14.忘れた頃に

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主人公の女の子

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主人公の女の子

藤の花は御庭番衆の四乃森蒼紫が夢主を密かに護衛した夜、枕元に残していったものだ。
一度二度ではなく、度々その花は残された。
斎藤は自身がいない間に侵入を許したのかと、最悪の事態を考えた。

壬生でも西本願寺でも容易に忍び込んできた男だ。
仕えていた徳川家が政治の実権を失い江戸城を出て、御庭番衆は今どこで何を糧に生きているのか。
明治政府に抵抗した者も幾人か仕官に迎えられている。あれほど忍ぶ事に長けているならば、働き口はあるだろう。

「道中で紛失したか」

比古が運んだ荷に入っていた写本と藤の花を挟んだ紙。
失くすだろうか、いやあの男とて万能ではないはずだ。不意に物を失くす事もあるだろう。

「しかし……夢主、散らかっているがこのまま置いておいてくれ」

「はぃ……」

斎藤は思い立って家の中に不審な点が無いか探り始めた。
素早く次々部屋を確認していく。
床下も天井の板も異常は無い。壁や柱におかしな傷も無ければ、手を加えた跡も無い。庭や塀、屋根も異常は無い。

「気のせいか……」

蒼紫が侵入した形跡は残っていないか家中を探すが、斎藤の目に留まるものは無かった。

「一さん、どうしたんですか」

「いや、家を確認しただけだ。大丈夫だ。万一にもと思ってな」

夢主の待つ二階の部屋に戻った斎藤は再び武具の前に腰を落とし、手入れを再開した。

紛失でなければ突然消えた事にどんな意味があるのか。
藤、奴が忍びを表した花だと聞いた。届けられた意味は存在の表示、それとも別の何かを示す為か。
斎藤は様々に思案しながら、手を動かしていた。

夢主

「はい」

「お前、あいつに惚れられていたと思うか」 

「えぇっ、何ですか突然!」

「いいから、勘で答えろ。俺に遠慮はいらん」

「そんな……そんなこと無いと思いますよ!女の人には困らないお顔ですし、慕ってくれる女の子もいたでしょうし……私なんて」

慕ってくれると言ってもあの頃の操はよちよち歩きの幼子だ。だが蒼紫自身もまだ大人とは言えない年頃だった。そんな想いは無いだろう。
酔い潰れてあられもない姿で寝ていた事を咎められた記憶はあるが、きっとそんな目では見ていないはず……だけれども……
夢主は自信は持てないが、思い違いでしょうと大袈裟に頭を動かした。

「そうか」

夢主が俺に娶られ、行く宛ての無くなった想いを回収しに来た。そんな阿呆な訳あるまい。
やはり新津が紛失したのだろうか。
斎藤は理由が分からないが害は無さそうだと、考えを切り替えた。
夢主も消えた花を諦めるように紙を折り畳んだ。

再び手を動かす斎藤を余所に、紙を置くと次に写本の奥に置かれた手紙を取り出した。
丁寧に白い上包みが巻かれている。

「ふふっ」

小さく聞こえた笑い声に斎藤が顔を上げると、いつだったか沖田の調子に巻き込まれて手渡した手紙を手に、夢主が微笑んでいた。

「随分と懐かしいな」

「はいっ、ちゃんと持ってきたんですよ、凄く嬉しかったから……傍に控えて貴女を守らん、」

「おい、目の前で読むんじゃないよ」

くすりと首を傾げるが、夢主は手紙を畳もうとはせず、嬉しそうに手紙に目を戻した。
以前は読めなかった最後の一行を見つめている。斎藤に付き合ってもらい、崩した文字も読めるように励んだ成果はしっかりと出ていた。

「もうしっかりと読めます……」

「目を通していなかったのか」

「はい。なんだか勿体無いなって、全部読んじゃうのが……大切な物だと思ったら、読めない部分を読まずに取っておきたい気がして」

馬鹿が……斎藤が鼻をならすが夢主は構わず続けた。

「だから、実は初めてなんです。こうして全部を読むの……日もすがら貴女に陽が差さん事を、夜もすがら貴女に月が輝かん事を……」

最後の一行に目を落とし、小さく笑ってから言葉を口にした。

「そして全てを受け入れん」

手紙を読み上げる声に、斎藤の低い声が重なった。合図でもして読み合わせたように綺麗に重なった二人の声。
夢主は何かに引かれるよう顔を上げた。

「一さん」

「覚えているさ、深い意味は無いつもりだったんだが、こうも意味ありげになってしまうとはな」

照れを誤魔化そうとでもしているのか、自らを嘲るようにフッと笑った。
目を伏せると自ずと武器に触れる手が止まる。
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