12.秘め事
夢主名前設定
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……いいんだ、由美さんと華火さんの姿が見られたし……
良いではないかと自分に言い聞かせるよう、夢主は心の中で呟いた。
……由美さんは志々雄さんと、華火さんは命を……
二人の行く末を考えるが、小さく首を振った。全ての歯車を自分一人で止め、良い形に組み直す事など不可能だ。
少なくとも、記憶の中の由美は最期に幸せだと笑っていた。
人の価値観は違うもの。夢主が今、良かれと組みなおす歯車が正しいとは限らない。
それは誰にでも当てはまる。
沖田の歯車は一度夢主が組み替えてしまった。それは正しいと信じ、願っている。生を長らえ、自分の道場を持つという夢を叶えている。
これから先は沖田自身が作り上げていかなければならない。
「斎藤さん、どういう意味ですか」
「知るか、君が聞け」
一人思案する夢主の前で、先程の言葉の意味を沖田が顔を寄せてひそひそ訊ねるが、斎藤は冷たく受け流した。
見なかった事、聞かなかった事にするから、あとは預かり知らぬと言いたいのだろう。
好きにすればいい、その代わりに気になるからチラつかせるなと言った所か。気にしたくないのは夢主自身の為でもあり沖田の為でもある。割り切るには必要なのだろう。
斎藤は一人納得し夢主を目で追いかけた。沖田の食事の為に立ち上がって部屋を出て行く。
そんな斎藤を沖田が横から突っついた。
「ねぇ、斎藤さん」
「うるさい、好きにしろって事だろう、陰でやれって事だ」
「あぁ成る程!さすがは斎藤さんよくお分かりで。という事は…………夢主ちゃんは優しいですね、あははっ」
「あぁ、そういう事だ。全く大馬鹿だ」
こんな阿呆の為に考え悩んで、遊郭にまで踏み入れて。
はぁっと大きな溜め息をついて横を見れば、にこにこと相変わらずの男が座っている。
「いっそ諦めて警察に来い」
「嫌ですよ、いーやーでーすっ、あははっ」
「貴様っ」
沖田のふざけた態度に斎藤がギリリと歯を食いしばった所で夢主が戻ってきた。
遅くなりましたと発した夢主の声に隠れて、斎藤は小声で伝えた。
「正式ではなくてもいい、時々仕事をやるから動け。その方が道場に籠もっているよりいいだろう」
「でも稽古がありますからそうそう離れられませんよ、皆、真面目に通ってくれるんです」
「分かっている、町に出て半日で済む調べも多い。人手が足りん時に声を掛けるぞ」
「ふぅん……まぁ気には掛けておきますけどね。あてにはしないでくださいよ」
「何のお話ですか」
「何でもない」
「何でもありませんよ」
夢主が訊ねると二人の声が揃い、きょとんと首を傾けてしまった。
「ふふっ、仲良しさんなんですね」
仲良しと言われ眉間に皺を刻む斎藤の横で、ことりと音を立てて置かれた膳を沖田が覗き込んだ。
「いやいやぁ、仲良しなんて……わぁ美味しそうですね!」
ご機嫌な沖田の横顔を見て、斎藤は刀の話を思い出した。沖田の刀が町で目撃されている。
伝えたいが夢主がいない時が良いだろう。
一旦話を飲み込み、斎藤も共に箸を進めた。
「一さん、たまにはこんな御夕飯も楽しいですね」
「フン、まぁたまには、だな」
目を合わせてニヤリと目を細める斎藤に、沖田も敢えて好戦的な視線を返した。
「やっぱり夢主ちゃんの手料理は美味しいなぁ~!まぁ僕もほぼ毎日頂いていますけどね、いつもありがとう」
「そんな……」
さらりと嬉しい言葉をくれる沖田に赤面すると、斎藤は小さく咳払いをして「うまい」と呟いた。
ぷっ……と沖田が笑いを堪える横で、夢主は噴き出す代わりに、はにかむ斎藤を愛おしげに見つめた。
普段から「うまい」と褒めてくれるのに、人がいるだけでこんなに恥ずかしがるなんて。
夢主は夫の可愛い秘密を知ったようで胸がじんわり熱くなった。今すぐ抱きしめたいほど愛おしい。
「嬉しいです、一さん」
夢主の色付いた微笑みに、斎藤の顔まで赤くなりそうだ。
いつものように、フンと鼻をならして顔を逸らすが、沖田に気付かれぬよう目を合わせると、静かにニッと笑って見せた。
片瞬きのように眇めて目配せをすると、斎藤は夢主と密かに微笑み合った。
