12.秘め事
夢主名前設定
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「どうやら探し物は無いようです。世話を掛けました、ご主人」
「いいえ、お力になれず申し訳ない」
「しかしこれだけの刀……実は知り合いの里が日野でしてね、長曽祢虎徹が行方知れずと噂を聞いたのですが」
「あぁ、ある男がご遺体を縁者に頼まれ密かに掘り起こしたら、一緒に埋まっているはずの刀が無かったとか」
「ここに来ていませんか、これだけ刀が集まるのならと思ったのですが」
「いやぁ、残念ですがここにはありませんな。そんな名刀、入れば私は気付くでしょう。目利きにだけは自信がありますので」
「そのようですね」
斎藤も手を伸ばしたくなる刀が幾つも見つかった。
ただの客ならば既に何振か手に取り、その質を確かめているだろう。
「最近は刀の盗みも多いと聞きまして、我々も注意を払っているのです。店の品が奪われないように、また持ち込まれないようにと」
たいしたもんだ、斎藤は塚山の芯の通った商売理念に感心した。
「私も士族の出、盗みを働くなど許せません。ただでさえ刀の道……剣術、武士道、強さというものが失われつつある。刀を輸出している私が言うなど相応しい言葉ではないが、道を失ってはならんのです。そして強くあらねばなりません」
「フッ……色々お抱えですね」
「お恥ずかしい。そう言えば、虎徹は知りませんが、菊一文字則宗でしたら噂を聞いた事がありますよ」
「何と」
「沖田総司が所有したと伝わる刀です。あの方も日野に縁のあるお方でございましょう」
「確かに」
「町で見かけた者が居るそうですよ、私がこの目で見た訳ではないので何とも申せませんが」
「そうですか……貴重なお話をありがとうございます」
……沖田君め、持ち出したのか……
斎藤は厄介事に発展するなよと沖田の顔を思い浮かべ、塚山に聞こえないよう舌打ちをした。
「それにしてもご主人は随分と事情に通じておられるのですな」
「金欲しさに偽の銘を掘られた刀や、適当な話をつけて持ち込まれる刀も多いのです。目利きの力と共に、刀に関する情報を集めるのも大事でしてね。時には、負けた者は刀を取り上げられもします。先の戦で敗れ去った方々の刀の行方も気になる所ではあるのですよ。名だたる剣客の刀、名刀も多いですから」
「そうでしたか……所で、一つ気になる刀があるのですが」
「どちらでしょう」
問われた斎藤が手にしたのは、無駄のない質素な拵えの日本刀だ。
「おぉ、お客様は相当刀に通じておられるようですな。そちらは江戸の名刀、無銘ですがとても強く打たれております。ちょっとやそっとでは折れないでしょう」
「ほぉ、確かにいい顔をしている」
鞘から抜いて刃の様子を確認した斎藤が頷いた。
程よい反りを持ちながら、僅かな歪みも無い刀身、使われた事が無いのか刃は強く鍛えられた鋼そのままの姿で、傷一つ、くすみ一つ見当らない。
片手で顔の前に構え、切っ先の向こうを見つめた。牙突のなりだ。
ニッと小さく笑った斎藤はそのまま刀を納めて店主に向き直った。
「こちらの刀を譲って頂けませんか。失った刀の代わりに」
「えぇ。それでお気が済むのでしたら」
塚山は斎藤の目利きを気に入ったのか、破格の値段で無銘の名刀を譲り渡した。
経費としての金を持ち合わせていた斎藤は、好意をありがたく受けつつも言われた額より多めに代金を渡した。
「お世話になりました」
「いえ、また御用がございましたらいつでもお越しください。買い付けだけではなく手入れのご相談にもご協力致します」
「頼もしいですね。ありがとうございます」
……ここは白だ。屋敷内を探るまでも無い……
怪しい場所には違和感があるものだ。嫌でも勘で察知してしまう、幕末を生き抜いた男の性分。
しかしこの塚山邸で不審な空気は一切感じられない。出くわした使用人すら真っ直ぐな思いで務めに励んでいるようだった。懸命に今を生きている。
敢えて何か感じるとすれば、我が子に対し負い目を感じている店主の気持ちと、あの息子だろう。正義感が強いのかもしれないが、幼く強過ぎる正義は一歩間違えれば暴走してしまう。
暴走したまま大人になれば、どうなるか。
「ま、その時こそ俺の出番だな」
子供の躾は周りの大人の役目だ。俺には関係ないと斎藤は一人静かに肩をすくめた。
