17.詫びの印に
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斎藤は船で海路を行き大阪に上陸し、陸路で京に入ると馴染みの地を訪れて新しい情報を確認した。
「こんなに早く戻るとはな」
後に京都の警察署が置かれる地、斎藤が京の町を歩いた頃には京都守護職上屋敷が置かれていた地だ。
「皮肉なもんだ」
幕末、京の治安を守る任を受けた京都守護職、その御預かりとなり市中を駆け回った新選組。
時代が明治に移った今も、同じ地に京の治安維持を担う組織が置かれている事に斎藤は皮肉を感じた。
今回京都へやって来たのは、昨年に起きた暗殺事件の再調査だ。
殺されたのは二人、どちらも明治維新に深く関わったとされる明治十傑。
調書に目を通し当時の担当者に話を聞いた斎藤は、己の目で現場を見ようと京都の町を歩いた。
最初に殺された横井小楠・暗殺の地は京都守護職屋敷の跡地から程近い。京都御所の南辺を辿り南東の角に出ればすぐそこだ。
二人目に殺された大村益次郎・暗殺の地は第一の暗殺の地より少しばかり歩くが、斎藤にとっては良く知る道である。
僅かに東へ進み鴨川手前を南下すれば、鴨川から水を取る高瀬川が始まる。
川沿いには様々な店が並び繁盛しているが、大阪まで続く大事な水路であるこの川沿いは、かつて諸藩の藩邸が並んでいた。
動乱の京で大きな存在を示した通りだ。
明治政府の公職である警官の制服で身を固めているとは言え、この地を一人で歩けば自ずと気が引き締まる。
『私利、私怨によらない旧幕時代の行為は、罪を問わない。公務は処罰の対象外とする』
新政府によりそんな布達が行われたが、聞く耳を持たぬ者もこの京都には残るだろう。
斎藤は気を尖らせて懐かしの道を南下した。
旅籠の調べはもちろん、周辺の聞き込みや調査も終えた斎藤。
何事も無かったかのように賑わう付近の様子に溜め息を吐いた。
「こんなもんだろう」
ぼやく顔は川の更に南を向いていた。
視線の先には池田屋の跡地がある。自身にも深く関わった池田屋事件。
池田屋はそのまま商売を続けられず、場所を変えたり業種を変えたり、あの手この手を打って店は続けているが繁盛出来ずにいるらしい。そんな情報を小耳に挟んでいた。
決して己のせいではない、だが無関係でも無い。それに志士達に場を提供した池田屋にも責任はある。
斎藤は冷静にならなければ続かない自らの仕事を自覚していた。
「そのまま店が続いてもおかしくないが、それにしても」
今回暗殺の現場となった旅籠は今も変わらぬ繁盛を見せていた。
辺りを見回せば活気溢れる通りの状況が良く分かる。
京都に到着し渡された情報と聞き込みで得た情報が、一年経った今でもぴたりと一致している。
それ程までに周辺の人々の記憶に残る事件だったのだろう。それなのにこの賑わいだ。
維新十傑の一人がかつての同胞、元長州藩士達に襲われ滅多斬りにされた。その傷が元で後日死亡している。
悲鳴や怒号は辺りにしっかり響いただろう。それだけの切り傷、刀を持った男達が出てくれば異様な光景を作り出す。
血が目立たぬ暗い時間が幸いし、人々に恐怖は残っていないのか。
血慣れしてしまった京の人々もまた並の人間ではないのかもしれない。
「彰義隊を滅した男……か」
感傷的になってはいけないが、懐かしい景色に思い出さざるを得ない仲間との日々。
かつての仲間、原田がいたかもしれない上野の山に大砲を打ち込んだ男の死を、自分は調べているのだ。
戦での死は互いに百も承知。斎藤は大きく息を吸って吐き出し、己の平常心を確認した。
「だが、やはり妙だ」
当時の調査も調べは充分だ。欠けている項目も無ければ現地の証言との不一致も無い。
怪しいとすればそんな現場に再び己を向けさせた川路とあの男だろう。
「何を企んでいる」
よもや見落としはあるまいが、念の為に今一度、拠点に戻り情報を確認し整理すべきだ。
それでも尚、不審な点が微塵も無ければすぐに東京へ戻るべきだ。
理由は分からないが謀られたのか。
国の為に民の為に、警視総監である自分に力を貸せ、そして俺の力を利用しろと言って来た男、川路。信念は確かなはず。
