17.詫びの印に
夢主名前設定
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「刀を奪われるなんて武士の風上にも置けない。でもそれで命を落とす事態になるなんて、これからの時代にあってはならないんです。そうは思いませんか」
夢主は再びぽかんと口を開けてしまった。
刀に命を託し時代を駆けた沖田からそんな言葉を聞くとは思わなかったのだ。
「面白い顔をしていますよ、あははっ。そんなに意外な答えでしたか」
「はぃ……」
「大丈夫、僕は決して命を粗末にはしません。僕の刀を狙う人物がいる、そうなんですか」
夢主は戸惑いながらも小さく頷いた。
どこかに潜む小さな修羅が、いつか奪いに来るかもしれない。
「いつかは分かりません、本当に狙っているのかも……でも記憶の中ではあの刀は別の人の手にあったんです」
「そう……斎藤さんも刀を狙った盗みが発生していると話していました」
……とは言え、僕の刀を奪おうとはなかなか、やってくれる人がいるものです……
譲れないものは譲れない、言葉とは裏腹に沖田の本音は消えはしない。
しかし夢主が告げた盗人の予想に笑顔が消えた。
「子供なんです、多分お団子屋さんで会ったって話していた……男の子」
「まさか……」
別段変わった様子はなく手に竹刀だこも無かった。
沖田は信じられないと呟き、思わず腰の刀を握り締めた。とても綺麗な目をした子供だった。
「間違いないのですか」
「はい、記憶では刀を手にしていたのは間違いなく成長したその子……私もお団子屋さんであった子」
「あの子、僕が姉のもとを離れたのと同じ年頃でした。そんな……」
夢主の話が違えたことは無い。
どうか歴史が変わりますように、沖田は愛らしかった子の顔を思い出し、彼が道を踏み外さずに優しい世界で生きていけるよう強く願った。
汗を掻いた体を冷やしていく秋風は、夢主が纏めた落ち葉の山を崩して吹き抜けていった。
斎藤は京都出立前に川路と面会していた。
任務の指示を仰ぐ為と、例の密偵仲間について確かめる為だ。
「彼は確かに私の下で働いている」
「間違いないな」
「あぁ。お前の力は頼りにしている、嘘は吐かん」
「フン、あんたの国を思う気持ちは確かだな。手足となって動いてやるんだ、しっかり俺達を動かせよ」
「御託はいい、早く京都へ行って来い」
「分かったよ、留守は頼んだぜ」
斎藤は警視総監の川路に対して冗談を残し部屋をあとにした。
組織の中では遥か上の立場にいる川路だが、斎藤に対しては他の部下のように上手く扱えずにいた。ただその力と信念だけは頼りにしている。
「やれやれ……腕は密偵一なのは確かだが」
「お疲れですね、警視総監殿」
斎藤が出て行ってすぐに入ってきたのは、川路がその存在を認めた赤篠だ。
京都へ向かう同僚の姿を確認し、入れ替わるようにやって来た。
「お前か……斎藤とは上手くやっているのか」
「やっているとは思うのですがね、好かれてはいないようです」
「上手くやっていると言う訳か」
大きな溜め息を一つ吐いて、川路は背を向けた。
その決して大きくない背中に赤篠は話を続ける。
「これで動くでしょう」
「幕末の恨みに憑りつかれた奴ら」
「生き残った新選組に喧嘩を売るが負け続き、狙う相手を縁の者に変えた……ありがちな話です」
「斎藤は今の政府になくてはならん力だ。かといって奴らも国の役に立っている。いつまでも幕末を引きずってもらっては困るのだよ。新選組の生き残りに喧嘩を売るなど、返り討ちに遭うだけと言うのが分からんのか」
「まぁ藤田さんは負けないでしょうが」
「理由無く高官殺しをさせてしまっては斎藤も置いておけなくなる。斎藤が気付く前に、奴らが動いてからでなければ」
「あの方々は……」
不審な動きを見せる明治政府に関わる者。
斎藤に対し一方的な恨みを持ち果たさんと狙う者達の多くは、戊辰戦争後は新政府の為に働き権力を得ていた。
