11.心配性な人
夢主名前設定
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「君に頼むんじゃなかったな」
「まぁ、心配なさらずにお勤め励んでください。冗談は抜きで、僕には出来ない勤めですから……貴方にお願いしますよ」
どこまでが本音か。斎藤は確かめようと沖田を見つめるが、真っ直ぐな瞳にふぅと息を吐いて頷いた。
誠の心を斎藤に託している、それは揺るぎない事実のようだ。
「あぁ。分かっているさ」
「それと……すみません、少し言い過ぎましたね」
「珍しいな、謝るのか」
「いえ……昔の調子でつい。斎藤さんは多くの物を背負っているんですよね。僕よりも遥かに……」
どこか淋しげな笑顔に、斎藤は堪らずフンと鼻をならした。
そんな反応をさせてしまった沖田は、申し訳無さそうに頭を掻いた。
「それにしても、すみませんが煙草は僕の前では遠慮してもらえると嬉しいんですが」
「苦手だったか」
ぼそりと呟く沖田に、斎藤はおやと片眉を上げた。
あの頃の周りの人間は折に触れて吸っていたはずだ。
「まぁ……近藤さんも土方さんもたまには……味わっていましたけど」
「そうか」
二人を思い出せば嬉しく懐かしい反面、淋しくもある。顔色から読み取った斎藤は、沖田の頼みを黙って聞き入れた。
短くなった煙草を見て、敷地内で吸殻は捨てないでくださいと頼むと、斎藤はこの一本が終わる前に行くつもりだと、足早に庭から出て行った。
その際、沖田は斎藤から家の鍵を受け取った。
「稽古の前に一度顔を見ようかな」
今は布団に戻り寝ているはずだと告げた斎藤の言葉を思い出し、黒い鍵を見つめる。
「寝顔……」
微熱らしいが念の為に様子を見て、大丈夫そうなら戻ればよい。
稽古が終わった後に再び昼飯を持ってお見舞いに行こう。
「うん、今日は僕も忙しい一日ですね」
自分に言い聞かせた沖田は早々に隣家へ足を向けた。
裏の路地を抜け斎藤宅の表門までやって来た沖田は、難なく乗り越えられるのだから塀を越えても構わないと両脇の塀に目を向けた。
通りにはちらほら人が見えるが、こちらに注目しているわけではない。一瞬で飛び越えれば塀の上で瓦を鳴らしてしまっても、振り返った時に姿は無い。
しかし丁寧に鍵を渡されたのだから使うべきだろう。
黒く重厚な錠前に手を掛けた。他人の家の鍵を空けるのはなんとも不思議な感覚だ。
「夢主ちゃん……入りますよ……」
門に続いて玄関の扉を開き、寝ているかもしれない夢主を思い、小声で呼びかけた。
予想通り、何の反応も返ってこない。眠っているのだろう。
沖田は玄関できょろきょろと顔を動かした。視界に入る情報の少なさに斎藤らしさを感じる。
……家の中を悟られないよう、まるで目隠しをされているみたいだ。全く斎藤さんらしいや……
顔を上げれば玄関の長押に物掛けが取り付けられている。
物掛けからぶら下がる見慣れない三角の道具は何だろう……沖田は斎藤が日常で使うのだろうと、目的の分からない物を見上げた。
先刻説明を受けた通り、玄関を上がってすぐ右折すれば居室が見える。
廊下に立つと、玄関では気にならなかった、時計が動く音が響いていた。
「玄関は本当に隔離されているんですね」
そのまま進むと廊下と部屋の仕切りである障子を横切る硝子から、中の様子が確認出来た。
中央に敷かれた白い布団が盛り上がっている。夢主が寝ているのだ。
沖田は部屋を通り過ぎ、奥の台所でかまどに置かれた鍋の中や棚の上を覗いた。
「綺麗に使ってるんだな、夢主ちゃん」
整った台所に立つ夢主の姿を思い浮かべ、くすりと笑った。綺麗に並べられた鍋や桶、汚れも無く清潔に保たれている。
必要な食材と道具の確認を済ませた沖田は、夢主の為の粥を静かに作り始めた。
料理の音だけが耳に届く。夢主は良く眠っているのだろう。
