14.忘れた頃に
夢主名前設定
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「だから、煙草です!私の前では吸わないって約束したじゃありませんか」
「ちっ、煩いぞ」
煙草を咥えたままぼやいた声は夢主にしっかり届き、口を尖らせると斎藤は顔を背けた。
煙が掛からないよう気遣ったのだが、夢主はぞんざいに扱われたと感じ、前を歩き出した斎藤を追いかけた。
「待ってくださいよ!」
慌てて駆け出した妻を察した斎藤が振り返ると、腿の間で起こった急な痛みに足が止まり、体の均衡を崩してよろめく姿が見えた。
夢主のよろめきが昨夜の己が所以と自覚している斎藤は、白い煙を吐き出しながら咄嗟に手を伸ばした。
夢主に煙草の火が当たりそうになり、仕方なしと顔を振って通りに煙草を投げ捨てると、火をつけたばかりの長い煙草は土の上を転がった。
「あーっ!捨てちゃ駄目じゃないですか!」
「阿呆ぅ、お前のせいだろう」
「でもっ」
「いいから黙って見ていろ」
痛みゆえ無意識に腿を合わせて斎藤に身を預ける夢主を通りの端に連れて行き、斎藤は吸殻を見ていろと顎で指した。
すると間もなく、どこからかやって来た男が捨てられた煙草を拾い上げた。
「えっ、どうして……」
通りの掃除の為に拾うわけでも無いだろう。拾い上げたのは、失礼ながら身なりが良いとは言えない男だ。
破落戸長屋か、落人群からやって来たのだろう。
「シケモク集めて煙草を作り直すんだよ。そのまま自分で吸う奴もいるらしいがな、大概は作り直すか、長さがあればそのまま売るそうだ。あんな物でも拾って食い繋ぐ奴がいるんだよ」
「そんな……」
夢主の感覚では道端に物を捨てるなど、常識の無い行動としか捉えられない。
だが仕事を持てない者が多いこのご時世、ある者は紙くずでも吸殻でも、落ちている物を拾って命を繋いでいるのだ。
「全うに生きられないのは惨めだがな」
目の前の斎藤の喫煙を止めるつもりが、今の世の闇を見るきっかけになってしまった。
……そう言えば全てを失った人が行き着く先って、落人群があったっけ……
普段の生活では目にしない荒れた町を脳裏に思い浮かべた。
いつの日か緋村が世話になる場所でもある。
「一さん……」
名を呼ばれ目を落とせば夢主がまた何やら憂いている。
やれやれと思うが、その憂いが優しさ故と分かっている斎藤は薄っすら笑ってやった。
「気分を変えて沖田君の屋敷にでも寄ってみるか」
「はい!」
斎藤の手から離れて一人で立つと、夢主は毅然と満面の笑みを作った。
「ポイ捨てに意味があるってのはわかりましたけど」
「ポイ捨て?」
「一さん、煙草は止めませんが、程々になさってくださいね!」
「分かったよ」
続きの一本を取り出したくなる斎藤だが、一旦煙草はお預けだなと、苦笑いを浮かべて大人しく頷いた。
ころころ表情を変えるお前の勝ちだと、心の中で笑っていた。
沖田の道場に辿り着いた二人は、珍しく正面の門をくぐり、大きな声で主を呼んだ。しかし反応が無い。
いくら無用心な沖田でも、出かける時は正面の門は閉じて行く。その門が堂々と開いていたので、二人は不審に思い屋敷に上がって中を探した。
屋敷も道場もがらんとして人気が無い。
「いませんね……」
「全く無用心にも程があるな。どこに行きやがった」
「もう一さんたら口が悪い……」
フンと庭に目をやり、斎藤は再び草履に足を入れた。夢主も急いで庭に下りた。
斎藤は庭を見回してから、溜め息を吐いた。目立った足跡も残っておらず、何も掴めない。
「仕方が無い、家に戻るか」
夢主も残念と頷いて裏口に向かうと、沖田が誰かと話しながら裏から戻ってくるではないか。
