12.秘め事
夢主名前設定
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斎藤にとってすっかり馴染みの警察署への道のり。沖田と二、三の話をし、屋敷を抜けて南へ歩いていく。
署内で今日の仕事を譲ってくれた男から、今朝は着替えを渡された。
「何だこれは」
「そのままの格好で聞き込んでは周りにもバレバレでしょう、せめて服装くらい警察官を脱いでください」
「洋装のシャツに袴か」
「えぇ。町を見れば珍しい格好ではないでしょう。長着に杖の方がお好みでしたか?長着か、洋装と袴を合わせるか。それなりの成功を収めた商人という設定で行っていただきますよ」
「ちっ、変装まで押し付けるな」
「一旦は刀を手放したが、それなりの成功により金を得た。だから愛しい愛しい愛刀を取り戻したいと、貴方はそういう男です」
「それでついでに刀好きが耳にした噂で刀剣を探れとな」
「ご名答!頑張って下さい。店主を刀で脅してはいけませんよ」
「そいつは向こうの出方次第だな」
「またそんな。怪しい影は一切ありません、ただの商人ですから」
「フン」
町外れに屋敷を構えるという塚山商会。そこで調べを終え、浅草へ向かい夢主と合流する。
今日は署へ戻る事も無いだろう。斎藤は地図を頭の中に叩き込み、署を後にした。
斎藤は自分が再び緋村剣心と出会い、今度は共闘するなど知る由も無い。その緋村が関わる事になる塚山由太郎の父に会いに向かった。
屋敷を訪ねて門をくぐると、飛び石にしては大き過ぎる巨大な丸い石が続いていた。
石の周りは白い砂利で敷き詰められ、白い道は奥へ伸びている。飛び石を目印に進めば母屋に辿り着くのだろう。
店主に会う為、抜かりなく紹介状が用意されていた。
贔屓客かつ大物の名が記された紹介状は効果てき面で、変装の衣装と共に受け取ったそれを示した斎藤は、難なく店主のもとへ案内された。
「お待ちしておりました。店主の塚山由左衛門と申します。大事なお客様の紹介です、どうぞこちらへ」
出てきた塚山氏は至って標準的な背丈に肉付き、そして人当たりの良い顔立ち。まさに商人として成功する人物の典型そのものだ。
斎藤は少し愛嬌すらある顔立ちを黙って眺め、やがてポンと脳裏に浮かんだものに一人納得した。
……猿……例えるなら猿だな、猿顔だ……
品のある顔立ちだが、やや開いた耳と眉の上の特徴的な一本皺が目立つ塚山を、斎藤は頭の中で猿に例えた。
訪ねて来たのは自分だけではないのか、屋敷の奥、庭らしき辺りから声が聞こえてくる。
「他にも客人ですか。もしかして迷惑なのではありませんか」
「いえ、お気になさらずに。実は造園しておりましてね、騒々しくて申し訳ございません」
「ほぉ、繁盛なさっているのですね」
「えぇまぁ何と言いますか、このご時世にはありがたい話ですね」
食うに困る者が溢れる東京で、立派な屋敷を建て、新たに庭を造る余裕すら持っている。
遠慮がちに店主が頷くと、並んだ飛び石の向こうから小さな子供が駆けて来た。
「これ坊っちゃま、なりません、お客様ですよ」
「おや」
斎藤が店主と共に目を向けると、幼子とそれを追いかける世話役らしき白髪の男がやって来た。
「お客様、申し訳ございません。これ坊っちゃま」
「ちちうえ、また!だめです!!」
「しっ失礼いたします」
暴れる子の口を塞ぎ、抱えるように爺は去っていった。
「お騒がせしました。一人息子の由太郎です。どうにも私に噛み付きましてね……」
「ほぅ、それはまた」
「あの子はまだ幼いのですが……私が人に頭を下げる姿が嫌いなようです。商人として生きていくには欠かせない事なのですが」
「それはお辛いですね」
「えぇ……商売をしておりますが下級ながら代々の士族。侍だった事を知って以来、息子の態度があぁなんです」
