12.秘め事
夢主名前設定
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「あははっ、そんなに気にしなくてもいいんですよ」
「でも……なんだか……怖いです」
「そっか」
「それに総司さん、笑うなんて酷いですよ」
どんな事情かは分からないが売られてきた妓達の前で、そんな朗らかに笑うなど夢主には出来ない。
「……ごめんね」
涙目で頷く夢主はこれ以上遊女に近付けない。
だがここに来た目的を果たさなくて良いのだろうか。そう考えたのは沖田だった。
「揚がってみますか、芸妓さんの芸を見るだけでも出来るんですよ。お世話になっている妓楼のご主人に話だけでも聞いてみますか、僕のこと」
「えっ……」
「僕のことが気になってここまでついて来てくれたんでしょう、ありがとうございます。それに……ごめんね、心配と言うか、嫌な思いをさせちゃったみたいで……」
「それじゃやっぱり……総司さんはここに」
「えぇ、本当です。月に一度か二度か、それ位ですけれど」
本当に沖田は廓で妓を買って、肌を重ねている。
はっきり認められた事実に対し、湧き上がる感情がどんなものか、夢主自身にも分からなかった。
もやもやするのは、妓を買う行為への嫌悪か。それとも役に立てない自分への悔しさか。
分かってあげられない、優しくない自分が許せないのだろうか。
どう言葉を紡げば良いのか、迷いながら顔を上げると、沖田は優しい笑顔を湛えている。
どうしていつもそんなに真っ直ぐな瞳でいられるのか……
夢主が声を出そうと決意したその時、二人の間を割って通り過ぎる背丈ある遊女と、お付の禿らしき女の子がいた。
「姐さぁ~ん、いけないんだぁ、お客様の前ですよぉ~」
「いいんだよ、真っ昼間っから妓楼の前で痴話喧嘩してる方が悪いんだよ。それより行くわよ、昼見世始まっちゃったじゃない」
「ごめんなさぁ~い、あたしのせいでぇ、姐さん怒られちゃいますかぁ」
「怒られやしないさ、私は今注目の売れっ子だからね、華火は何も心配しなくていいんだよ。昼三だってもうすぐさ」
「姐さんならなれるよぉ。あたし姐さんにずっとついて行くよぉ」
「そうかい、さぁ早く、華火」
妓達は妓楼に入り、聞こえていた声も消えていった。
……由美さんだ。もう一人は華火さんって言ってた、由美さんがお世話する子……まだ子供だ……
後に由美が志々雄と出会う頃、新造に上がっている華火。彼女は今はまだ幼い禿でしかなかった。
慣れない様子から、まだ売られてきて間もないのかもしれない。
一方の由美は花盛り、まだ昼三の身までは上がっていないようだが、聞こえてきた話からは既に人気が上がっているらしい。
これから増々磨きがかかり、やがて吉原一の昼三となり、花魁道中を繰り返すのだろう。
二人が姿を消した赤猫楼から沖田に顔を戻し、再び真っ直ぐな笑顔を見つめた。
「総司さんが遊郭って、やっぱり繋がらないです」
「そうですか、僕だって男ですからね……以前はあまり湧いて来なかった熱と言えば良いんでしょうかね」
「熱……」
「僕も女の人に触れたい、って思う事があるんですよ。……近頃ね、ここ半年程でしょうか」
触れる、それはもちろん男と女の触れ合い。人妻になり何度も肌を重ねている夢主には、その全てが想像出来た。
顔の熱で眩暈がするほど、頬が赤く染まっている。
「あははははっ、ごめんね、変な事を教えちゃいましたね。でもそんな自分も嫌じゃないんですよ。きっと本気で人を愛おしく思えたから、生まれてきた望みだと思うんです」
そう、夢主を好いて心から愛おしく思うことが出来たから、感じられるようになった欲。
だから沖田は拒絶しなかった。初めは戸惑った熱も、今では自分を形作るひとつになっている。
「わわわっ私は総司さんをっ、今でもお友達のような兄妹のような、家族……家族じゃなくても、身内みたいな……不思議な存在です」
「うんっ」
そうだねと首を傾げる沖田は、それでどうしたのかなと続きを待っているようにも見える。
急かされた訳ではないが、何故か焦りで言葉がもつれてしまう。
「でっ、でもっ!淋しそうにしている姿は放っておけません……その……そういうお相手はもちろん無理ですけど、話の相手とかでしたらいくらでも……」
「ふふっ、ありがとう。前みたいに手を握って抱きしめたり出来ればいいんですけどね」
