12.秘め事
夢主名前設定
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「だだっ駄目ですよっ、私は一さんと」
「あははっ、分かっていますよ!だからもう触れないように気をつけているの……夢主ちゃんもご存知ですよね」
「総司さん……」
体の警戒を解いて向き直れば、沖田の表情に霞が見える。
「だからね、だからこそ来ちゃうんだ……人肌恋しいとは情けないでしょう」
「そんな事……」
人肌という言葉に夢主は生唾を飲み込んだ。
本当にこの人は妓の肌を求めてやって来るのか、悲しい瞳で語る姿がとても痛々しい。
「ごめんなさい、不愉快かもしれないけど……そうなんだ。それともう一つ理由があるんです」
「理由?」
「はい……懐かしいんです。この雰囲気が……先程話したように、しょっちゅう近藤さんや土方さんの護衛で島原や新町に行きましたから。時間を持て余して二階から通りを眺めたり、気を利かして呼んでくださった芸妓さんにお酌をしてもらったり……たまに連れ戻しにやって来る隊士の姿……ふはっ、近藤さん怒られてたなぁ」
沖田は馴染みの妓楼を見上げてはいるが、その目に映るものは遥か遠くにあった。
遠い空の向こうの遠い日々を見ている。
「あの時間を思い出せるんです。とても楽しかった……楽しそうなお二人をそばに感じてね、いい時間だったんです」
「総司さん……」
「ははっ、懐かしい話をしちゃったな」
ふふっと微笑む沖田は、何か吹っ切ったように爽やかだ。
すっかり変わってしまった毎日の中で、たまにやって来てこの景色に遠い思い出を重ねる事が、心を満たし安定させる為に必要なのかもしれない。
沖田が自分なりに導き出したのだろう。
「……総司さん、いいんですか」
「んっ?」
「その、中に入らなくて……そろそろ……私、一人で帰れます。まだ明るいですし……」
「いいの、僕が行っても」
「だっ、だって……」
意地悪な顔を作った沖田がクスリと笑い、夢主は真っ赤な顔で口を閉じた。
「夢主に君を止める権利は無い、だろう。人の家内を苛めるなよ」
「はっ、一さん!!」
「よぉ」
浅草での待ち合わせをすっかり忘れていた夢主は斎藤の姿に驚き、次に心から安心した。どうして良いか分からず狼狽えていたが、これでもう大丈夫と不思議な安堵を感じる。
傍にいてくれれば全てを解決してくれる気がしてしまう、頼もしい夫。
家を出た時と違う服装に目を惹かれた。
洋装のシャツと袴の組み合わせ、普段斎藤が行わない組み合わせに一瞬で見惚れた。
「おや斎藤さん、どうしてこんな所に」
「これでも市中警備の最中だ」
「あははっ、旦那様に見つかっちゃいましたね、これは失敬」
おろおろと二人の間で顔を動かす夢主をよそに、斎藤と沖田はいつもの調子で言葉を交わしている。
フン……ふざける沖田を斎藤は鼻であしらった。
「今も昔も夢主ちゃんを苛めるのは楽しくて。斎藤さんも同じでしょう」
「ド阿呆が。お前と一緒にするな。夢主を開放しろ、戻りたけりゃ勝手に戻れ、行って来いよ」
「そうですねぇ、行って来いと言われましてもね」
「俺はこいつと帰る。一緒に来たいなら来ればいいし、女を抱きたいならさっさと行ってこい」
真っ赤な顔でやりとりを見守るうちに、夢主はそこに潜んだ斎藤の優しさに気が付いた。
家族のように、一緒に来ても良いと家に誘っているのだ。
「ありがとうございます。斎藤さんは結構いい人ですよね」
「馬鹿を言うな。行くぞ、夢主」
「はい……あのっ」
「あれっ、斎藤さん市中警備の最中なんじゃありませんか」
「野暮用を済ませたんで市中警備しながらここに来たんだよ。今日の勤務はここで終いだ」
「ははっ、随分と調子の良い警官だなぁ」
斎藤は照れ隠しにフンと笑って歩き始めた。
夢主は追いかけねばと慌てるが、沖田を放って行く訳にもいかない。
「あの総司さん、良かったら晩ご飯、うちにいらしてください。一さんもああ言ってましたし」
「ふふっ、ありがとう。僕は一先ず外に出て散歩して、頭を冷やしてきます。まだ日もありますしね」
「いつでも大丈夫ですから、本当にいつでも来てくださいね!」
「ありがとう」
夢主は後ろ髪を引かれながら、斎藤の背中を追いかけた。振り向けば沖田はその場でにこにこと手を振っている。