「藤田さんが東京を離れた今が好機と見るでしょう。鬼の居ぬ間に済ませるしかないようです」
「狼の居ぬ間に……な」
夢主は再びぽかんと口を開けてしまった。
刀に命を託し時代を駆けた沖田からそんな言葉を聞くとは思わなかったのだ。
「面白い顔をしていますよ、あははっ。そんなに意外な答えでしたか」
「はぃ……」
「大丈夫、僕は決して命を粗末にはしません。僕の刀を狙う人物がいる、そうなんですか」
夢主は戸惑いながらも小さく頷いた。
どこかに潜む小さな修羅が、いつか奪いに来るかもしれない。
「いつかは分かりません、本当に狙っているのかも……でも記憶の中ではあの刀は別の人の手にあったんです」
「そう……斎藤さんも刀を狙った盗みが発生していると話していました」
……とは言え、僕の刀を奪おうとはなかなか、やってくれる人がいるものです……
譲れないものは譲れない、言葉とは裏腹に沖田の本音は消えはしない。
しかし夢主が告げた盗人の予想に笑顔が消えた。
「子供なんです、多分お団子屋さんで会ったって話していた……男の子」
「まさか……」
別段変わった様子はなく手に竹刀だこも無かった。
沖田は信じられないと呟き、思わず腰の刀を握り締めた。とても綺麗な目をした子供だった。
「間違いないのですか」
「はい、記憶では刀を手にしていたのは間違いなく成長したその子……私もお団子屋さんであった子」
「あの子、僕が姉のもとを離れたのと同じ年頃でした。そんな……」
夢主の話が違えたことは無い。
どうか歴史が変わりますように、沖田は愛らしかった子の顔を思い出し、彼が道を踏み外さずに優しい世界で生きていけるよう強く願った。
汗を掻いた体を冷やしていく秋風は、夢主が纏めた落ち葉の山を崩して吹き抜けていった。
斎藤は京都出立前に川路と面会していた。
任務の指示を仰ぐ為と、例の密偵仲間について確かめる為だ。
「彼は確かに私の下で働いている」
「間違いないな」
「あぁ。お前の力は頼りにしている、嘘は吐かん」
「フン、あんたの国を思う気持ちは確かだな。手足となって動いてやるんだ、しっかり俺達を動かせよ」
「御託はいい、早く京都へ行って来い」
「分かったよ、留守は頼んだぜ」
斎藤は警視総監の川路に対して冗談を残し部屋をあとにした。
組織の中では遥か上の立場にいる川路だが、斎藤に対しては他の部下のように上手く扱えずにいた。ただその力と信念だけは頼りにしている。
「やれやれ……腕は密偵一なのは確かだが」
「お疲れですね、警視総監殿」
斎藤が出て行ってすぐに入ってきたのは、川路がその存在を認めた赤篠だ。
京都へ向かう同僚の姿を確認し、入れ替わるようにやって来た。
「お前か……斎藤とは上手くやっているのか」
「やっているとは思うのですがね、好かれてはいないようです」
「上手くやっていると言う訳か」
大きな溜め息を一つ吐いて、川路は背を向けた。
その決して大きくない背中に赤篠は話を続ける。
「これで動くでしょう」
「幕末の恨みに憑りつかれた奴ら」
「生き残った新選組に喧嘩を売るが負け続き、狙う相手を縁の者に変えた……ありがちな話です」
「斎藤は今の政府になくてはならん力だ。かといって奴らも国の役に立っている。いつまでも幕末を引きずってもらっては困るのだよ。新選組の生き残りに喧嘩を売るなど、返り討ちに遭うだけと言うのが分からんのか」
「まぁ藤田さんは負けないでしょうが」
「理由無く高官殺しをさせてしまっては斎藤も置いておけなくなる。斎藤が気付く前に、奴らが動いてからでなければ」
「あの方々は……」
不審な動きを見せる明治政府に関わる者。
斎藤に対し一方的な恨みを持ち果たさんと狙う者達の多くは、戊辰戦争後は新政府の為に働き権力を得ていた。
「藤田さんが東京を離れた今が好機と見るでしょう。鬼の居ぬ間に済ませるしかないようです」
「狼の居ぬ間に……な」