11.心配性な人
夢主名前設定
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すっかり日が暮れた帰り道。仕事中に得た情報、昔馴染みへの伝言が出来たと斎藤が道場屋敷を覗くが、空だった。
道場に姿が見えないのは、夢主の体を気遣って傍にいてくれているのだろう。
家に辿り付き、隅で小さな火が大人しく照らす部屋に入ると、思った通り沖田が背筋を伸ばして座っていた。
コチコチと響く時計の機械音が場の空気を引き締めている。
「すみません、どうしようか迷ったんですけど、せっかくですから斎藤さんがお帰りになるまでと」
「構わんさ、こちらこそすまなかったな。夢主は」
「良く寝ていますよ……あっ、安心してください、手は出していませんよ」
「当たり前だ、阿呆」
へへっと可愛く笑う沖田。肩の力が抜けた無邪気な笑いだ。
似ているようで全く似ていない、斎藤は昼間に散々睨み付けた密偵仲間の男を思い浮かべた。
「熱はほんの微熱みたいで、僕がいない間もずっと寝ていたようですっかり下がっていますよ。安心ですね……」
「そうか」
斎藤は制服のシャツの釦を外しながら布団に近付き、顔を覗いた。
苦しさも熱っぽさも感じられない寝姿に、胸を撫で下ろす。
「じゃあ、僕はこれで……」
「まぁ待て」
部屋から出ようと障子の前に向かった沖田が、不思議そうに振り返った。
怒られるような事はしていませんよと肩をすくめるので、斎藤は思わず噴出した。
「フッ、ゆっくりしていったらどうだ。初めて家に来たんだ、世話になってそのまま返すわけにもいくまい」
「また改めて伺いますよ」
怒られる訳ではないと安心した沖田は、にこやかに誘いを断った。
男二人じっくり語るのも良いが、今でなくとも良い。
「斎藤さんもぶり返さないうちに寝たほうがいいですよ、病み上がりでしょう」
思わぬ優しい言葉に、斎藤はやれやれと首を振った。
そして去ろうとする沖田を呼び止めた。
「ひとつ耳に入れておきたい話がある」
「僕の耳にですか」
ふっと落とした斎藤の視線につられ、沖田は自らの刀を見た。
座る為に腰から外していた刀は玄関で差せばよいと、柄を握っている。
「例の御用盗、あれは最近聞かなくなったが、変わりに東西を問わず腕の立つ者を狙った人斬りと、刀を狙った強盗が目立つそうだ。君も一本持っているだろう、気をつけろよ」
「刀をですか……それは肝に銘じます」
刀好きが欲しかる名刀が一本。沖田の脳裏に座敷に飾られた刀が思い浮かんだ。
床の間に残して出かけるより、佩刀し持ち歩いた方が安全か。
菊一文字則宗の白い柄は目立つ。だが自分があの刀の所有者だと知っているものは少ないはずだ。
それでも見るものが見ればすぐに貴重な刀だと分かるだろう。
だが持ち歩くにしてもすっかり馴染んだ今の刀を置いていくのは落ち着かないものだ。
どちらかが脇差であったなら、二本差して歩く事も出来るのだが……斎藤の助言は沖田を俄かに悩ませた。
沖田が去り、斎藤があれこれと寝る前に動く物音で、一日眠っていた夢主は眠りから引き戻されていった。
斎藤が布団に入る頃、先程は見えた顔が反対を向いていた。物音から逃げるように寝返りを打ったのか、夢主は背を向けて横たわっている。
妻の小さな寝顔を覗こうと布団の上に座り上半身を伸ばすと、夢主が静かに寝返りを打ってこちらを向いた。
「一さん……」
「どうした。起きていたのか」
「はぃ……総司さんは」
「ついさっき帰ったぞ。すっかり世話になったな」
「はぃ……お礼をしないとですね……」
寝起きのまどろんだ声と会話する斎藤だが、どうやら眠たいだけでは無さそうだ。
気付いた斎藤は寄り添うように体を布団に滑り込ませた。
「元気が無いな。まだ熱っぽいのか」
「いえ……一さん、総司さんは……淋しいんでしょうか……」
「何だいきなり。何か言われたのか」
お前のほうこそ淋しそうじゃないかと、斎藤は抱きかかえるように筋張った腕を夢主に回した。
抱え込まれた夢主は自然と身を寄せ甘えている。
「いいえ……でも昼間、家に来てくださった時になんとなく……淋しそうだったんです」
「そうか。俺には分からんかったな、奴が淋しかろうが俺には関係ない」
「そんな冷たい……」
「フッ、俺は興味ないからな」
