14.忘れた頃に
夢主名前設定
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「確かに女の胸の方が土方さんは喜ぶだろうよ」
「もう、一さんまでっ!……ふふふっ」
「それは何だか許せませんからね、やっぱり僕が預かります!僕のと一緒に付けておきます。今は菊一文字に根付として付けてあるんですよ」
「ほぅ、あの刀か。そう言えば持ち出したんだったな、止めておけよ。狙われるだけだ」
「えぇ、分かっていますよ。今はもう持ち歩いたりしてません。気をつけろって言うからつい肌身離さずと考えちゃったんですよ!もう少しはっきり言ってくれないと!」
「おいおい、人のせいにするんじゃないよ」
「っ……あははははっ!先生方は相変わらずですね!!とても楽しそうで私は安心致しました!」
久しぶりに顔を見るのは緊張したが、あの頃と変わらない三人の姿に、鉄之助は涙を流すほど笑った。
「それで鉄之助、お前はこれからどうするんだ」
「そうです、日野へ戻るのですか?もし行く当てが無いなら僕の屋敷は広いですから……」
「いいえ、ありがとうございます。実は実家に帰ろうと思っているんです」
「実家に」
「はい」
頷くと鉄之助は手にしていた陶器を懐にしまいこんだ。
「実家の大垣に帰ろうと思います。これ以上彦五郎さん達にご迷惑はかけられません。実家に帰れば兄もおります」
「お兄さんが」
「はい。一緒に新選組の屯所の門を叩きましたが、兄は戊辰戦争の最中に隊を脱し実家へ帰ってしまいました。それに関しては誠に面目ないと、今でも申し訳なさで頭が上がりません」
「お前が頭を下げる必要は無い。兄が取った行動だ。それにあの頃は仕方が無かろう。どう見ても戦況は不利、混乱が生じていた。年若ければ尚更迷っただろう。残ったお前は見事だ」
「斎藤先生……」
「実家に戻ったらとりあえず一発殴っておけ。俺からだと言ってな」
「あははっ、兄に向かって出来るでしょうか、お言葉だけは確かに」
「フン、甘い男に育ったもんだ」
文句を言いながらも、礼儀を身につけ、一人戦場を駆けて逞しく育った姿に、斎藤は目を細めた。
「路銀はあるのか」
「はい、彦五郎さんにご支援いただきました」
「そうか、ならば心配は無いな。何か困ったら遠慮なく言えよ」
「あははっ、斎藤さんが何だか鉄之助君のお父上みたいですねっ、おかしいんだっ、あはははっ!!」
新選組時代に面倒を見てきた自分達は、今でも力を貸すべき存在と支援を申し出た。
そんな斎藤を沖田は気持ち良いほど笑い飛ばした。
「ちっ、君も何か言うことは無いのか」
「そうですねぇ、今夜はもちろん泊って行きますよね?遠慮なくどうぞ。それにもし、なんでしたら……」
沖田は不意に夢主をちらりと見て、言葉を濁し誤魔化した。
「まぁ、後で。ね、鉄之助君」
「はっ……はぁ……」
まさか吉原でも行くかいと夢主の前では誘えず、笑って誤魔化した。
真面目な鉄之助を昔の自分がされたように揶揄ってみようと軽い気持ちだったのだが、日が暮れて登楼を誘うときっぱり断られ、苦い思いをするのだった。
長居をすれば去るのが辛くなると、翌朝、鉄之助は沖田の屋敷を旅立った。
ただ、仕事に向かう斎藤は方向が同じだからと、途中の分かれ道まで同行する事になった。
再びの別れまでの僅かな時。歳も離れ立場も違った二人だが、幕末に関わり合った時間以上に互いを知り、認める二人は閑談して歩いた。
「夢主さんは相変わらずお綺麗ですね。それに、失礼ながら良く泣かれる」
「ハハッ、お前を見送るのに泣かずにはいられなかったんだろう。今生の別れぐらいに感じているのかも知れん」
鉄之助を見送る夢主は涙で顔が崩れていた。見送る者にそこまで泣かれると、寂しさを超えて感謝と笑いが込み上げてくる。
