12.秘め事

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主人公の女の子

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主人公の女の子

「確かに由太郎には信念を貫いて生きていけるように、時代に負けず生き抜ける強い男に……そんな男に成長して欲しいとは願うのですが。今の私には家族を養う力が必要なのです。例え頭を下げて尻尾を振っていると思われようが」

「家族の為に頭を下げる。家族には話せないが我が子に責められるのはお辛いですな」

「お客様もお子さんが」

「いや、家内ならおりますが」

斎藤は夢主が赤子を抱く姿を想像してしまった。
優しすぎて子が我が儘になったら大変だな、いや母に似て優しい子に育つのだろうか。そんな事を考えてしまい、口元を緩めた。

「そうですか……大切になさいませ。……お客様に変な話を聞かせてしまいましたね、失敬。刀をご覧になりたいとか」

「えぇ、探している刀がありましてね」

本音をこぼせる相手がいないのか、塚山は斎藤に胸の内をぽろりと晒し、ほろ苦い顔を見せた。
そして商人の顔に戻り、話を本題へ戻した。

「それでしたら刀の並んだ鑑別室へ案内いたします。店に出す前の品を目利きし手入れする部屋です」

「宜しいので」

「えぇ、鑑別室は一見さんお断りの店みたいな部屋です。特別な紹介状をお持ちの貴方様は信頼出来ます。喜んでお通しいたしましょう」

「そいつはありがたい」

斎藤は蔵のような頑丈な鍵を掛けられた一室に案内された。
室内には手入れ前の刀と思しきくすんだ刀、汚れを帯びた刀から、今まさに店に運ばれるのを待つ美しい拵えで目を引く刀と、様々な刀が並んでいた。
大量に引き取られた安い刀なのか、纏めて大きな箱に入った刀剣類もある。

店主の話では、異国では実用性よりも美術品としての刀が重宝され高く売れるそうだ。拵えはもちろん、刃の輝きと美しい刃紋が値段を分ける。
目利きが出来るおかげで埋もれた刀を見つけ、研ぎに出し蘇った輝きで高値で売れる事もあるらしい。
そうして激動の時代に負けること無く生計を立ててきたのだ。

「随分と多いですね」

「えぇ、今や士族の最後の頼みでもありますからね。先祖代々の刀を持ち込まれますと、さすがに私も胸が苦しいです。出来る限りの対価をお渡し出来るよう心がけているのですが……」

「無理も出来ますまい」

「はい、他と差をつける事も出来ず高値にも限りがあります。逆に安値で輸出しては日本の宝が失われる。難しいのです。私がお役に立てる事は、ほんの微か……暴利を貪っていると取られても致し方ない」

「そんな事はないでしょう、見事なお心がけではありませんか」

「息子には通じれば良いのですが……」

「やがて分かる日が来るでしょう。それよりお尋ねしたいのですが」

「あぁ、申し訳ございません。私事よりも貴方様の刀でしたね」

店主は部屋の中を見渡し、並んだ刀を確認した。

「お客様もご立派です、一度は手放した刀を取り戻そうと尽力なさるとは」

「いえ。ですが私も実はこれでも士族でしてね、刀には思い入れがあります」

「そうですか」

斎藤は見つかるはずのない刀の特徴を店主に伝えた。店主は気の良い人物らしく、部屋の中を隅々まで探してくれた。
だがもちろん見つからない。塚山は申し訳無さそうに首を振った。

……気のいい男だな。元は士族か、苦労してなさる……

利益を得て立派な屋敷を建てようが、引き換えに背負ったものは大きかったようだ。
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