常に豆腐を店で作っているから……器用なのは慣れているから……お客さんを気遣って……その、いいお豆腐屋さんですね」
「……はい……確かに……」
良く考えてみれば商売に慣れた優しい豆腐屋だ。
警戒しすぎた自分を自惚れと恥らうが、沖田は優しく笑ってくれた。
「あははっ、いいですよ。気になるのでしたら明日は僕も一緒に行きましょう。すぐ近くまで来ているのでしょう」
「はい、家のすぐ傍です。前の通りをいらっしゃるので」
「では明日も来るでしょう。美味しいお豆腐ですからね、僕もお礼を言いましょう」
なんて恥ずかしい勘違い。
夢主はその夜の帰り道、沖田の屋敷から出て細い裏道を見て、自分の勘違いを再認識した。
我が家まで近すぎて気にしていないが、道は確かに暗くて細い。
普通に考えれば夕方、女子供が一人通り抜けるには危ない道だ。
昼間は裏口同士、すぐ目の前で行き来が出来る。
暫く家を空ける時は正面の門から出入りするが、それでも裏道を通れば近く、夢主の感覚は麻痺していた。
「私ったら恥ずかしい……」
ただの親切だったと思い知り、長い息を吐いて裏口を通り過ぎた時、後ろで大きな物が動く気配を感じた。
振り返った夢主は驚きで声を失った。
大きな男が崩れ落ちたのだ。何が起きたのか把握できずに戸惑っていると、今度は突然背後から口を塞がれた。
「っ……」
「ご安心を、声を上げないでいただきたいだけです。私は藤田さんの同僚です」
「一さんの……」
押さえをそっと解かれた夢主は呟いた。
振り向いて見えた顔は昼間見た顔と同じものだった。
「お豆腐屋さんっ」
「しーっ……」
にこにこと微笑んだまま再度夢主の口に手を置いた男。
首を傾げてしーっとして見せた。
「一緒に警視庁まで来ていただけますか。少しお話がしたいもので」
「っ、今からですか、こんな時間に」
手を離した男の手が、驚く夢主の両肩を抱える。
「時間がありません。通りに馬車がおります。こう言えば話を聞いてくださるでしょうか、篠原泰之進、そして三木三郎」
覚えのある名に夢主の顔は青ざめた。
幕末の頃、斎藤に裏切られたと考える男達だ。
冷たい夜風の所為ではない寒気を感じる。
「お心当たりがおありですね、馬車に乗っていただけますか」
夢主は黙って頷き、男の後に続いた。何かを引きずる音で後ろを見れば、路地に倒れた大男が警官の男達に抱えられ運ばれていく。連行後は取調べだろう。
馬車の扉が開かれ、初めて見る空間に緊張し立ちすくむと、隣で手を添えてくれていた男が突如鋭く振り返った。
「夢主ちゃんをどこへ連れて行くのです」
「総司さん!」
鯉口を切った沖田がゆっくりと歩み寄ってくる。
いつも絶やさぬ笑顔を潜め、激しく怒りの気を放っていた。その迫力に、男を連行する警官達も動きが止まった。