斎藤は舌打ちを残して懐かしの地をあとに、来た道を急ぎ戻って行った。
「こんなに早く戻るとはな」
後に京都の警察署が置かれる地、斎藤が京の町を歩いた頃には京都守護職上屋敷が置かれていた地だ。
「皮肉なもんだ」
幕末、京の治安を守る任を受けた京都守護職、その御預かりとなり市中を駆け回った新選組。
時代が明治に移った今も、同じ地に京の治安維持を担う組織が置かれている事に斎藤は皮肉を感じた。
今回京都へやって来たのは、昨年に起きた暗殺事件の再調査だ。
殺されたのは二人、どちらも明治維新に深く関わったとされる明治十傑。
調書に目を通し当時の担当者に話を聞いた斎藤は、己の目で現場を見ようと京都の町を歩いた。
最初に殺された横井小楠・暗殺の地は京都守護職屋敷の跡地から程近い。京都御所の南辺を辿り南東の角に出ればすぐそこだ。
二人目に殺された大村益次郎・暗殺の地は第一の暗殺の地より少しばかり歩くが、斎藤にとっては良く知る道である。
僅かに東へ進み鴨川手前を南下すれば、鴨川から水を取る高瀬川が始まる。
川沿いには様々な店が並び繁盛しているが、大阪まで続く大事な水路であるこの川沿いは、かつて諸藩の藩邸が並んでいた。
動乱の京で大きな存在を示した通りだ。
明治政府の公職である警官の制服で身を固めているとは言え、この地を一人で歩けば自ずと気が引き締まる。
『私利、私怨によらない旧幕時代の行為は、罪を問わない。公務は処罰の対象外とする』
新政府によりそんな布達が行われたが、聞く耳を持たぬ者もこの京都には残るだろう。
斎藤は気を尖らせて懐かしの道を南下した。
旅籠の調べはもちろん、周辺の聞き込みや調査も終えた斎藤。
何事も無かったかのように賑わう付近の様子に溜め息を吐いた。
「こんなもんだろう」
ぼやく顔は川の更に南を向いていた。
視線の先には池田屋の跡地がある。自身にも深く関わった池田屋事件。
池田屋はそのまま商売を続けられず、場所を変えたり業種を変えたり、あの手この手を打って店は続けているが繁盛出来ずにいるらしい。そんな情報を小耳に挟んでいた。
決して己のせいではない、だが無関係でも無い。それに志士達に場を提供した池田屋にも責任はある。
斎藤は冷静にならなければ続かない自らの仕事を自覚していた。
「そのまま店が続いてもおかしくないが、それにしても」
今回暗殺の現場となった旅籠は今も変わらぬ繁盛を見せていた。
辺りを見回せば活気溢れる通りの状況が良く分かる。
京都に到着し渡された情報と聞き込みで得た情報が、一年経った今でもぴたりと一致している。
それ程までに周辺の人々の記憶に残る事件だったのだろう。それなのにこの賑わいだ。
維新十傑の一人がかつての同胞、元長州藩士達に襲われ滅多斬りにされた。その傷が元で後日死亡している。
悲鳴や怒号は辺りにしっかり響いただろう。それだけの切り傷、刀を持った男達が出てくれば異様な光景を作り出す。
血が目立たぬ暗い時間が幸いし、人々に恐怖は残っていないのか。
血慣れしてしまった京の人々もまた並の人間ではないのかもしれない。
「彰義隊を滅した男……か」
感傷的になってはいけないが、懐かしい景色に思い出さざるを得ない仲間との日々。
かつての仲間、原田がいたかもしれない上野の山に大砲を打ち込んだ男の死を、自分は調べているのだ。
戦での死は互いに百も承知。斎藤は大きく息を吸って吐き出し、己の平常心を確認した。
「だが、やはり妙だ」
当時の調査も調べは充分だ。欠けている項目も無ければ現地の証言との不一致も無い。
怪しいとすればそんな現場に再び己を向けさせた川路とあの男だろう。
「何を企んでいる」
よもや見落としはあるまいが、念の為に今一度、拠点に戻り情報を確認し整理すべきだ。
それでも尚、不審な点が微塵も無ければすぐに東京へ戻るべきだ。
理由は分からないが謀られたのか。
国の為に民の為に、警視総監である自分に力を貸せ、そして俺の力を利用しろと言って来た男、川路。信念は確かなはず。
斎藤は舌打ちを残して懐かしの地をあとに、来た道を急ぎ戻って行った。