12.秘め事
夢主名前設定
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「この後、浅草で待ち合わせをしてるんですけど……浅草としか決めてなくて」
「まさか旦那はん?」
「その、……はい」
散々「探すのは得意だ」といい続ける夫だから、きっと浅草を歩いていれば本当に見つけて合流してくれるのだろう。
そうは思うが、本当に落ち合えるか不安もある。
「夢主はん旦那はんがいるんやもんなぁ、どんな人なん?羨ましいわぁ」
どんなと訊かれ、人相が悪いと言われがちな斎藤の顔が思い浮かんだ。
確かに目つきは悪いが、弱者を守り悪党は逃さない、徹底した己の信念を持っている。決して流されない強い心、それは優しさにも繋がる。
それにたまに見せてくれる斎藤の微笑み、あれは自分だけの笑顔、とても優しくて温かい眼差し。
斎藤の良い部分が次々と思い浮かび、夢主の頬が緩んでいた。
「ふふっ……なかなか個性的な人なんですけど……とっても優しい方です」
「いややぁ、のろけられたらうちが照れるわ!旦那はんと待ち合わせならあの辺りかしらねぇ、目立つ大きな門があるでしょう、雷門、待ち合わせといったらあの辺りちゃうやろか」
「雷門……」
「知ってる?」
「はい、聞いた事は……」
のろけ話に照れた妙がくねくね体を揺らしながら教えてくれた雷門、現代でも人が多く集まる場所だ。
夢主もその赤い大きな姿は知っている。
「川に出たら行き過ぎやからね、引き返すんよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ふふっ、旦那はんによろしくね」
「はいっ」
着物を包んでいた風呂敷は、持ち帰る着物が無いため懐にしまい、夢主は妙に再来の約束をして雷門を目指した。
「えぇっと、お店の並んだ通りを進んで、大きなお寺が見えたら右に曲がる……」
赤べこを出る際に妙が教えてくれた道案内を繰り返し呟きながら、きょろきょろと首を動かし、多くの人が行き交う通りを進んだ。
「京の町も繁盛してたけど、こっちは何ていうか……賑やか」
どこか落ち着きのある京の町に比べ、色鮮やかで人々も動きがある。威勢が良いと言うのだろうか。
大きな声で話す店主と客、客同士が笑う声。客を呼びこむ声も元気第一か、とても活発な看板娘が目に留まる。
夢主はこれが江戸っ子なのかと目を細めて眺めた。
楽しそうな町の人々を見て歩くうちに寺を見つけ、言われた角を右に折れた。そのまま行けば立ち止まる人が多いのですぐに分かると、妙の案内はそこで終わっていた。
確かに人が多い。
だがどこもかしこも人だらけ、どちらに雷門があるのか、夢主は再び辺りを見回した。
「誰かに聞いてみようかな……」
声を掛けやすそうな人物を見つけようと周りを見ると、視界の中に見慣れた姿が映りこんだ。
「あっ、総司さんだ……」
浅草を歩く沖田を見つけた。
時代が江戸だった頃に沢山歩いて道に通じている沖田に聞けば間違いない。
もしかしたら斎藤が来るまで一緒に過ごしてくれるかもしれない。そうなれば心強いと閃いて駆け出しそうになるが、慌てて止まった。
斎藤と合流する目的が吉原見学だと思い出したからだ。
しかも理由は沖田が通っているかもしれないと、気になっているからだ。どこへ行くのか、何故そこなのか、訊ねられても理由を沖田に話せまい。
「でも総司さんが本当に吉原に行くなら、ついて行けば間違いないんじゃ……」
入るのを確かめて戻れば良い。見失う前に動かなければと、気付けば夢主は沖田の後姿を追いかけていた。
人混みだか季節はずれの衿巻をしている沖田は特徴的で見失いにくい。離れてついて行ける。
衿巻をした小柄な後姿、楽しそうにゆらゆら頭を揺らしながら歩く背中を追いかけると、やがてそうと分かる場所が見えてきた。
「あれが大門……吉原遊郭の大門だ……」
今の地に移るまでを元吉原、現在の場に移ってからを新吉原と呼び分ける時代もやってくるが、女を求めてやって来る今の男達にとってはどちらも遊郭の吉原でしかない。
まだ日が高いせいか、想像していた程の人影は無かった。まばらに男がいる程度だ。
夢主は大門とその先に見える立派な建物が並ぶ光景に目を奪われた。
「凄い……」
門から伸びる中央の通りは浅草の大通りに負けないほど広い道幅で、中央には桜らしき木も植えられている。
