14.忘れた頃に
夢主名前設定
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ようやく手紙をしまった夢主は、機嫌の良い夫の横顔に、今なら訊ねても良いだろうかと自らの着物が入る段を引き出した。
あの乙女椿色の小袖、斎藤を待つ間に着続けてくたびれてしまったが、それでも何より大切な着物。
忘れているかもしれない紋入れを頼んでみようと引き出しの中を探った。
「あれ……」
「どうした」
「あの、一さんに頂いた着物……旅立つ前に頂いた覗き紋の着物なんですが……」
「あれか、紋入れに出してるぞ」
「えっ」
「出すと言っていただろう、遅くなってすまなかったな」
「いえ……」
いつの間にと目を丸くする夢主、驚き以上に喜びの感情が込み上げ、溢れるものを堪えきれなくなってしまった。
白い頬を伝う雫に、今度は斎藤が驚かされた。
「どうした、と聞くのも野暮だったな。泣くなよ」
「はぃ……すみません、嬉しくて……泣くのさっきからずっと我慢してたんですよ、でも、限界が……」
参ったぜと苦笑いの斎藤の前で、夢主はほろほろと涙を零していた。
目尻を拭っても拭っても出てきてしまう。
「フッ、相変わらずの泣き虫だ」
「ごめんなさい……」
「さすがに慣れたさ」
「はぃ……」
「だが泣き止まんと知らんぞ、泣き止ませるにはどうするんだったか。覚えているだろう」
「ぅ……」
最後の手入れが終わったのか、妖しい睨みを利かせた後、斎藤は片付けを始めた。
空だった引き出しに武具を戻し、使っていた手入れ道具もまとめていく。
その間に夢主はなんとか涙を押さえ、自らの品を引き出しに戻した。
「ほぅ、泣き止んだか」
「もう大丈夫です、泣きませんから」
「そうか。残念だな」
先に立ち上がった斎藤は手を差し出し、夢主が体を起こす手助けをした。そんな必要は無いのだが、手を引いた勢いのままに体を抱き寄せて揶揄おうと言うのだ。
泣き止んでしまったからには襲えない、斎藤はちょっとした悪さを企みほくそ笑んだ。
夢主が疑いもせず差し出された手に頼ると、斎藤の望み通り体勢を崩し、予想しなかった出来事に目の前の胸板に寄りかかっていた。
「わぁ……」
「さて、仕事道具の手入れは終わったんだが、次はどうするか……」
斎藤は白い耳に唇を当てて声を低く響かせた。
途端に夢主の体が硬直するのが可笑しくて堪らず、笑いを堪えて顔を歪ませている。
「ぁっ……あのっ、えっ……一さんっ」
まさかと、夢主は斎藤の肩を押して体を離そうとした。
昨夜の今日で求められても、体がついていかない。
「阿呆、冗談だよ。食いに行くか」
「食べに?」
「あぁ。昼飯だ」
「外には行かないって……」
「飯は別だろう」
戸惑いがおさまらず夢主が赤い顔で訊ねると斎藤は「蕎麦だ」と一言、言い切った。
……外で食べると言ったら、やっぱり蕎麦なんだ……
家を出ると、体を動かしたくない夢主を察してか、斎藤の歩みはとても遅かった。
元より歩幅の小さな夢主だが、夕べの名残の恥ずかしい痛みにより今日は更に小さな歩みになっている。そんな状態を案じられているとは気付かない方が良いだろう。
斎藤の気遣いを察することなく夢主はのんびりと穏やかなに歩いた。
二人で入るのも既に何度目か。馴染みの蕎麦屋で昼を済ませた帰り道、斎藤は懐に忍ばせていた煙草をつい手に取っていた。
非番の日は楽に長着で過ごすが、そのまま外を出歩く着物の懐にも忍ばせていたのだ。
「あぁっ!私の前では吸わないって約束したのに」
