14.忘れた頃に

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「まさか貴様」

「鉄之助君?」

夢主さん!」

夢主ちゃん!良かった!今お宅に伺ったところなんですよ!」

沖田の横に立つのは紛れもなくあの小姓を務めた鉄之助だった。
夢主と同じか少し低かった背はすっかり伸びて沖田を追い越している。肩幅も広がり体も厚くなり、子供から青年へとしっかり成長していた。
現れた二人に名前を呼ばれなかった斎藤はやや不機嫌に腕を組んだ。

「何故ここに居る、鉄之助」

「お話します。ですからまずは中へ」

何か用件があり、ここまでやって来たのか。鉄之助の誘いで四人は座敷に上がった。
部屋に落ち着くとまずは主の沖田が口を開いた。驚きを隠せない二人に事情を飲み込んでもらう為、簡単な説明を始めた。

「僕もまだ会ったばかりなんですよ。ちょうど昼ご飯を終えた時、鉄之助君が門をくぐったんです」

「本当に今さっきだな」

「はい……お久しぶりです、斎藤先生、それに夢主さん」

鉄之助は手を畳について深々と頭を下げた。その姿を見て、夢主は大きくなった背中を感じた。
やがて顔を上げた鉄之助は、やはり記憶の中とは顔の位置がだいぶ変っていた。

「鉄之助君……大きくなりましたね、ほんの数年しか経ってないのに……」

「あははっ、いえ、確かに背は伸びました。でも、見上げていた夢主さんをこうして上から見てしまうのは、何だか申し訳ないような恥ずかしいような」

「ふふっ、鉄之助君たら。気にしないでください、鉄之助君の成長が素直に嬉しいんですから。本当に驚きました」

弟のように幼く可愛く感じていた小姓の少年が、すっかり大人の男になっている。
不思議でなんとも嬉しい感覚だ。

「それで鉄之助、調べてここに来たのか。今までどこにいた」

「はい、実はその事でお話しておきたかったんです」

鉄之助は夢主と沖田と別れ、後に戊辰戦争が始まり斎藤とも別れた。
三人と離れていた間の話をかいつまんで語った。

「私は戊辰戦争の最中、土方先生に付き添って箱館まで一緒に行きました」

知っています……夢主の頭が大きく動いた。
すると、鉄之助は懐から見覚えのある滑らかな陶器、桜の花びらを取り出した。

夢主さんが下さった桜の陶器、心強いお守りでした」

「鉄之助君……」

「それからこれは」

「えっ」

左手に取り出した桜を乗せたまま、再び懐に右手を忍ばせもう一つの陶器を取り出した。

「同じ物がもう一つ」

話を知らなかった沖田が、斎藤と声を揃えて呟いた。

「これは土方先生のです」

「土方さんの?!」

箱館の最後の戦いが始まる前に、鉄之助は戦地を去ったはず。
それを知る夢主は辻褄が合わない話に大きな声を出した。

「はい。実は私、土方先生から預かった品を日野の実家に届けたんです」

「じゃあその中に」

沖田の問いに、鉄之助はゆっくり首を振った。

「その時預かったのは土方先生が箱館で撮った写真と、土方先生の大切な刀。遺髪……それに手紙、それを持って日野を目指しました。土方先生のお心遣いと日野の彦五郎さんの優しさのお陰で、私は日野のお家に匿っていただきました」

「では何故お前が土方さんのそれを持っている」

「ごもっともな質問ですね」

斎藤の問いに鉄之助は責めないで下さいと困った笑顔を見せた。
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