14.忘れた頃に
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ほら穴に入って間もなく、強い雨が降り始めた。二人が感じた匂いは正しかったのだ。
降り出した雨は山の空気を冷やし、土や岩までも冷やしていく。背に当たるごつごつとした冷たい岩が、更に冷たく感じられる。
火を焚く間もなかった二人、洞穴の中の温度は徐々に下がっていった。
目を閉じて休む志々雄とは対照的に、宗次郎はあまりの豪雨に眠れずにいた。
ほら穴の入り口は崩れてしまわないだろうか、土砂が流れては来ないだろうか。子供ならば自然の驚異に慄くだろう。
心身を守る為、自分を押し殺し感情を捨ててきた宗次郎も、全ての物に対する恐れを捨て切れていなければ、同じように感じるかもしれない。
やがてほら穴の外の暗闇が白く光り、大きな轟音と共に地面が揺れた。雷だ。
空を裂く雷鳴が繰り返され、宗次郎の目が刹那に大きく見開いた。
「なんだ、宗次郎。雷が怖いのか」
「そんな事ありませんよ、いやだなぁ志々雄さん」
笑顔で答える宗次郎は、志々雄の隣に移動していた。
「じゃあ、どうしてこっちに来た」
「志々雄さんと一緒にいるとあったかいからです。雨が降り出してとても寒いですから」
にこにこと笑いながら、膝を抱えて小さく座る宗次郎の体が小さく震えている。
……まさか雷雨に怯えているのか、あの夜を思い出して震えているんじゃねぇだろうな……
雷の夜、宗次郎を連れ出してまだ数ヶ月。
顔は絶えず笑っているが、未だ残るものがあるのか。虐げられた日々から逃れられた日、宗次郎が初めて人を手に掛けた日。今宵のような雷雨が夜空を荒らしていた。
「お前、そんな事でどうする」
志々雄はそんな事では俺の刀にはなれんと一蹴するか考えながら、笑顔を崩さず小刻みに震える小さな体を見据えた。
突き刺さる志々雄の視線に本音を感じてか、宗次郎は尚も笑顔で続けた。
「すみません、寒くて、あははっ」
「……フン、まぁいいさ。俺は熱くてしょうがねぇ。お前が冷ましてくれるってんならくっついててもいいぜ」
「本当ですか!」
「あぁ。ただし、今夜だけだぞ」
「わぁ!ありがとうございます!志々雄さんの隣は本当に温かいです」
「まぁな、確かに地獄の業火の残り火で俺の体温は高いからな」
寄り添うように志々雄にもたれる宗次郎は、嬉しそうに頷いて目を閉じた。
「強ければ生き、弱ければ死ぬ……」
「あっ?」
「強くなるんです、僕はもっと強く……」
……強くなれば何も恐れる事は無い。誰よりも強くて正しい、この志々雄さんのように強く生きるんだ……
温かい志々雄の体温を感じ、宗次郎は雷と篠突く雨の恐怖を忘れていった。
降り出した雨は山の空気を冷やし、土や岩までも冷やしていく。背に当たるごつごつとした冷たい岩が、更に冷たく感じられる。
火を焚く間もなかった二人、洞穴の中の温度は徐々に下がっていった。
目を閉じて休む志々雄とは対照的に、宗次郎はあまりの豪雨に眠れずにいた。
ほら穴の入り口は崩れてしまわないだろうか、土砂が流れては来ないだろうか。子供ならば自然の驚異に慄くだろう。
心身を守る為、自分を押し殺し感情を捨ててきた宗次郎も、全ての物に対する恐れを捨て切れていなければ、同じように感じるかもしれない。
やがてほら穴の外の暗闇が白く光り、大きな轟音と共に地面が揺れた。雷だ。
空を裂く雷鳴が繰り返され、宗次郎の目が刹那に大きく見開いた。
「なんだ、宗次郎。雷が怖いのか」
「そんな事ありませんよ、いやだなぁ志々雄さん」
笑顔で答える宗次郎は、志々雄の隣に移動していた。
「じゃあ、どうしてこっちに来た」
「志々雄さんと一緒にいるとあったかいからです。雨が降り出してとても寒いですから」
にこにこと笑いながら、膝を抱えて小さく座る宗次郎の体が小さく震えている。
……まさか雷雨に怯えているのか、あの夜を思い出して震えているんじゃねぇだろうな……
雷の夜、宗次郎を連れ出してまだ数ヶ月。
顔は絶えず笑っているが、未だ残るものがあるのか。虐げられた日々から逃れられた日、宗次郎が初めて人を手に掛けた日。今宵のような雷雨が夜空を荒らしていた。
「お前、そんな事でどうする」
志々雄はそんな事では俺の刀にはなれんと一蹴するか考えながら、笑顔を崩さず小刻みに震える小さな体を見据えた。
突き刺さる志々雄の視線に本音を感じてか、宗次郎は尚も笑顔で続けた。
「すみません、寒くて、あははっ」
「……フン、まぁいいさ。俺は熱くてしょうがねぇ。お前が冷ましてくれるってんならくっついててもいいぜ」
「本当ですか!」
「あぁ。ただし、今夜だけだぞ」
「わぁ!ありがとうございます!志々雄さんの隣は本当に温かいです」
「まぁな、確かに地獄の業火の残り火で俺の体温は高いからな」
寄り添うように志々雄にもたれる宗次郎は、嬉しそうに頷いて目を閉じた。
「強ければ生き、弱ければ死ぬ……」
「あっ?」
「強くなるんです、僕はもっと強く……」
……強くなれば何も恐れる事は無い。誰よりも強くて正しい、この志々雄さんのように強く生きるんだ……
温かい志々雄の体温を感じ、宗次郎は雷と篠突く雨の恐怖を忘れていった。