顔を上げた夢主を慰めてようと、体に回していた腕を持ち上げて頭を撫でるが、夢主は咎めるような声で続けた。
「激動の時代を乗り越えた仲間じゃないんですか」
道場に姿が見えないのは、夢主の体を気遣って傍にいてくれているのだろう。
家に辿り付き、隅で小さな火が大人しく照らす部屋に入ると、思った通り沖田が背筋を伸ばして座っていた。
コチコチと響く時計の機械音が場の空気を引き締めている。
「すみません、どうしようか迷ったんですけど、せっかくですから斎藤さんがお帰りになるまでと」
「構わんさ、こちらこそすまなかったな。夢主は」
「良く寝ていますよ……あっ、安心してください、手は出していませんよ」
「当たり前だ、阿呆」
へへっと可愛く笑う沖田。肩の力が抜けた無邪気な笑いだ。
似ているようで全く似ていない、斎藤は昼間に散々睨み付けた密偵仲間の男を思い浮かべた。
「熱はほんの微熱みたいで、僕がいない間もずっと寝ていたようですっかり下がっていますよ。安心ですね……」
「そうか」
斎藤は制服のシャツの釦を外しながら布団に近付き、顔を覗いた。
苦しさも熱っぽさも感じられない寝姿に、胸を撫で下ろす。
「じゃあ、僕はこれで……」
「まぁ待て」
部屋から出ようと障子の前に向かった沖田が、不思議そうに振り返った。
怒られるような事はしていませんよと肩をすくめるので、斎藤は思わず噴出した。
「フッ、ゆっくりしていったらどうだ。初めて家に来たんだ、世話になってそのまま返すわけにもいくまい」
「また改めて伺いますよ」
怒られる訳ではないと安心した沖田は、にこやかに誘いを断った。
男二人じっくり語るのも良いが、今でなくとも良い。
「斎藤さんもぶり返さないうちに寝たほうがいいですよ、病み上がりでしょう」
思わぬ優しい言葉に、斎藤はやれやれと首を振った。
そして去ろうとする沖田を呼び止めた。
「ひとつ耳に入れておきたい話がある」
「僕の耳にですか」
ふっと落とした斎藤の視線につられ、沖田は自らの刀を見た。
座る為に腰から外していた刀は玄関で差せばよいと、柄を握っている。
「例の御用盗、あれは最近聞かなくなったが、変わりに東西を問わず腕の立つ者を狙った人斬りと、刀を狙った強盗が目立つそうだ。君も一本持っているだろう、気をつけろよ」
「刀をですか……それは肝に銘じます」
刀好きが欲しかる名刀が一本。沖田の脳裏に座敷に飾られた刀が思い浮かんだ。
床の間に残して出かけるより、佩刀し持ち歩いた方が安全か。
菊一文字則宗の白い柄は目立つ。だが自分があの刀の所有者だと知っているものは少ないはずだ。
それでも見るものが見ればすぐに貴重な刀だと分かるだろう。
だが持ち歩くにしてもすっかり馴染んだ今の刀を置いていくのは落ち着かないものだ。
どちらかが脇差であったなら、二本差して歩く事も出来るのだが……斎藤の助言は沖田を俄かに悩ませた。
沖田が去り、斎藤があれこれと寝る前に動く物音で、一日眠っていた夢主は眠りから引き戻されていった。
斎藤が布団に入る頃、先程は見えた顔が反対を向いていた。物音から逃げるように寝返りを打ったのか、夢主は背を向けて横たわっている。
妻の小さな寝顔を覗こうと布団の上に座り上半身を伸ばすと、夢主が静かに寝返りを打ってこちらを向いた。
「一さん……」
「どうした。起きていたのか」
「はぃ……総司さんは」
「ついさっき帰ったぞ。すっかり世話になったな」
「はぃ……お礼をしないとですね……」
寝起きのまどろんだ声と会話する斎藤だが、どうやら眠たいだけでは無さそうだ。
気付いた斎藤は寄り添うように体を布団に滑り込ませた。
「元気が無いな。まだ熱っぽいのか」
「いえ……一さん、総司さんは……淋しいんでしょうか……」
「何だいきなり。何か言われたのか」
お前のほうこそ淋しそうじゃないかと、斎藤は抱きかかえるように筋張った腕を夢主に回した。
抱え込まれた夢主は自然と身を寄せ甘えている。
「いいえ……でも昼間、家に来てくださった時になんとなく……淋しそうだったんです」
「そうか。俺には分からんかったな、奴が淋しかろうが俺には関係ない」
「そんな冷たい……」
「フッ、俺は興味ないからな」
顔を上げた夢主を慰めてようと、体に回していた腕を持ち上げて頭を撫でるが、夢主は咎めるような声で続けた。
「激動の時代を乗り越えた仲間じゃないんですか」