沖田の手続きで得た通行札を斎藤に渡し、二人は吉原の郭の外に出た。
「あははっ、分かっていますよ!だからもう触れないように気をつけているの……夢主ちゃんもご存知ですよね」
「総司さん……」
体の警戒を解いて向き直れば、沖田の表情に霞が見える。
「だからね、だからこそ来ちゃうんだ……人肌恋しいとは情けないでしょう」
「そんな事……」
人肌という言葉に夢主は生唾を飲み込んだ。
本当にこの人は妓の肌を求めてやって来るのか、悲しい瞳で語る姿がとても痛々しい。
「ごめんなさい、不愉快かもしれないけど……そうなんだ。それともう一つ理由があるんです」
「理由?」
「はい……懐かしいんです。この雰囲気が……先程話したように、しょっちゅう近藤さんや土方さんの護衛で島原や新町に行きましたから。時間を持て余して二階から通りを眺めたり、気を利かして呼んでくださった芸妓さんにお酌をしてもらったり……たまに連れ戻しにやって来る隊士の姿……ふはっ、近藤さん怒られてたなぁ」
沖田は馴染みの妓楼を見上げてはいるが、その目に映るものは遥か遠くにあった。
遠い空の向こうの遠い日々を見ている。
「あの時間を思い出せるんです。とても楽しかった……楽しそうなお二人をそばに感じてね、いい時間だったんです」
「総司さん……」
「ははっ、懐かしい話をしちゃったな」
ふふっと微笑む沖田は、何か吹っ切ったように爽やかだ。
すっかり変わってしまった毎日の中で、たまにやって来てこの景色に遠い思い出を重ねる事が、心を満たし安定させる為に必要なのかもしれない。
沖田が自分なりに導き出したのだろう。
「……総司さん、いいんですか」
「んっ?」
「その、中に入らなくて……そろそろ……私、一人で帰れます。まだ明るいですし……」
「いいの、僕が行っても」
「だっ、だって……」
意地悪な顔を作った沖田がクスリと笑い、夢主は真っ赤な顔で口を閉じた。
「夢主に君を止める権利は無い、だろう。人の家内を苛めるなよ」
「はっ、一さん!!」
「よぉ」
浅草での待ち合わせをすっかり忘れていた夢主は斎藤の姿に驚き、次に心から安心した。どうして良いか分からず狼狽えていたが、これでもう大丈夫と不思議な安堵を感じる。
傍にいてくれれば全てを解決してくれる気がしてしまう、頼もしい夫。
家を出た時と違う服装に目を惹かれた。
洋装のシャツと袴の組み合わせ、普段斎藤が行わない組み合わせに一瞬で見惚れた。
「おや斎藤さん、どうしてこんな所に」
「これでも市中警備の最中だ」
「あははっ、旦那様に見つかっちゃいましたね、これは失敬」
おろおろと二人の間で顔を動かす夢主をよそに、斎藤と沖田はいつもの調子で言葉を交わしている。
フン……ふざける沖田を斎藤は鼻であしらった。
「今も昔も夢主ちゃんを苛めるのは楽しくて。斎藤さんも同じでしょう」
「ド阿呆が。お前と一緒にするな。夢主を開放しろ、戻りたけりゃ勝手に戻れ、行って来いよ」
「そうですねぇ、行って来いと言われましてもね」
「俺はこいつと帰る。一緒に来たいなら来ればいいし、女を抱きたいならさっさと行ってこい」
真っ赤な顔でやりとりを見守るうちに、夢主はそこに潜んだ斎藤の優しさに気が付いた。
家族のように、一緒に来ても良いと家に誘っているのだ。
「ありがとうございます。斎藤さんは結構いい人ですよね」
「馬鹿を言うな。行くぞ、夢主」
「はい……あのっ」
「あれっ、斎藤さん市中警備の最中なんじゃありませんか」
「野暮用を済ませたんで市中警備しながらここに来たんだよ。今日の勤務はここで終いだ」
「ははっ、随分と調子の良い警官だなぁ」
斎藤は照れ隠しにフンと笑って歩き始めた。
夢主は追いかけねばと慌てるが、沖田を放って行く訳にもいかない。
「あの総司さん、良かったら晩ご飯、うちにいらしてください。一さんもああ言ってましたし」
「ふふっ、ありがとう。僕は一先ず外に出て散歩して、頭を冷やしてきます。まだ日もありますしね」
「いつでも大丈夫ですから、本当にいつでも来てくださいね!」
「ありがとう」
夢主は後ろ髪を引かれながら、斎藤の背中を追いかけた。振り向けば沖田はその場でにこにこと手を振っている。
沖田の手続きで得た通行札を斎藤に渡し、二人は吉原の郭の外に出た。