11.心配性な人
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「以前から貴様が気に食わなかったが今ようやく合点がいった。お前のその顔が知った顔にそっくりだ。腹の立つ顔だ」
「おや、藤田さんのご友人でしょうか、それは光栄ですね」
「フン。その厭らしく笑う顔が似ているが、奴の方がよっぽど素直だ。単純とも言うがな」
「それは褒められているのでしょうか」
「好きにとってくれて構わんさ、貴様が何を考えようが俺には関係ないからな。それに背格好も声も似ていないから安心しろ」
「それはそれは……でも書類はいつもより大分少ないでしょう、それに藤田さんが興味を持ちそうな内容ですよ」
「何だ」
「刀です」
資料の一番上の束を手にした斎藤が一頁ずつ捲って目を通し始めると、男は向かいに立って別の関連資料を手に取り説明を続けた。
「最近刀に関する事件が多くてですね。出回る刀が増えたせいでしょうね、異国に高く売れるようで。士族が売り払う刀も多いですが、良い刀を探しては奪う盗賊も増えているそうです」
「刀専門の盗みか」
「えぇ。中には行方が分からなくなっている刀もあります」
「行方不明ねぇ」
「新井赤空をご存知でしょうか」
「ま、名前程度は」
幕末、京で闇に紛れ刀を振るった人斬り達、それに対峙し立ち向かった男達、彼らの中で殺人剣で名を馳せた刀匠・新井赤空を知らない者はいないだろう。
相変わらずの落ち着いた声で応じる斎藤だが、頁を捲る手がぴたりと止まった。
「その赤空の刀も幾つか行方知れずだそうです。それから……」
「長曽祢虎徹」
資料に目を落とした斎藤が呟いた。
「そう、新選組局長が愛刀、長曽祢虎徹。贋作、とも言われておりますけれども、そちらも先日奪われたそうですよ」
「局長の刀が……」
「おや、藤田さんは思い入れでも」
どうせ知っているのだろう、白々しく訊ねる男を嫌悪を持った視線で強く縛ると、悪意はありませんとすぐに軽い笑い声が響いた。
「はははっ、すみません、訊いてはいけませんでしたね。これは本気で申し訳ございません、わざとでは……」
「フン、どうでもいい。だがその刀が数々のいい仕事をした事は聞いている」
「そうですか。その虎徹を手にしていたと思われる者達が先日山中で見つかりました。死体は三体、一体は正面から額を一突き、残りは背中に深い一太刀。殺した男が持ち去ったのでしょうね、例の焼け傷が残っていたそうです」
「焼けた傷か」
……気に食わんな、局長の刀をどこのどいつが、何の目的だ。個人的に追い掛ける訳にもいかんが……
「もしお知り合いに名刀をお持ちの方がおられましたら、気を付けるようお伝えください」
「あぁ」
「例えば沖田総司」
斎藤は何が言いたいと男に目を向けた。
「彼は病で亡くなられたそうですが、その刀の行方は分かっておりません。もしお持ちの方がいればさぞ狙われるでしょう」
「そうだな、持っている者がいればの話だが」
この男、どこまで知っている……
ギロリと睨んで斎藤は資料を元の山の上に戻した。
「今度、刀商に持ち込まれた刀が無いか聞き込みに行くんです」
「刀商?」
「えぇ。正しく言えば貿易商ですね、異国に刀を輸出し成功している者がおります。そこに盗剣が持ち込まれていないか調べるんですよ」
「成る程な」
「塚山商会、藤田さんが行かれますか」
「面白そうだな」
座り仕事にも飽きてきた所だ。
斎藤はニヤリと悪い顔を見せた。
「おや、藤田さんのご友人でしょうか、それは光栄ですね」
「フン。その厭らしく笑う顔が似ているが、奴の方がよっぽど素直だ。単純とも言うがな」
「それは褒められているのでしょうか」
「好きにとってくれて構わんさ、貴様が何を考えようが俺には関係ないからな。それに背格好も声も似ていないから安心しろ」
「それはそれは……でも書類はいつもより大分少ないでしょう、それに藤田さんが興味を持ちそうな内容ですよ」
「何だ」
「刀です」
資料の一番上の束を手にした斎藤が一頁ずつ捲って目を通し始めると、男は向かいに立って別の関連資料を手に取り説明を続けた。
「最近刀に関する事件が多くてですね。出回る刀が増えたせいでしょうね、異国に高く売れるようで。士族が売り払う刀も多いですが、良い刀を探しては奪う盗賊も増えているそうです」
「刀専門の盗みか」
「えぇ。中には行方が分からなくなっている刀もあります」
「行方不明ねぇ」
「新井赤空をご存知でしょうか」
「ま、名前程度は」
幕末、京で闇に紛れ刀を振るった人斬り達、それに対峙し立ち向かった男達、彼らの中で殺人剣で名を馳せた刀匠・新井赤空を知らない者はいないだろう。
相変わらずの落ち着いた声で応じる斎藤だが、頁を捲る手がぴたりと止まった。
「その赤空の刀も幾つか行方知れずだそうです。それから……」
「長曽祢虎徹」
資料に目を落とした斎藤が呟いた。
「そう、新選組局長が愛刀、長曽祢虎徹。贋作、とも言われておりますけれども、そちらも先日奪われたそうですよ」
「局長の刀が……」
「おや、藤田さんは思い入れでも」
どうせ知っているのだろう、白々しく訊ねる男を嫌悪を持った視線で強く縛ると、悪意はありませんとすぐに軽い笑い声が響いた。
「はははっ、すみません、訊いてはいけませんでしたね。これは本気で申し訳ございません、わざとでは……」
「フン、どうでもいい。だがその刀が数々のいい仕事をした事は聞いている」
「そうですか。その虎徹を手にしていたと思われる者達が先日山中で見つかりました。死体は三体、一体は正面から額を一突き、残りは背中に深い一太刀。殺した男が持ち去ったのでしょうね、例の焼け傷が残っていたそうです」
「焼けた傷か」
……気に食わんな、局長の刀をどこのどいつが、何の目的だ。個人的に追い掛ける訳にもいかんが……
「もしお知り合いに名刀をお持ちの方がおられましたら、気を付けるようお伝えください」
「あぁ」
「例えば沖田総司」
斎藤は何が言いたいと男に目を向けた。
「彼は病で亡くなられたそうですが、その刀の行方は分かっておりません。もしお持ちの方がいればさぞ狙われるでしょう」
「そうだな、持っている者がいればの話だが」
この男、どこまで知っている……
ギロリと睨んで斎藤は資料を元の山の上に戻した。
「今度、刀商に持ち込まれた刀が無いか聞き込みに行くんです」
「刀商?」
「えぇ。正しく言えば貿易商ですね、異国に刀を輸出し成功している者がおります。そこに盗剣が持ち込まれていないか調べるんですよ」
「成る程な」
「塚山商会、藤田さんが行かれますか」
「面白そうだな」
座り仕事にも飽きてきた所だ。
斎藤はニヤリと悪い顔を見せた。