14.忘れた頃に
夢主名前設定
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斎藤はそばにある鉄之助の頭を見て、己には及ばないが、それでもこの元小姓は相当背が伸びたと実感した。
並んで歩くとその成長が良く分かる。
「すっかり成長したな」
「そんな、私なんてまだまだです」
「昔、俺と夢主を見て顔を赤くしていた頃が懐かしいぞ」
「やめてください、あの頃はまだ幼かったんです!髪に触れて寛ぐ姿など、とても見ていられなかったんです。だって、あまりに」
鉄之助は思い出せる限り一番顔を染めたあの時と同じように赤い顔を作った。
恥じらいを思い出して俯いてしまう。
「フッ、お前まだ女を知らんのか」
「変なこと訊かないでください!箱館を抜けてから日野へ行き、そんな遊んでる暇なんて」
「分かった分かった、ムキになるな、揶揄って悪かったよ。沖田君と吉原でも行って来れば良かったんだ」
「冗談はやめてください」
夕べの沖田の誘いは本気だったのかと、更に赤みを増す鉄之助を斎藤は愉快に眺めた。
「だが冗談抜きで、女はいいぞ」
「斎藤先生……」
「守るものがあると無いとでは、出せる力に差が生じる」
斎藤の真面目な横顔に、鉄之助は息を呑んだ。
警察署への道と西を目指す街道の分岐点に辿り着く。
立ち止まった斎藤は制帽を脱いで頭を解放させ、すっきりした顔で道の先を見据えた。
旅人に踏み固められた道が遠く続いている。夜盗も多く最近では刀を狙った盗賊も出ている。
だが仮にも戊辰を生き抜いた鉄之助ならば心配は無用だろう。
「鉄之助、俺に何か言っておくことは無いか」
「斎藤先生にですか」
助けはもう必要ありませんと首を振ると、斎藤は目の端に鉄之助を捉えてニッと笑った。
体つきはすっかり大人だが、考える時に見せるまなこは幼さが残っている。
「兄によろしく伝えてくれ。懸命な判断だったと」
「先生……?」
「乱世では良くある話だろう。兄弟で従う主を変え血の存続を目指す。例え兄弟で敵対する道になろうが家は続く」
「斎藤先生、何を……」
「市村家は元は名のある家なのだろう、隠さんでもいい。佐幕と倒幕が勢力を争う幕末、突如地位を奪われた父の汚名を雪がんと機会を求め、実力でのし上がれる新選組に入隊した。だが時代は変わり、お前達は別かれた。違うか」
「……それは……」
「責めちゃいない。いい判断だろう。お前はよく残ってくれたな。土方さんの事も、感謝している」
「斎藤先生……」
元幹部の思わぬ優しい言葉と眼差しに、緩むことなく旅立てると思っていた鉄之助の涙腺から涙がにじみ出た。
誰にも打ち明けぬと考えていた兄弟の身の上を容易く見抜かれても、感じるのは嬉しさだけだった。
「達者で暮らせよ」
「はいっ!先生方に頂いたご恩は一生忘れません!!」
「いい男になったもんだ」
ククッと笑った斎藤は再び帽子をかぶり、身なりを整えた。
若い身であの激しい戊辰戦争を潜り抜け、立派に自分の使命を果たした鉄之助。
幼さの残る無垢な瞳とは裏腹に、過去の上役の手助けなど必要ないほど自立した男に成長していた。
斎藤は歩き出した背で頭を下げている鉄之助を感じながら、明治の己の戦場である警察署へと向かった。
並んで歩くとその成長が良く分かる。
「すっかり成長したな」
「そんな、私なんてまだまだです」
「昔、俺と夢主を見て顔を赤くしていた頃が懐かしいぞ」
「やめてください、あの頃はまだ幼かったんです!髪に触れて寛ぐ姿など、とても見ていられなかったんです。だって、あまりに」
鉄之助は思い出せる限り一番顔を染めたあの時と同じように赤い顔を作った。
恥じらいを思い出して俯いてしまう。
「フッ、お前まだ女を知らんのか」
「変なこと訊かないでください!箱館を抜けてから日野へ行き、そんな遊んでる暇なんて」
「分かった分かった、ムキになるな、揶揄って悪かったよ。沖田君と吉原でも行って来れば良かったんだ」
「冗談はやめてください」
夕べの沖田の誘いは本気だったのかと、更に赤みを増す鉄之助を斎藤は愉快に眺めた。
「だが冗談抜きで、女はいいぞ」
「斎藤先生……」
「守るものがあると無いとでは、出せる力に差が生じる」
斎藤の真面目な横顔に、鉄之助は息を呑んだ。
警察署への道と西を目指す街道の分岐点に辿り着く。
立ち止まった斎藤は制帽を脱いで頭を解放させ、すっきりした顔で道の先を見据えた。
旅人に踏み固められた道が遠く続いている。夜盗も多く最近では刀を狙った盗賊も出ている。
だが仮にも戊辰を生き抜いた鉄之助ならば心配は無用だろう。
「鉄之助、俺に何か言っておくことは無いか」
「斎藤先生にですか」
助けはもう必要ありませんと首を振ると、斎藤は目の端に鉄之助を捉えてニッと笑った。
体つきはすっかり大人だが、考える時に見せるまなこは幼さが残っている。
「兄によろしく伝えてくれ。懸命な判断だったと」
「先生……?」
「乱世では良くある話だろう。兄弟で従う主を変え血の存続を目指す。例え兄弟で敵対する道になろうが家は続く」
「斎藤先生、何を……」
「市村家は元は名のある家なのだろう、隠さんでもいい。佐幕と倒幕が勢力を争う幕末、突如地位を奪われた父の汚名を雪がんと機会を求め、実力でのし上がれる新選組に入隊した。だが時代は変わり、お前達は別かれた。違うか」
「……それは……」
「責めちゃいない。いい判断だろう。お前はよく残ってくれたな。土方さんの事も、感謝している」
「斎藤先生……」
元幹部の思わぬ優しい言葉と眼差しに、緩むことなく旅立てると思っていた鉄之助の涙腺から涙がにじみ出た。
誰にも打ち明けぬと考えていた兄弟の身の上を容易く見抜かれても、感じるのは嬉しさだけだった。
「達者で暮らせよ」
「はいっ!先生方に頂いたご恩は一生忘れません!!」
「いい男になったもんだ」
ククッと笑った斎藤は再び帽子をかぶり、身なりを整えた。
若い身であの激しい戊辰戦争を潜り抜け、立派に自分の使命を果たした鉄之助。
幼さの残る無垢な瞳とは裏腹に、過去の上役の手助けなど必要ないほど自立した男に成長していた。
斎藤は歩き出した背で頭を下げている鉄之助を感じながら、明治の己の戦場である警察署へと向かった。