「幼心にも何か信念があるのでしょう、立派なお子さんだ」
斎藤は店主の本音を言葉で導き出そうと、話に乗りつつ言葉を引き出してゆく。
署内で今日の仕事を譲ってくれた男から、今朝は着替えを渡された。
「何だこれは」
「そのままの格好で聞き込んでは周りにもバレバレでしょう、せめて服装くらい警察官を脱いでください」
「洋装のシャツに袴か」
「えぇ。町を見れば珍しい格好ではないでしょう。長着に杖の方がお好みでしたか?長着か、洋装と袴を合わせるか。それなりの成功を収めた商人という設定で行っていただきますよ」
「ちっ、変装まで押し付けるな」
「一旦は刀を手放したが、それなりの成功により金を得た。だから愛しい愛しい愛刀を取り戻したいと、貴方はそういう男です」
「それでついでに刀好きが耳にした噂で刀剣を探れとな」
「ご名答!頑張って下さい。店主を刀で脅してはいけませんよ」
「そいつは向こうの出方次第だな」
「またそんな。怪しい影は一切ありません、ただの商人ですから」
「フン」
町外れに屋敷を構えるという塚山商会。そこで調べを終え、浅草へ向かい夢主と合流する。
今日は署へ戻る事も無いだろう。斎藤は地図を頭の中に叩き込み、署を後にした。
斎藤は自分が再び緋村剣心と出会い、今度は共闘するなど知る由も無い。その緋村が関わる事になる塚山由太郎の父に会いに向かった。
屋敷を訪ねて門をくぐると、飛び石にしては大き過ぎる巨大な丸い石が続いていた。
石の周りは白い砂利で敷き詰められ、白い道は奥へ伸びている。飛び石を目印に進めば母屋に辿り着くのだろう。
店主に会う為、抜かりなく紹介状が用意されていた。
贔屓客かつ大物の名が記された紹介状は効果てき面で、変装の衣装と共に受け取ったそれを示した斎藤は、難なく店主のもとへ案内された。
「お待ちしておりました。店主の塚山由左衛門と申します。大事なお客様の紹介です、どうぞこちらへ」
出てきた塚山氏は至って標準的な背丈に肉付き、そして人当たりの良い顔立ち。まさに商人として成功する人物の典型そのものだ。
斎藤は少し愛嬌すらある顔立ちを黙って眺め、やがてポンと脳裏に浮かんだものに一人納得した。
……猿……例えるなら猿だな、猿顔だ……
品のある顔立ちだが、やや開いた耳と眉の上の特徴的な一本皺が目立つ塚山を、斎藤は頭の中で猿に例えた。
訪ねて来たのは自分だけではないのか、屋敷の奥、庭らしき辺りから声が聞こえてくる。
「他にも客人ですか。もしかして迷惑なのではありませんか」
「いえ、お気になさらずに。実は造園しておりましてね、騒々しくて申し訳ございません」
「ほぉ、繁盛なさっているのですね」
「えぇまぁ何と言いますか、このご時世にはありがたい話ですね」
食うに困る者が溢れる東京で、立派な屋敷を建て、新たに庭を造る余裕すら持っている。
遠慮がちに店主が頷くと、並んだ飛び石の向こうから小さな子供が駆けて来た。
「これ坊っちゃま、なりません、お客様ですよ」
「おや」
斎藤が店主と共に目を向けると、幼子とそれを追いかける世話役らしき白髪の男がやって来た。
「お客様、申し訳ございません。これ坊っちゃま」
「ちちうえ、また!だめです!!」
「しっ失礼いたします」
暴れる子の口を塞ぎ、抱えるように爺は去っていった。
「お騒がせしました。一人息子の由太郎です。どうにも私に噛み付きましてね……」
「ほぅ、それはまた」
「あの子はまだ幼いのですが……私が人に頭を下げる姿が嫌いなようです。商人として生きていくには欠かせない事なのですが」
「それはお辛いですね」
「えぇ……商売をしておりますが下級ながら代々の士族。侍だった事を知って以来、息子の態度があぁなんです」
「幼心にも何か信念があるのでしょう、立派なお子さんだ」
斎藤は店主の本音を言葉で導き出そうと、話に乗りつつ言葉を引き出してゆく。