くつくつと粥を炊く音が響き始め、完成するまでの間、何の物音も混ざらなかった。
「まぁ、心配なさらずにお勤め励んでください。冗談は抜きで、僕には出来ない勤めですから……貴方にお願いしますよ」
どこまでが本音か。斎藤は確かめようと沖田を見つめるが、真っ直ぐな瞳にふぅと息を吐いて頷いた。
誠の心を斎藤に託している、それは揺るぎない事実のようだ。
「あぁ。分かっているさ」
「それと……すみません、少し言い過ぎましたね」
「珍しいな、謝るのか」
「いえ……昔の調子でつい。斎藤さんは多くの物を背負っているんですよね。僕よりも遥かに……」
どこか淋しげな笑顔に、斎藤は堪らずフンと鼻をならした。
そんな反応をさせてしまった沖田は、申し訳無さそうに頭を掻いた。
「それにしても、すみませんが煙草は僕の前では遠慮してもらえると嬉しいんですが」
「苦手だったか」
ぼそりと呟く沖田に、斎藤はおやと片眉を上げた。
あの頃の周りの人間は折に触れて吸っていたはずだ。
「まぁ……近藤さんも土方さんもたまには……味わっていましたけど」
「そうか」
二人を思い出せば嬉しく懐かしい反面、淋しくもある。顔色から読み取った斎藤は、沖田の頼みを黙って聞き入れた。
短くなった煙草を見て、敷地内で吸殻は捨てないでくださいと頼むと、斎藤はこの一本が終わる前に行くつもりだと、足早に庭から出て行った。
その際、沖田は斎藤から家の鍵を受け取った。
「稽古の前に一度顔を見ようかな」
今は布団に戻り寝ているはずだと告げた斎藤の言葉を思い出し、黒い鍵を見つめる。
「寝顔……」
微熱らしいが念の為に様子を見て、大丈夫そうなら戻ればよい。
稽古が終わった後に再び昼飯を持ってお見舞いに行こう。
「うん、今日は僕も忙しい一日ですね」
自分に言い聞かせた沖田は早々に隣家へ足を向けた。
裏の路地を抜け斎藤宅の表門までやって来た沖田は、難なく乗り越えられるのだから塀を越えても構わないと両脇の塀に目を向けた。
通りにはちらほら人が見えるが、こちらに注目しているわけではない。一瞬で飛び越えれば塀の上で瓦を鳴らしてしまっても、振り返った時に姿は無い。
しかし丁寧に鍵を渡されたのだから使うべきだろう。
黒く重厚な錠前に手を掛けた。他人の家の鍵を空けるのはなんとも不思議な感覚だ。
「夢主ちゃん……入りますよ……」
門に続いて玄関の扉を開き、寝ているかもしれない夢主を思い、小声で呼びかけた。
予想通り、何の反応も返ってこない。眠っているのだろう。
沖田は玄関できょろきょろと顔を動かした。視界に入る情報の少なさに斎藤らしさを感じる。
……家の中を悟られないよう、まるで目隠しをされているみたいだ。全く斎藤さんらしいや……
顔を上げれば玄関の長押に物掛けが取り付けられている。
物掛けからぶら下がる見慣れない三角の道具は何だろう……沖田は斎藤が日常で使うのだろうと、目的の分からない物を見上げた。
先刻説明を受けた通り、玄関を上がってすぐ右折すれば居室が見える。
廊下に立つと、玄関では気にならなかった、時計が動く音が響いていた。
「玄関は本当に隔離されているんですね」
そのまま進むと廊下と部屋の仕切りである障子を横切る硝子から、中の様子が確認出来た。
中央に敷かれた白い布団が盛り上がっている。夢主が寝ているのだ。
沖田は部屋を通り過ぎ、奥の台所でかまどに置かれた鍋の中や棚の上を覗いた。
「綺麗に使ってるんだな、夢主ちゃん」
整った台所に立つ夢主の姿を思い浮かべ、くすりと笑った。綺麗に並べられた鍋や桶、汚れも無く清潔に保たれている。
必要な食材と道具の確認を済ませた沖田は、夢主の為の粥を静かに作り始めた。
料理の音だけが耳に届く。夢主は良く眠っているのだろう。
くつくつと粥を炊く音が響き始め、完成するまでの間、何の物音も混ざらなかった。