14.忘れた頃に
夢主名前設定
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「一さんはどんなお気持ちで、その……文を書いてくださったのですか」
素朴な問いに斎藤は喉を鳴らして笑った。
「そんな事いちいち訊くんじゃないよ」
「でも……」
「冗談だったろう、最初は沖田君の戯れだ。悪ふざけだよ」
「そうですか……」
ただの冗談、確かにあの時ふざけあっていた記憶がある。
しかしそれだけでは……
夢主の顔の曇り具合に、斎藤は溜め息を吐いて語りたくない本音を少し口にした。
「だが本心はあの頃からその言葉通りだ。お前の全てを受け入れてやるとな、どんな事が起きようが」
「全て……」
「あぁ。そうだ」
身に起きた悲しい事も辛い出来事も、全てを共に背負う覚悟がある。
得意気に視線を投げてくる斎藤の表情に隠れた優しさに、夢主は潤む目を細めた。
「まぁ良かったのかも知れん、意味ありげな文になって」
「ふふっ、一さんったら……これからも大切に取っておきますね」
そう言えば夢主が我が身の無事を知らせる為に毎日送った手紙、あれはどうなったのだろうか。
確かみんなが一通ずつ懐にしまっていったと話を聞き、恥ずかしい思いをしたものだ。
沖田は夢主の書いた恋文と言い張り、斎藤も懐にあった文を出してからかってきた。今は手元に残していないのだろうか。
「昔……大坂に行かれたみなさんに文を送り続けたのを覚えていますか」
さり気ない問いに斎藤の眉が一瞬動いた。
「一さん……?」
「覚えているさ。月見水、誰も意味を解せずに首をひねり、なかなか面白かったぞ」
「そうだったんですね!知りませんでした」
静かに頷く斎藤の表情が不自然に変わり、夢主は首を傾けた。
斎藤は夢主の独りの月見を詠んだ文を貰い受け、確かに懐に入れた。大切にそばに置き保管していた。時代を決める戦いの始まりには、さる人物に託した。
たが度重なる戦火の中でいつしか失われてしまったのだ。責めは出来まい。
その代わり、夢主が祇園祭の最中、そっと懐に入れてきた桜の陶器は肌身離さず持ち歩いた。
運べる物など命と武器しかない、そんな状況下でも決して離さず失くさなかった。
斎藤に降りかかったのは風雨だけではない。刀に槍、多数の刃とそれを凌ぐ無数の銃弾、さらには砲撃まで受けたものだ。
過酷な状況の中、まるで想いを守るようにずっと懐に入れ、持ち歩いた。
「文か、確かにあったな。あれからずっと手元にあった」
「本当ですか、恥ずかしい……ちょっと嬉しいですけど」
「確かにあったんだが戦の中で失っちまったんだ。すまんな」
「そうなんですね……でも一さん……」
気のせいか、どこか沈んで見える夫に優しく笑いかければ、気にしちゃい無いさ、だが悪いな……と似たような優しい微笑が返ってくる。
「だが代わりにあの陶器は離さなかった。砕けちまったがな」
「一さんの身の危険を変わりに引き受けてくれたんだと、私は思っていますよ。……私の造形が甘かったせいかもしれませんが」
「ハハッ、何よりお前自身がこうしてそこにいるんだ、物には拘らんさ」
「一さん……」
「だが力になった、それは確かだ。負け戦の中、己が歩いてきた道を信じて戦う。その大変さは分かっちゃいたが、厳しくなった時……触れる度に力を取り戻したぞ」
そんな想いで身に付け触れていてくれたとは。思わぬ告白に夢主の胸が熱く高まっていった。
明日をも知れぬ戦火の中、離れていても想ってくれていた事が、力になれた事が嬉しかった。
「おいおい、泣くんじゃないぞ」
「はいっ……」
涙をぐっと堪えてもう一度手紙に目を通し、幸せを感じて微笑んだ。元通りに畳み、白い包みを胸に当てた。
幸せを噛み締めるように目を閉じている。
「やれやれ、大袈裟だな」
「大袈裟にもなりますよ、だって……奇跡じゃありませんか」
「奇跡か」
「出会いから……一緒に過ごした日々も、無事に再会できた事も、こうやって一緒に……座っている事も」
「そうか」
「そうです」
「奇跡のような必然か……」
「えっ」
