11.心配性な人
夢主名前設定
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「元気な姿を見て安心しました。今日のお稽古はお手伝い無用ですよ、斎藤さんに聞いていますから。ゆっくり休んでいてください。疲れが溜まっていたのかも知れませんよ」
「すみません、お手伝いに行けなくて。お言葉に甘えてゆっくり休みますね」
「えぇ、それでいいんですよ。また夕方様子を見に伺いますから」
「ありがとうございます」
作ってもらった粥を前に、気遣いの言葉をくれる沖田に夢主は何故か俯いた。
「総司さんは今も昔も変わらずにお優しいですね……」
「そうかな、そう言ってくれるなら夢主ちゃんこそ。お互い様ですよ」
ちらりと遠慮がちに覗けば明るくいつもの晴れやかな沖田の笑顔。
初めて訪れたこの部屋で見せる笑顔、夢主はその奥に沖田が閉じ込めている本音を探した。
「廓の女の子」、目覚めの途中で聞こえたのは沖田の声に間違いない。
戻りきらない意識の中で耳に届いた言葉を思い返せば、目の前の笑顔がどこか切なく感じられる。
……廓に、吉原に通ってるのかな……本当に、女の子を買ってるのかな……
それは欲しいのだろうか、女の艶めきが、それとも自分を包む温もりか。
すくった粥を口の前でふぅふぅと息を掛けて冷ます。だが口に含めるまで冷めても、夢主は暫く考えるように匙を見つめて固まっていた。
やがて匙を器に戻し、粥から目を離した。
見守るようにずっと向けられる視線。目を合わせると、沖田の大きな目が弓なりに細くなる。
澄んだ瞳が女の子のように愛らしい沖田は、容姿とは裏腹に身も心も男らしい剣客だ。
己が意志を貫く強さを持っている。
大切なものを守る為に、時に自らの大切なものを犠牲にしているのでは、そう思わせる程に真っ直ぐだ。
「総司さん……」
「なんでしょう」
柔らかい声に言葉が詰まる。
沖田はいつでも自分の気持ちを聞いてくれた。反面、沖田の本音はいつも夢主に寄り添ったものだ。
本当の想いと信じていたが、分からないものもあるかもしれない。愛を諦めた相手には分からない、見せられないもの。
慕う相手に愛された夢主には分からない、何かが。
いつだったか落ち着かない壬生の夜、沖田が幼子のように膝を抱えていた姿が蘇る。
今この人が求めているのは母のような愛ではなく、女が与える肌の温もりなのだろうか。
「あの……お粥、美味しいです」
「良かった」
……淋しいのですか、訊ねたいが夢主には問えず、口を閉ざした。
訊ねて「淋しいよ」そう返って来たらどうすれば良いのだろう。応える術を持たない夢主にはその質問さえも出来なかった。
温かい粥から上る湯気の向こうで、沖田は優しく笑んでいた。
斎藤に渡された鍵は念の為、夕方まで沖田が預かる事になった。
夢主がまた深い眠りに入っても構わないように預けられたのだ。
沖田の屋敷から出た斎藤は吸い終えた煙草をどこかで放り投げ、いつも通り警察署に姿を見せていた。
体の調子は文句無く良好と言える。
自らの体の具合を確認した斎藤は署内の廊下を歩きながら、大人しく布団へ戻った夢主を思い、触れた額の熱を思い出していた。
……あれは確かに熱かった……
己は薬が効いたのか一晩でこの通りだ。夢主も薬を飲んで寝ていれば大丈夫だろう。
資料室の扉を開くと、いつもは後からやって来るあの男が既に部屋の中にいた。
「藤田さん、体調は万全のようですね」
「フン」
「おや、煙草……ですか。この香りは」
「悪いか」
「いえいえ、私も煙草は好きですよ。滅多に吸いませんがね」
ふふんと笑う男は、机の上の物に手を添えていた。
「何だそれは」
「何だ、とは……いつも通りの追加資料ですよ。おはようございます」
朝の挨拶を忘れていましたとばかりに、にこりと首を傾げる男へ、斎藤はいつものごとく眉間に皺を寄せた。
「お前は昨日、今日は増えないと言わなかったか。あれは嘘か」