桜が好きな夢主は木に気付いた。塀と堀で区切られた廓は、美しく造られた色町。壮大さに驚き、余りの美しさに得も言われぬ切なさを感じた。
「まさか旦那はん?」
「その、……はい」
散々「探すのは得意だ」といい続ける夫だから、きっと浅草を歩いていれば本当に見つけて合流してくれるのだろう。
そうは思うが、本当に落ち合えるか不安もある。
「夢主はん旦那はんがいるんやもんなぁ、どんな人なん?羨ましいわぁ」
どんなと訊かれ、人相が悪いと言われがちな斎藤の顔が思い浮かんだ。
確かに目つきは悪いが、弱者を守り悪党は逃さない、徹底した己の信念を持っている。決して流されない強い心、それは優しさにも繋がる。
それにたまに見せてくれる斎藤の微笑み、あれは自分だけの笑顔、とても優しくて温かい眼差し。
斎藤の良い部分が次々と思い浮かび、夢主の頬が緩んでいた。
「ふふっ……なかなか個性的な人なんですけど……とっても優しい方です」
「いややぁ、のろけられたらうちが照れるわ!旦那はんと待ち合わせならあの辺りかしらねぇ、目立つ大きな門があるでしょう、雷門、待ち合わせといったらあの辺りちゃうやろか」
「雷門……」
「知ってる?」
「はい、聞いた事は……」
のろけ話に照れた妙がくねくね体を揺らしながら教えてくれた雷門、現代でも人が多く集まる場所だ。
夢主もその赤い大きな姿は知っている。
「川に出たら行き過ぎやからね、引き返すんよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「ふふっ、旦那はんによろしくね」
「はいっ」
着物を包んでいた風呂敷は、持ち帰る着物が無いため懐にしまい、夢主は妙に再来の約束をして雷門を目指した。
「えぇっと、お店の並んだ通りを進んで、大きなお寺が見えたら右に曲がる……」
赤べこを出る際に妙が教えてくれた道案内を繰り返し呟きながら、きょろきょろと首を動かし、多くの人が行き交う通りを進んだ。
「京の町も繁盛してたけど、こっちは何ていうか……賑やか」
どこか落ち着きのある京の町に比べ、色鮮やかで人々も動きがある。威勢が良いと言うのだろうか。
大きな声で話す店主と客、客同士が笑う声。客を呼びこむ声も元気第一か、とても活発な看板娘が目に留まる。
夢主はこれが江戸っ子なのかと目を細めて眺めた。
楽しそうな町の人々を見て歩くうちに寺を見つけ、言われた角を右に折れた。そのまま行けば立ち止まる人が多いのですぐに分かると、妙の案内はそこで終わっていた。
確かに人が多い。
だがどこもかしこも人だらけ、どちらに雷門があるのか、夢主は再び辺りを見回した。
「誰かに聞いてみようかな……」
声を掛けやすそうな人物を見つけようと周りを見ると、視界の中に見慣れた姿が映りこんだ。
「あっ、総司さんだ……」
浅草を歩く沖田を見つけた。
時代が江戸だった頃に沢山歩いて道に通じている沖田に聞けば間違いない。
もしかしたら斎藤が来るまで一緒に過ごしてくれるかもしれない。そうなれば心強いと閃いて駆け出しそうになるが、慌てて止まった。
斎藤と合流する目的が吉原見学だと思い出したからだ。
しかも理由は沖田が通っているかもしれないと、気になっているからだ。どこへ行くのか、何故そこなのか、訊ねられても理由を沖田に話せまい。
「でも総司さんが本当に吉原に行くなら、ついて行けば間違いないんじゃ……」
入るのを確かめて戻れば良い。見失う前に動かなければと、気付けば夢主は沖田の後姿を追いかけていた。
人混みだか季節はずれの衿巻をしている沖田は特徴的で見失いにくい。離れてついて行ける。
衿巻をした小柄な後姿、楽しそうにゆらゆら頭を揺らしながら歩く背中を追いかけると、やがてそうと分かる場所が見えてきた。
「あれが大門……吉原遊郭の大門だ……」
今の地に移るまでを元吉原、現在の場に移ってからを新吉原と呼び分ける時代もやってくるが、女を求めてやって来る今の男達にとってはどちらも遊郭の吉原でしかない。
まだ日が高いせいか、想像していた程の人影は無かった。まばらに男がいる程度だ。
夢主は大門とその先に見える立派な建物が並ぶ光景に目を奪われた。
「凄い……」
門から伸びる中央の通りは浅草の大通りに負けないほど広い道幅で、中央には桜らしき木も植えられている。
桜が好きな夢主は木に気付いた。塀と堀で区切られた廓は、美しく造られた色町。壮大さに驚き、余りの美しさに得も言われぬ切なさを感じた。