思わぬ収穫である、手に入れたばかりの刀を腰に差して、結果報告の為に計画を変え一旦署に戻る事にした。
「いいえ、お力になれず申し訳ない」
「しかしこれだけの刀……実は知り合いの里が日野でしてね、長曽祢虎徹が行方知れずと噂を聞いたのですが」
「あぁ、ある男がご遺体を縁者に頼まれ密かに掘り起こしたら、一緒に埋まっているはずの刀が無かったとか」
「ここに来ていませんか、これだけ刀が集まるのならと思ったのですが」
「いやぁ、残念ですがここにはありませんな。そんな名刀、入れば私は気付くでしょう。目利きにだけは自信がありますので」
「そのようですね」
斎藤も手を伸ばしたくなる刀が幾つも見つかった。
ただの客ならば既に何振か手に取り、その質を確かめているだろう。
「最近は刀の盗みも多いと聞きまして、我々も注意を払っているのです。店の品が奪われないように、また持ち込まれないようにと」
たいしたもんだ、斎藤は塚山の芯の通った商売理念に感心した。
「私も士族の出、盗みを働くなど許せません。ただでさえ刀の道……剣術、武士道、強さというものが失われつつある。刀を輸出している私が言うなど相応しい言葉ではないが、道を失ってはならんのです。そして強くあらねばなりません」
「フッ……色々お抱えですね」
「お恥ずかしい。そう言えば、虎徹は知りませんが、菊一文字則宗でしたら噂を聞いた事がありますよ」
「何と」
「沖田総司が所有したと伝わる刀です。あの方も日野に縁のあるお方でございましょう」
「確かに」
「町で見かけた者が居るそうですよ、私がこの目で見た訳ではないので何とも申せませんが」
「そうですか……貴重なお話をありがとうございます」
……沖田君め、持ち出したのか……
斎藤は厄介事に発展するなよと沖田の顔を思い浮かべ、塚山に聞こえないよう舌打ちをした。
「それにしてもご主人は随分と事情に通じておられるのですな」
「金欲しさに偽の銘を掘られた刀や、適当な話をつけて持ち込まれる刀も多いのです。目利きの力と共に、刀に関する情報を集めるのも大事でしてね。時には、負けた者は刀を取り上げられもします。先の戦で敗れ去った方々の刀の行方も気になる所ではあるのですよ。名だたる剣客の刀、名刀も多いですから」
「そうでしたか……所で、一つ気になる刀があるのですが」
「どちらでしょう」
問われた斎藤が手にしたのは、無駄のない質素な拵えの日本刀だ。
「おぉ、お客様は相当刀に通じておられるようですな。そちらは江戸の名刀、無銘ですがとても強く打たれております。ちょっとやそっとでは折れないでしょう」
「ほぉ、確かにいい顔をしている」
鞘から抜いて刃の様子を確認した斎藤が頷いた。
程よい反りを持ちながら、僅かな歪みも無い刀身、使われた事が無いのか刃は強く鍛えられた鋼そのままの姿で、傷一つ、くすみ一つ見当らない。
片手で顔の前に構え、切っ先の向こうを見つめた。牙突のなりだ。
ニッと小さく笑った斎藤はそのまま刀を納めて店主に向き直った。
「こちらの刀を譲って頂けませんか。失った刀の代わりに」
「えぇ。それでお気が済むのでしたら」
塚山は斎藤の目利きを気に入ったのか、破格の値段で無銘の名刀を譲り渡した。
経費としての金を持ち合わせていた斎藤は、好意をありがたく受けつつも言われた額より多めに代金を渡した。
「お世話になりました」
「いえ、また御用がございましたらいつでもお越しください。買い付けだけではなく手入れのご相談にもご協力致します」
「頼もしいですね。ありがとうございます」
……ここは白だ。屋敷内を探るまでも無い……
怪しい場所には違和感があるものだ。嫌でも勘で察知してしまう、幕末を生き抜いた男の性分。
しかしこの塚山邸で不審な空気は一切感じられない。出くわした使用人すら真っ直ぐな思いで務めに励んでいるようだった。懸命に今を生きている。
敢えて何か感じるとすれば、我が子に対し負い目を感じている店主の気持ちと、あの息子だろう。正義感が強いのかもしれないが、幼く強過ぎる正義は一歩間違えれば暴走してしまう。
暴走したまま大人になれば、どうなるか。
「ま、その時こそ俺の出番だな」
子供の躾は周りの大人の役目だ。俺には関係ないと斎藤は一人静かに肩をすくめた。
思わぬ収穫である、手に入れたばかりの刀を腰に差して、結果報告の為に計画を変え一旦署に戻る事にした。