「んっ?」
口に咥えて火を付けたところで夢主が大きな声を上げた。
斎藤は妻の声にどうしたと視線を向け、用が済んだ燐寸を放り投げた。
あの乙女椿色の小袖、斎藤を待つ間に着続けてくたびれてしまったが、それでも何より大切な着物。
忘れているかもしれない紋入れを頼んでみようと引き出しの中を探った。
「あれ……」
「どうした」
「あの、一さんに頂いた着物……旅立つ前に頂いた覗き紋の着物なんですが……」
「あれか、紋入れに出してるぞ」
「えっ」
「出すと言っていただろう、遅くなってすまなかったな」
「いえ……」
いつの間にと目を丸くする夢主、驚き以上に喜びの感情が込み上げ、溢れるものを堪えきれなくなってしまった。
白い頬を伝う雫に、今度は斎藤が驚かされた。
「どうした、と聞くのも野暮だったな。泣くなよ」
「はぃ……すみません、嬉しくて……泣くのさっきからずっと我慢してたんですよ、でも、限界が……」
参ったぜと苦笑いの斎藤の前で、夢主はほろほろと涙を零していた。
目尻を拭っても拭っても出てきてしまう。
「フッ、相変わらずの泣き虫だ」
「ごめんなさい……」
「さすがに慣れたさ」
「はぃ……」
「だが泣き止まんと知らんぞ、泣き止ませるにはどうするんだったか。覚えているだろう」
「ぅ……」
最後の手入れが終わったのか、妖しい睨みを利かせた後、斎藤は片付けを始めた。
空だった引き出しに武具を戻し、使っていた手入れ道具もまとめていく。
その間に夢主はなんとか涙を押さえ、自らの品を引き出しに戻した。
「ほぅ、泣き止んだか」
「もう大丈夫です、泣きませんから」
「そうか。残念だな」
先に立ち上がった斎藤は手を差し出し、夢主が体を起こす手助けをした。そんな必要は無いのだが、手を引いた勢いのままに体を抱き寄せて揶揄おうと言うのだ。
泣き止んでしまったからには襲えない、斎藤はちょっとした悪さを企みほくそ笑んだ。
夢主が疑いもせず差し出された手に頼ると、斎藤の望み通り体勢を崩し、予想しなかった出来事に目の前の胸板に寄りかかっていた。
「わぁ……」
「さて、仕事道具の手入れは終わったんだが、次はどうするか……」
斎藤は白い耳に唇を当てて声を低く響かせた。
途端に夢主の体が硬直するのが可笑しくて堪らず、笑いを堪えて顔を歪ませている。
「ぁっ……あのっ、えっ……一さんっ」
まさかと、夢主は斎藤の肩を押して体を離そうとした。
昨夜の今日で求められても、体がついていかない。
「阿呆、冗談だよ。食いに行くか」
「食べに?」
「あぁ。昼飯だ」
「外には行かないって……」
「飯は別だろう」
戸惑いがおさまらず夢主が赤い顔で訊ねると斎藤は「蕎麦だ」と一言、言い切った。
……外で食べると言ったら、やっぱり蕎麦なんだ……
家を出ると、体を動かしたくない夢主を察してか、斎藤の歩みはとても遅かった。
元より歩幅の小さな夢主だが、夕べの名残の恥ずかしい痛みにより今日は更に小さな歩みになっている。そんな状態を案じられているとは気付かない方が良いだろう。
斎藤の気遣いを察することなく夢主はのんびりと穏やかなに歩いた。
二人で入るのも既に何度目か。馴染みの蕎麦屋で昼を済ませた帰り道、斎藤は懐に忍ばせていた煙草をつい手に取っていた。
非番の日は楽に長着で過ごすが、そのまま外を出歩く着物の懐にも忍ばせていたのだ。
「あぁっ!私の前では吸わないって約束したのに」
「んっ?」
口に咥えて火を付けたところで夢主が大きな声を上げた。
斎藤は妻の声にどうしたと視線を向け、用が済んだ燐寸を放り投げた。