……こんな秘密なら悪くないだろう……
夢主は笑んだまま、そっと頷いた。
良いではないかと自分に言い聞かせるよう、夢主は心の中で呟いた。
……由美さんは志々雄さんと、華火さんは命を……
二人の行く末を考えるが、小さく首を振った。全ての歯車を自分一人で止め、良い形に組み直す事など不可能だ。
少なくとも、記憶の中の由美は最期に幸せだと笑っていた。
人の価値観は違うもの。夢主が今、良かれと組みなおす歯車が正しいとは限らない。
それは誰にでも当てはまる。
沖田の歯車は一度夢主が組み替えてしまった。それは正しいと信じ、願っている。生を長らえ、自分の道場を持つという夢を叶えている。
これから先は沖田自身が作り上げていかなければならない。
「斎藤さん、どういう意味ですか」
「知るか、君が聞け」
一人思案する夢主の前で、先程の言葉の意味を沖田が顔を寄せてひそひそ訊ねるが、斎藤は冷たく受け流した。
見なかった事、聞かなかった事にするから、あとは預かり知らぬと言いたいのだろう。
好きにすればいい、その代わりに気になるからチラつかせるなと言った所か。気にしたくないのは夢主自身の為でもあり沖田の為でもある。割り切るには必要なのだろう。
斎藤は一人納得し夢主を目で追いかけた。沖田の食事の為に立ち上がって部屋を出て行く。
そんな斎藤を沖田が横から突っついた。
「ねぇ、斎藤さん」
「うるさい、好きにしろって事だろう、陰でやれって事だ」
「あぁ成る程!さすがは斎藤さんよくお分かりで。という事は…………夢主ちゃんは優しいですね、あははっ」
「あぁ、そういう事だ。全く大馬鹿だ」
こんな阿呆の為に考え悩んで、遊郭にまで踏み入れて。
はぁっと大きな溜め息をついて横を見れば、にこにこと相変わらずの男が座っている。
「いっそ諦めて警察に来い」
「嫌ですよ、いーやーでーすっ、あははっ」
「貴様っ」
沖田のふざけた態度に斎藤がギリリと歯を食いしばった所で夢主が戻ってきた。
遅くなりましたと発した夢主の声に隠れて、斎藤は小声で伝えた。
「正式ではなくてもいい、時々仕事をやるから動け。その方が道場に籠もっているよりいいだろう」
「でも稽古がありますからそうそう離れられませんよ、皆、真面目に通ってくれるんです」
「分かっている、町に出て半日で済む調べも多い。人手が足りん時に声を掛けるぞ」
「ふぅん……まぁ気には掛けておきますけどね。あてにはしないでくださいよ」
「何のお話ですか」
「何でもない」
「何でもありませんよ」
夢主が訊ねると二人の声が揃い、きょとんと首を傾けてしまった。
「ふふっ、仲良しさんなんですね」
仲良しと言われ眉間に皺を刻む斎藤の横で、ことりと音を立てて置かれた膳を沖田が覗き込んだ。
「いやいやぁ、仲良しなんて……わぁ美味しそうですね!」
ご機嫌な沖田の横顔を見て、斎藤は刀の話を思い出した。沖田の刀が町で目撃されている。
伝えたいが夢主がいない時が良いだろう。
一旦話を飲み込み、斎藤も共に箸を進めた。
「一さん、たまにはこんな御夕飯も楽しいですね」
「フン、まぁたまには、だな」
目を合わせてニヤリと目を細める斎藤に、沖田も敢えて好戦的な視線を返した。
「やっぱり夢主ちゃんの手料理は美味しいなぁ~!まぁ僕もほぼ毎日頂いていますけどね、いつもありがとう」
「そんな……」
さらりと嬉しい言葉をくれる沖田に赤面すると、斎藤は小さく咳払いをして「うまい」と呟いた。
ぷっ……と沖田が笑いを堪える横で、夢主は噴き出す代わりに、はにかむ斎藤を愛おしげに見つめた。
普段から「うまい」と褒めてくれるのに、人がいるだけでこんなに恥ずかしがるなんて。
夢主は夫の可愛い秘密を知ったようで胸がじんわり熱くなった。今すぐ抱きしめたいほど愛おしい。
「嬉しいです、一さん」
夢主の色付いた微笑みに、斎藤の顔まで赤くなりそうだ。
いつものように、フンと鼻をならして顔を逸らすが、沖田に気付かれぬよう目を合わせると、静かにニッと笑って見せた。
片瞬きのように眇めて目配せをすると、斎藤は夢主と密かに微笑み合った。
……こんな秘密なら悪くないだろう……
夢主は笑んだまま、そっと頷いた。