話し相手に見覚えがある二人は、顔を見て閃くと驚きの声を上げた。
「ちっ、煩いぞ」
煙草を咥えたままぼやいた声は夢主にしっかり届き、口を尖らせると斎藤は顔を背けた。
煙が掛からないよう気遣ったのだが、夢主はぞんざいに扱われたと感じ、前を歩き出した斎藤を追いかけた。
「待ってくださいよ!」
慌てて駆け出した妻を察した斎藤が振り返ると、腿の間で起こった急な痛みに足が止まり、体の均衡を崩してよろめく姿が見えた。
夢主のよろめきが昨夜の己が所以と自覚している斎藤は、白い煙を吐き出しながら咄嗟に手を伸ばした。
夢主に煙草の火が当たりそうになり、仕方なしと顔を振って通りに煙草を投げ捨てると、火をつけたばかりの長い煙草は土の上を転がった。
「あーっ!捨てちゃ駄目じゃないですか!」
「阿呆ぅ、お前のせいだろう」
「でもっ」
「いいから黙って見ていろ」
痛みゆえ無意識に腿を合わせて斎藤に身を預ける夢主を通りの端に連れて行き、斎藤は吸殻を見ていろと顎で指した。
すると間もなく、どこからかやって来た男が捨てられた煙草を拾い上げた。
「えっ、どうして……」
通りの掃除の為に拾うわけでも無いだろう。拾い上げたのは、失礼ながら身なりが良いとは言えない男だ。
破落戸長屋か、落人群からやって来たのだろう。
「シケモク集めて煙草を作り直すんだよ。そのまま自分で吸う奴もいるらしいがな、大概は作り直すか、長さがあればそのまま売るそうだ。あんな物でも拾って食い繋ぐ奴がいるんだよ」
「そんな……」
夢主の感覚では道端に物を捨てるなど、常識の無い行動としか捉えられない。
だが仕事を持てない者が多いこのご時世、ある者は紙くずでも吸殻でも、落ちている物を拾って命を繋いでいるのだ。
「全うに生きられないのは惨めだがな」
目の前の斎藤の喫煙を止めるつもりが、今の世の闇を見るきっかけになってしまった。
……そう言えば全てを失った人が行き着く先って、落人群があったっけ……
普段の生活では目にしない荒れた町を脳裏に思い浮かべた。
いつの日か緋村が世話になる場所でもある。
「一さん……」
名を呼ばれ目を落とせば夢主がまた何やら憂いている。
やれやれと思うが、その憂いが優しさ故と分かっている斎藤は薄っすら笑ってやった。
「気分を変えて沖田君の屋敷にでも寄ってみるか」
「はい!」
斎藤の手から離れて一人で立つと、夢主は毅然と満面の笑みを作った。
「ポイ捨てに意味があるってのはわかりましたけど」
「ポイ捨て?」
「一さん、煙草は止めませんが、程々になさってくださいね!」
「分かったよ」
続きの一本を取り出したくなる斎藤だが、一旦煙草はお預けだなと、苦笑いを浮かべて大人しく頷いた。
ころころ表情を変えるお前の勝ちだと、心の中で笑っていた。
沖田の道場に辿り着いた二人は、珍しく正面の門をくぐり、大きな声で主を呼んだ。しかし反応が無い。
いくら無用心な沖田でも、出かける時は正面の門は閉じて行く。その門が堂々と開いていたので、二人は不審に思い屋敷に上がって中を探した。
屋敷も道場もがらんとして人気が無い。
「いませんね……」
「全く無用心にも程があるな。どこに行きやがった」
「もう一さんたら口が悪い……」
フンと庭に目をやり、斎藤は再び草履に足を入れた。夢主も急いで庭に下りた。
斎藤は庭を見回してから、溜め息を吐いた。目立った足跡も残っておらず、何も掴めない。
「仕方が無い、家に戻るか」
夢主も残念と頷いて裏口に向かうと、沖田が誰かと話しながら裏から戻ってくるではないか。
話し相手に見覚えがある二人は、顔を見て閃くと驚きの声を上げた。