鉄之助は笑って屋敷を去ることが出来た。
「もう、一さんまでっ!……ふふふっ」
「それは何だか許せませんからね、やっぱり僕が預かります!僕のと一緒に付けておきます。今は菊一文字に根付として付けてあるんですよ」
「ほぅ、あの刀か。そう言えば持ち出したんだったな、止めておけよ。狙われるだけだ」
「えぇ、分かっていますよ。今はもう持ち歩いたりしてません。気をつけろって言うからつい肌身離さずと考えちゃったんですよ!もう少しはっきり言ってくれないと!」
「おいおい、人のせいにするんじゃないよ」
「っ……あははははっ!先生方は相変わらずですね!!とても楽しそうで私は安心致しました!」
久しぶりに顔を見るのは緊張したが、あの頃と変わらない三人の姿に、鉄之助は涙を流すほど笑った。
「それで鉄之助、お前はこれからどうするんだ」
「そうです、日野へ戻るのですか?もし行く当てが無いなら僕の屋敷は広いですから……」
「いいえ、ありがとうございます。実は実家に帰ろうと思っているんです」
「実家に」
「はい」
頷くと鉄之助は手にしていた陶器を懐にしまいこんだ。
「実家の大垣に帰ろうと思います。これ以上彦五郎さん達にご迷惑はかけられません。実家に帰れば兄もおります」
「お兄さんが」
「はい。一緒に新選組の屯所の門を叩きましたが、兄は戊辰戦争の最中に隊を脱し実家へ帰ってしまいました。それに関しては誠に面目ないと、今でも申し訳なさで頭が上がりません」
「お前が頭を下げる必要は無い。兄が取った行動だ。それにあの頃は仕方が無かろう。どう見ても戦況は不利、混乱が生じていた。年若ければ尚更迷っただろう。残ったお前は見事だ」
「斎藤先生……」
「実家に戻ったらとりあえず一発殴っておけ。俺からだと言ってな」
「あははっ、兄に向かって出来るでしょうか、お言葉だけは確かに」
「フン、甘い男に育ったもんだ」
文句を言いながらも、礼儀を身につけ、一人戦場を駆けて逞しく育った姿に、斎藤は目を細めた。
「路銀はあるのか」
「はい、彦五郎さんにご支援いただきました」
「そうか、ならば心配は無いな。何か困ったら遠慮なく言えよ」
「あははっ、斎藤さんが何だか鉄之助君のお父上みたいですねっ、おかしいんだっ、あはははっ!!」
新選組時代に面倒を見てきた自分達は、今でも力を貸すべき存在と支援を申し出た。
そんな斎藤を沖田は気持ち良いほど笑い飛ばした。
「ちっ、君も何か言うことは無いのか」
「そうですねぇ、今夜はもちろん泊って行きますよね?遠慮なくどうぞ。それにもし、なんでしたら……」
沖田は不意に夢主をちらりと見て、言葉を濁し誤魔化した。
「まぁ、後で。ね、鉄之助君」
「はっ……はぁ……」
まさか吉原でも行くかいと夢主の前では誘えず、笑って誤魔化した。
真面目な鉄之助を昔の自分がされたように揶揄ってみようと軽い気持ちだったのだが、日が暮れて登楼を誘うときっぱり断られ、苦い思いをするのだった。
長居をすれば去るのが辛くなると、翌朝、鉄之助は沖田の屋敷を旅立った。
ただ、仕事に向かう斎藤は方向が同じだからと、途中の分かれ道まで同行する事になった。
再びの別れまでの僅かな時。歳も離れ立場も違った二人だが、幕末に関わり合った時間以上に互いを知り、認める二人は閑談して歩いた。
「夢主さんは相変わらずお綺麗ですね。それに、失礼ながら良く泣かれる」
「ハハッ、お前を見送るのに泣かずにはいられなかったんだろう。今生の別れぐらいに感じているのかも知れん」
鉄之助を見送る夢主は涙で顔が崩れていた。見送る者にそこまで泣かれると、寂しさを超えて感謝と笑いが込み上げてくる。
鉄之助は笑って屋敷を去ることが出来た。