「嫌ですねぇ~増えないとは言っておりませんよ、増えないかもしれませんよ、と申しました。やはり昨日はお帰りになられて良かったですね、判断力が鈍っていらしたようです」
眉間の皺を限界まで深く刻んで、斎藤は大きな舌打ちをした。
「すみません、お手伝いに行けなくて。お言葉に甘えてゆっくり休みますね」
「えぇ、それでいいんですよ。また夕方様子を見に伺いますから」
「ありがとうございます」
作ってもらった粥を前に、気遣いの言葉をくれる沖田に夢主は何故か俯いた。
「総司さんは今も昔も変わらずにお優しいですね……」
「そうかな、そう言ってくれるなら夢主ちゃんこそ。お互い様ですよ」
ちらりと遠慮がちに覗けば明るくいつもの晴れやかな沖田の笑顔。
初めて訪れたこの部屋で見せる笑顔、夢主はその奥に沖田が閉じ込めている本音を探した。
「廓の女の子」、目覚めの途中で聞こえたのは沖田の声に間違いない。
戻りきらない意識の中で耳に届いた言葉を思い返せば、目の前の笑顔がどこか切なく感じられる。
……廓に、吉原に通ってるのかな……本当に、女の子を買ってるのかな……
それは欲しいのだろうか、女の艶めきが、それとも自分を包む温もりか。
すくった粥を口の前でふぅふぅと息を掛けて冷ます。だが口に含めるまで冷めても、夢主は暫く考えるように匙を見つめて固まっていた。
やがて匙を器に戻し、粥から目を離した。
見守るようにずっと向けられる視線。目を合わせると、沖田の大きな目が弓なりに細くなる。
澄んだ瞳が女の子のように愛らしい沖田は、容姿とは裏腹に身も心も男らしい剣客だ。
己が意志を貫く強さを持っている。
大切なものを守る為に、時に自らの大切なものを犠牲にしているのでは、そう思わせる程に真っ直ぐだ。
「総司さん……」
「なんでしょう」
柔らかい声に言葉が詰まる。
沖田はいつでも自分の気持ちを聞いてくれた。反面、沖田の本音はいつも夢主に寄り添ったものだ。
本当の想いと信じていたが、分からないものもあるかもしれない。愛を諦めた相手には分からない、見せられないもの。
慕う相手に愛された夢主には分からない、何かが。
いつだったか落ち着かない壬生の夜、沖田が幼子のように膝を抱えていた姿が蘇る。
今この人が求めているのは母のような愛ではなく、女が与える肌の温もりなのだろうか。
「あの……お粥、美味しいです」
「良かった」
……淋しいのですか、訊ねたいが夢主には問えず、口を閉ざした。
訊ねて「淋しいよ」そう返って来たらどうすれば良いのだろう。応える術を持たない夢主にはその質問さえも出来なかった。
温かい粥から上る湯気の向こうで、沖田は優しく笑んでいた。
斎藤に渡された鍵は念の為、夕方まで沖田が預かる事になった。
夢主がまた深い眠りに入っても構わないように預けられたのだ。
沖田の屋敷から出た斎藤は吸い終えた煙草をどこかで放り投げ、いつも通り警察署に姿を見せていた。
体の調子は文句無く良好と言える。
自らの体の具合を確認した斎藤は署内の廊下を歩きながら、大人しく布団へ戻った夢主を思い、触れた額の熱を思い出していた。
……あれは確かに熱かった……
己は薬が効いたのか一晩でこの通りだ。夢主も薬を飲んで寝ていれば大丈夫だろう。
資料室の扉を開くと、いつもは後からやって来るあの男が既に部屋の中にいた。
「藤田さん、体調は万全のようですね」
「フン」
「おや、煙草……ですか。この香りは」
「悪いか」
「いえいえ、私も煙草は好きですよ。滅多に吸いませんがね」
ふふんと笑う男は、机の上の物に手を添えていた。
「何だそれは」
「何だ、とは……いつも通りの追加資料ですよ。おはようございます」
朝の挨拶を忘れていましたとばかりに、にこりと首を傾げる男へ、斎藤はいつものごとく眉間に皺を寄せた。
「お前は昨日、今日は増えないと言わなかったか。あれは嘘か」
「嫌ですねぇ~増えないとは言っておりませんよ、増えないかもしれませんよ、と申しました。やはり昨日はお帰りになられて良かったですね、判断力が鈍っていらしたようです」
眉間の皺を限界まで深く刻んで、斎藤は大きな舌打ちをした。