にこりと首を傾げて両手を広げる沖田に驚き、夢主は体を庇うように飛び退いた。
「でも……なんだか……怖いです」
「そっか」
「それに総司さん、笑うなんて酷いですよ」
どんな事情かは分からないが売られてきた妓達の前で、そんな朗らかに笑うなど夢主には出来ない。
「……ごめんね」
涙目で頷く夢主はこれ以上遊女に近付けない。
だがここに来た目的を果たさなくて良いのだろうか。そう考えたのは沖田だった。
「揚がってみますか、芸妓さんの芸を見るだけでも出来るんですよ。お世話になっている妓楼のご主人に話だけでも聞いてみますか、僕のこと」
「えっ……」
「僕のことが気になってここまでついて来てくれたんでしょう、ありがとうございます。それに……ごめんね、心配と言うか、嫌な思いをさせちゃったみたいで……」
「それじゃやっぱり……総司さんはここに」
「えぇ、本当です。月に一度か二度か、それ位ですけれど」
本当に沖田は廓で妓を買って、肌を重ねている。
はっきり認められた事実に対し、湧き上がる感情がどんなものか、夢主自身にも分からなかった。
もやもやするのは、妓を買う行為への嫌悪か。それとも役に立てない自分への悔しさか。
分かってあげられない、優しくない自分が許せないのだろうか。
どう言葉を紡げば良いのか、迷いながら顔を上げると、沖田は優しい笑顔を湛えている。
どうしていつもそんなに真っ直ぐな瞳でいられるのか……
夢主が声を出そうと決意したその時、二人の間を割って通り過ぎる背丈ある遊女と、お付の禿らしき女の子がいた。
「姐さぁ~ん、いけないんだぁ、お客様の前ですよぉ~」
「いいんだよ、真っ昼間っから妓楼の前で痴話喧嘩してる方が悪いんだよ。それより行くわよ、昼見世始まっちゃったじゃない」
「ごめんなさぁ~い、あたしのせいでぇ、姐さん怒られちゃいますかぁ」
「怒られやしないさ、私は今注目の売れっ子だからね、華火は何も心配しなくていいんだよ。昼三だってもうすぐさ」
「姐さんならなれるよぉ。あたし姐さんにずっとついて行くよぉ」
「そうかい、さぁ早く、華火」
妓達は妓楼に入り、聞こえていた声も消えていった。
……由美さんだ。もう一人は華火さんって言ってた、由美さんがお世話する子……まだ子供だ……
後に由美が志々雄と出会う頃、新造に上がっている華火。彼女は今はまだ幼い禿でしかなかった。
慣れない様子から、まだ売られてきて間もないのかもしれない。
一方の由美は花盛り、まだ昼三の身までは上がっていないようだが、聞こえてきた話からは既に人気が上がっているらしい。
これから増々磨きがかかり、やがて吉原一の昼三となり、花魁道中を繰り返すのだろう。
二人が姿を消した赤猫楼から沖田に顔を戻し、再び真っ直ぐな笑顔を見つめた。
「総司さんが遊郭って、やっぱり繋がらないです」
「そうですか、僕だって男ですからね……以前はあまり湧いて来なかった熱と言えば良いんでしょうかね」
「熱……」
「僕も女の人に触れたい、って思う事があるんですよ。……近頃ね、ここ半年程でしょうか」
触れる、それはもちろん男と女の触れ合い。人妻になり何度も肌を重ねている夢主には、その全てが想像出来た。
顔の熱で眩暈がするほど、頬が赤く染まっている。
「あははははっ、ごめんね、変な事を教えちゃいましたね。でもそんな自分も嫌じゃないんですよ。きっと本気で人を愛おしく思えたから、生まれてきた望みだと思うんです」
そう、夢主を好いて心から愛おしく思うことが出来たから、感じられるようになった欲。
だから沖田は拒絶しなかった。初めは戸惑った熱も、今では自分を形作るひとつになっている。
「わわわっ私は総司さんをっ、今でもお友達のような兄妹のような、家族……家族じゃなくても、身内みたいな……不思議な存在です」
「うんっ」
そうだねと首を傾げる沖田は、それでどうしたのかなと続きを待っているようにも見える。
急かされた訳ではないが、何故か焦りで言葉がもつれてしまう。
「でっ、でもっ!淋しそうにしている姿は放っておけません……その……そういうお相手はもちろん無理ですけど、話の相手とかでしたらいくらでも……」
「ふふっ、ありがとう。前みたいに手を握って抱きしめたり出来ればいいんですけどね」
にこりと首を傾げて両手を広げる沖田に驚き、夢主は体を庇うように飛び退いた。