ぼそりと呟いた後、斎藤は口を閉じるがどこか口元が緩るんでいた。
黙って武具の手入れを再開する顔はとてもご機嫌だ。
素朴な問いに斎藤は喉を鳴らして笑った。
「そんな事いちいち訊くんじゃないよ」
「でも……」
「冗談だったろう、最初は沖田君の戯れだ。悪ふざけだよ」
「そうですか……」
ただの冗談、確かにあの時ふざけあっていた記憶がある。
しかしそれだけでは……
夢主の顔の曇り具合に、斎藤は溜め息を吐いて語りたくない本音を少し口にした。
「だが本心はあの頃からその言葉通りだ。お前の全てを受け入れてやるとな、どんな事が起きようが」
「全て……」
「あぁ。そうだ」
身に起きた悲しい事も辛い出来事も、全てを共に背負う覚悟がある。
得意気に視線を投げてくる斎藤の表情に隠れた優しさに、夢主は潤む目を細めた。
「まぁ良かったのかも知れん、意味ありげな文になって」
「ふふっ、一さんったら……これからも大切に取っておきますね」
そう言えば夢主が我が身の無事を知らせる為に毎日送った手紙、あれはどうなったのだろうか。
確かみんなが一通ずつ懐にしまっていったと話を聞き、恥ずかしい思いをしたものだ。
沖田は夢主の書いた恋文と言い張り、斎藤も懐にあった文を出してからかってきた。今は手元に残していないのだろうか。
「昔……大坂に行かれたみなさんに文を送り続けたのを覚えていますか」
さり気ない問いに斎藤の眉が一瞬動いた。
「一さん……?」
「覚えているさ。月見水、誰も意味を解せずに首をひねり、なかなか面白かったぞ」
「そうだったんですね!知りませんでした」
静かに頷く斎藤の表情が不自然に変わり、夢主は首を傾けた。
斎藤は夢主の独りの月見を詠んだ文を貰い受け、確かに懐に入れた。大切にそばに置き保管していた。時代を決める戦いの始まりには、さる人物に託した。
たが度重なる戦火の中でいつしか失われてしまったのだ。責めは出来まい。
その代わり、夢主が祇園祭の最中、そっと懐に入れてきた桜の陶器は肌身離さず持ち歩いた。
運べる物など命と武器しかない、そんな状況下でも決して離さず失くさなかった。
斎藤に降りかかったのは風雨だけではない。刀に槍、多数の刃とそれを凌ぐ無数の銃弾、さらには砲撃まで受けたものだ。
過酷な状況の中、まるで想いを守るようにずっと懐に入れ、持ち歩いた。
「文か、確かにあったな。あれからずっと手元にあった」
「本当ですか、恥ずかしい……ちょっと嬉しいですけど」
「確かにあったんだが戦の中で失っちまったんだ。すまんな」
「そうなんですね……でも一さん……」
気のせいか、どこか沈んで見える夫に優しく笑いかければ、気にしちゃい無いさ、だが悪いな……と似たような優しい微笑が返ってくる。
「だが代わりにあの陶器は離さなかった。砕けちまったがな」
「一さんの身の危険を変わりに引き受けてくれたんだと、私は思っていますよ。……私の造形が甘かったせいかもしれませんが」
「ハハッ、何よりお前自身がこうしてそこにいるんだ、物には拘らんさ」
「一さん……」
「だが力になった、それは確かだ。負け戦の中、己が歩いてきた道を信じて戦う。その大変さは分かっちゃいたが、厳しくなった時……触れる度に力を取り戻したぞ」
そんな想いで身に付け触れていてくれたとは。思わぬ告白に夢主の胸が熱く高まっていった。
明日をも知れぬ戦火の中、離れていても想ってくれていた事が、力になれた事が嬉しかった。
「おいおい、泣くんじゃないぞ」
「はいっ……」
涙をぐっと堪えてもう一度手紙に目を通し、幸せを感じて微笑んだ。元通りに畳み、白い包みを胸に当てた。
幸せを噛み締めるように目を閉じている。
「やれやれ、大袈裟だな」
「大袈裟にもなりますよ、だって……奇跡じゃありませんか」
「奇跡か」
「出会いから……一緒に過ごした日々も、無事に再会できた事も、こうやって一緒に……座っている事も」
「そうか」
「そうです」
「奇跡のような必然か……」
「えっ」
ぼそりと呟いた後、斎藤は口を閉じるがどこか口元が緩るんでいた。
黙って武具の手入れを再開する顔はとてもご機嫌だ。