14.忘れた頃に
夢主名前設定
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「箱館戦争で土方先生が亡くなったのは私も知っています。土方先生の死から暫くして、ぽつぽつと日野を訪れる懐かしい方々がいましてね。皆さま先生を慕っていたんです」
鉄之助はずっと傍で世話した男の姿を思い出してしまったのか、言葉を詰まらせ、気持ちを切り替えるように大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
「それで、土方先生のご遺体は五稜郭に弔われたそうなんです」
「五稜郭……」
「はい。でも新政府軍の奴らが土方先生の首を無礼にも掘り起こそうとしていると知り、仲間の皆さまが改葬をなさったそうです。その時に……」
小さく息を吐いて鉄之助は手を開き、握っていた陶器を改めて見つめた。
「その時にご遺体の土方先生が、手に握っているのを見つけられたそうです。そのまま一緒に移動しようとしたら、動かないはずの手が開いて地面に落ちたと……だから、何か意味があるんじゃ無いかと、彦五郎さんを訪ねた方が持ってきたんです」
「土方さんが握って……」
「実際、土方先生は洋装に着替えてからも胸の隠しに忍ばせていたんですよ。私は知っていました、あははっ」
土方の秘密を知っていたと笑う姿に幼さが見え、ふと懐かしく感じた夢主もつられて笑っていた。
「ふふっ……それにしても土方さんたら……」
「それでその陶器の事を知っていると申し出て事情をお話しましたら、ぜひその陶器を作って土方さんに渡した女の人に会いたいと、彦五郎さんが」
「そんなっ、それは困ります……」
「えぇ、そう思いましたからちゃんとお断り申し上げました。既に共に生きる人がいるので、会いに行くのは迷惑だと」
「良かったぁ……」
「さすがは副長の小姓を務めただけはあるな。気が回る」
「斎藤先生に褒められるとは光栄です。ありがとうございます」
ほっと息を吐く夢主の隣で腕を組む斎藤に褒められ、鉄之助ははにかんだ。
いつも厳しかった斎藤の褒め言葉は今でも嬉しいのだ。
「それで会えないならせめてその人に渡してやって欲しいと託され、必死に行方を探したのです」
「そうだったのですか……」
「土方先生の想いがきっと導いてくださったんです。ですから、これは夢主さんにお渡しします」
大きく成長した鉄之助の手が伸びてきて、夢主はそっと手を出した。
返された土方の桜の花びらはとても綺麗な姿で、艶を失っていない。
「綺麗なまま……大事にしてくださってたんだ……」
お前のことは、いつも気に掛けているからな……
そう労わってくれた土方を思い出し、そっと花びらを両手で包んだ。
今でも思い出せる、本音を飲み込んだちょっとずるくて、綺麗な笑顔。少しだけ、悲しそうに笑うあの人。
夢主は小さく首を振った。
「でも、これは受け取れません」
「えっ、どうしてですか、夢主さん!」
「これは……総司さん、総司さんが持っていてください」
「僕がですか、でも大切な」
「土方さんの形見です。形見だからこそ、総司さんに……お願いします」
「夢主ちゃん……」
差し出された手に逆らうこと無く、沖田は土方が大切に守りぬいた桜の花びらを受け取った。
「総司さんのと一緒にしてあげてください。きっと土方さんも喜んでくれます」
「あははっ、そうかなぁ、僕は夢主ちゃんの懐の方が喜ぶと思いますよっ」
自分の冗談を笑う沖田に、他の三人も揃って笑い出した。
土方の好みの的を得ている冗談だ。斎藤も笑いが堪えられずに喉を鳴らしている。
鉄之助はずっと傍で世話した男の姿を思い出してしまったのか、言葉を詰まらせ、気持ちを切り替えるように大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
「それで、土方先生のご遺体は五稜郭に弔われたそうなんです」
「五稜郭……」
「はい。でも新政府軍の奴らが土方先生の首を無礼にも掘り起こそうとしていると知り、仲間の皆さまが改葬をなさったそうです。その時に……」
小さく息を吐いて鉄之助は手を開き、握っていた陶器を改めて見つめた。
「その時にご遺体の土方先生が、手に握っているのを見つけられたそうです。そのまま一緒に移動しようとしたら、動かないはずの手が開いて地面に落ちたと……だから、何か意味があるんじゃ無いかと、彦五郎さんを訪ねた方が持ってきたんです」
「土方さんが握って……」
「実際、土方先生は洋装に着替えてからも胸の隠しに忍ばせていたんですよ。私は知っていました、あははっ」
土方の秘密を知っていたと笑う姿に幼さが見え、ふと懐かしく感じた夢主もつられて笑っていた。
「ふふっ……それにしても土方さんたら……」
「それでその陶器の事を知っていると申し出て事情をお話しましたら、ぜひその陶器を作って土方さんに渡した女の人に会いたいと、彦五郎さんが」
「そんなっ、それは困ります……」
「えぇ、そう思いましたからちゃんとお断り申し上げました。既に共に生きる人がいるので、会いに行くのは迷惑だと」
「良かったぁ……」
「さすがは副長の小姓を務めただけはあるな。気が回る」
「斎藤先生に褒められるとは光栄です。ありがとうございます」
ほっと息を吐く夢主の隣で腕を組む斎藤に褒められ、鉄之助ははにかんだ。
いつも厳しかった斎藤の褒め言葉は今でも嬉しいのだ。
「それで会えないならせめてその人に渡してやって欲しいと託され、必死に行方を探したのです」
「そうだったのですか……」
「土方先生の想いがきっと導いてくださったんです。ですから、これは夢主さんにお渡しします」
大きく成長した鉄之助の手が伸びてきて、夢主はそっと手を出した。
返された土方の桜の花びらはとても綺麗な姿で、艶を失っていない。
「綺麗なまま……大事にしてくださってたんだ……」
お前のことは、いつも気に掛けているからな……
そう労わってくれた土方を思い出し、そっと花びらを両手で包んだ。
今でも思い出せる、本音を飲み込んだちょっとずるくて、綺麗な笑顔。少しだけ、悲しそうに笑うあの人。
夢主は小さく首を振った。
「でも、これは受け取れません」
「えっ、どうしてですか、夢主さん!」
「これは……総司さん、総司さんが持っていてください」
「僕がですか、でも大切な」
「土方さんの形見です。形見だからこそ、総司さんに……お願いします」
「夢主ちゃん……」
差し出された手に逆らうこと無く、沖田は土方が大切に守りぬいた桜の花びらを受け取った。
「総司さんのと一緒にしてあげてください。きっと土方さんも喜んでくれます」
「あははっ、そうかなぁ、僕は夢主ちゃんの懐の方が喜ぶと思いますよっ」
自分の冗談を笑う沖田に、他の三人も揃って笑い出した。
土方の好みの的を得ている冗談だ。斎藤も笑いが堪えられずに喉を鳴らしている。