12.秘め事
夢主名前設定
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朝、斎藤は深い眠りにいる妻を起こさないよう出勤仕度を済ませた。
激しく求めてしまった夜を越えた朝は、いつもそうしている。己を制することが出来た夜は大丈夫なのだが。
「昨夜は少々過ぎた」
言い訳するように呟いて、夢主の頬にとんとんと触れた。
深く眠っている時、普段は出かける間際に声を掛け、にこりと微笑む口元にそっと唇を落としてから仕事へ向かう。
しかしこの日は余裕を持って夢主を起こした。沖田の事で伝えたい話があったのだ。
少し眠そうな姿に昨夜の自我を反省するが、それには触れず本題に入った。
「お前、今日は着物を返しに行くのか」
「あっ、そうでした……返しに行かなくちゃ」
嵐が去った日に出先で派手に転んだ夢主、目の前にあった小間物屋・赤べこの妙から着物を借りた。
妙に出会い、転んだ偶然を喜んだが、転んだ理由が赤べこの看板なのだから、偶然とは言わないのかもしれない。
「店の場所は覚えているか。浅草の辺りだな」
「はい、大丈夫です。浅草の……」
寝惚け眼に籠もった声。
ぼぉっと答える夢主だが、赤べこの周辺を思い描くうちに目が覚めた。
浅草の裏手を行けば吉原がある。昨夜斎藤に語った話を思い出した。
沖田にとって家族のような存在に、我が家がなれたら良い。心の拠り所になれたら、彼の淋しさも少しは埋まるのではないか。
いつもと違う道を行き辿り着いた赤べこだが、一本ずれただけなので道に迷いはしない。
妙に着物を返した後、店から歩けば吉原に辿り着けるかもしれない。
考えていると斎藤が察したようにフッと笑った。
「連れて行ってやろうか」
「えっ」
「吉原だ」
「でも……」
「今日は署から出るんでな。昼飯食った後にでも浅草を歩いて待ってろ。間違っても一人で向かうなよ」
「はっ……はぃ……大丈夫です。場所、知りませんし」
浅草寺からほど遠く無い、その程度しか知らない。
もとより興味を抱いていた夢主は、斎藤が一緒ならと誘いに頷いた。
「一さん、あの……」
「どうした」
「赤べこの娘さん……」
「店の娘か。あれがどうした」
斎藤が店に入ると逃げるように階上へ行ってしまったが、ちらりと見えた姿は何の変哲も無いただの娘だった。
そばに居ようが居まいが自分達に何の影響も無い、そんな存在だろう。
「その……仲良く……近付いてもいいですか」
友達のように会いに行ける存在に。友達なんていなかった、ずっと。それで良いと思っていたが、妙さんなら……少しでも他愛の無い話をしたり、笑い合える女の人。
そんな存在がいてくれたら、どれ程嬉しいだろうか。
「お前は誰かと仲良くなる時に、いちいち誰かの許可を得るのか」
「いえ、でももし一さんのお仕事に差し障るならと思って」
「あそこはただの小間物屋だろう、いい煙草も売っている。自分の生活の中で起こる事はお前が判断して決めればいい。好きにしろ」
わぁっと顔に花を咲かせる夢主に、斎藤の気も緩んだ。
「困った時はすぐに話せよ。さて、俺はもう行くぞ」
斎藤は立ち上がる前にそっと、夢主が出掛けにねだる触れるだけの口吸いを与えた。
昼過ぎに浅草で、待ち合わせの約束をして斎藤は仕事へ向かった。
激しく求めてしまった夜を越えた朝は、いつもそうしている。己を制することが出来た夜は大丈夫なのだが。
「昨夜は少々過ぎた」
言い訳するように呟いて、夢主の頬にとんとんと触れた。
深く眠っている時、普段は出かける間際に声を掛け、にこりと微笑む口元にそっと唇を落としてから仕事へ向かう。
しかしこの日は余裕を持って夢主を起こした。沖田の事で伝えたい話があったのだ。
少し眠そうな姿に昨夜の自我を反省するが、それには触れず本題に入った。
「お前、今日は着物を返しに行くのか」
「あっ、そうでした……返しに行かなくちゃ」
嵐が去った日に出先で派手に転んだ夢主、目の前にあった小間物屋・赤べこの妙から着物を借りた。
妙に出会い、転んだ偶然を喜んだが、転んだ理由が赤べこの看板なのだから、偶然とは言わないのかもしれない。
「店の場所は覚えているか。浅草の辺りだな」
「はい、大丈夫です。浅草の……」
寝惚け眼に籠もった声。
ぼぉっと答える夢主だが、赤べこの周辺を思い描くうちに目が覚めた。
浅草の裏手を行けば吉原がある。昨夜斎藤に語った話を思い出した。
沖田にとって家族のような存在に、我が家がなれたら良い。心の拠り所になれたら、彼の淋しさも少しは埋まるのではないか。
いつもと違う道を行き辿り着いた赤べこだが、一本ずれただけなので道に迷いはしない。
妙に着物を返した後、店から歩けば吉原に辿り着けるかもしれない。
考えていると斎藤が察したようにフッと笑った。
「連れて行ってやろうか」
「えっ」
「吉原だ」
「でも……」
「今日は署から出るんでな。昼飯食った後にでも浅草を歩いて待ってろ。間違っても一人で向かうなよ」
「はっ……はぃ……大丈夫です。場所、知りませんし」
浅草寺からほど遠く無い、その程度しか知らない。
もとより興味を抱いていた夢主は、斎藤が一緒ならと誘いに頷いた。
「一さん、あの……」
「どうした」
「赤べこの娘さん……」
「店の娘か。あれがどうした」
斎藤が店に入ると逃げるように階上へ行ってしまったが、ちらりと見えた姿は何の変哲も無いただの娘だった。
そばに居ようが居まいが自分達に何の影響も無い、そんな存在だろう。
「その……仲良く……近付いてもいいですか」
友達のように会いに行ける存在に。友達なんていなかった、ずっと。それで良いと思っていたが、妙さんなら……少しでも他愛の無い話をしたり、笑い合える女の人。
そんな存在がいてくれたら、どれ程嬉しいだろうか。
「お前は誰かと仲良くなる時に、いちいち誰かの許可を得るのか」
「いえ、でももし一さんのお仕事に差し障るならと思って」
「あそこはただの小間物屋だろう、いい煙草も売っている。自分の生活の中で起こる事はお前が判断して決めればいい。好きにしろ」
わぁっと顔に花を咲かせる夢主に、斎藤の気も緩んだ。
「困った時はすぐに話せよ。さて、俺はもう行くぞ」
斎藤は立ち上がる前にそっと、夢主が出掛けにねだる触れるだけの口吸いを与えた。
昼過ぎに浅草で、待ち合わせの約束をして斎藤は仕事へ向かった。