11.心配性な人
夢主名前設定
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家を出た斎藤は、胸の隠しにしまいこんだ煙草の存在を思い出した。
昨日夢主の足跡を辿り、行き着いた赤べこと言う小間物屋で手に入れた紙煙草。
煙管で味わう煙草に比べ、口に含んだ時の香りが遥かに良い。
自分の前では吸わないよう夢主は望んでいた。家で忘れていたのは好都合だ。
胸に手を伸ばして箱を取り出すと、底を指先で数回刺激し、煙草を一本浮かせ引き抜いた。
火をつけた燐寸は知らずのうちに投げ捨てた。そこが既に沖田の屋敷の敷地内とは気にしていない。
口の中から広がる香り充分に味わい、白い煙を細く長く吐き出した。
「やはり、いいな」
自らの周りに広がる香りを満足そうに感じ、タバコを咥えて歩き出した。
沖田家の庭を進むと、真剣を手に素振りをする家主の姿が目に入った。
木刀を振るよりも鋭く切れた高い音、繰り返される小気味良い音に口元が緩む。
刀の真似をした木の棒よりもやはり真剣だな、そんな事を考えていると、沖田が人懐っこい笑顔を斎藤に向けて刀を下ろした。
「お早うございます、斎藤さん・・・煙草ですか」
「あぁ」
斎藤の口元、白く短い紙煙草が沖田の目に留まる。
見慣れぬ姿を揶揄したくなるが、やけに似合っているので文句のつけようがない。
斎藤は沖田の物言いたげな顔に、煙草だ、見れば分かるだろうと無愛想に言い捨てたかったが、頼み事がある今日はと言葉を飲み込んだ。
「昨日小間物屋でな、手に入れた。所で悪いんだが一つ頼まれてくれんか」
「頼み事ですか、何でしょう」
納めた刀を確認するよう両手で整えながら歩いてくる沖田の見上げてくる視線に、斎藤は話しにくそうに「うむ」と一呼吸置いてから事情を説明した。
昨日の体調不良も隠さず伝え、今朝の夢主の不調の話を続けた。
沖田はにやにやと面白そうに耳を傾け、相槌を繰り返している。
「へぇ、それでそれで?」
「だから夢主の様子を見に行ってやってくれんか」
「ふぅん、斎藤さんが風邪を移しちゃったって訳ですね!どうしようもありませんねぇ、この人は」
ピクリと動いた斎藤のこめかみに沖田は気付いたはずだ。
それでも沖田はにんまり笑顔を崩さずに、制帽の下の渋い顔を覗き込んでいる。
「お手伝いつも来ていただいて夢主ちゃんには本当に感謝しているんですよ、もちろん看病にお伺いしますね。昨日もお庭掃除手伝ってくれて本当に助かりました。僕の作るお粥食べてくれるかなぁ、心を込めて作りますよ」
「ちっ」
己のいない時間をわざと想像させようと余計なことを語る沖田に、斎藤は大きく舌打ちをした。
「あはははっ、夢主ちゃんはさっぱりした梅粥がお好きなんですよ~斎藤さん、ご存知でしたか」
同じ部屋で過ごした新選組の時代と違い、外で仕事に忙殺される今は、夫の斎藤よりも一緒に過ごす時間が多い隣人の己の方が夢主を良く知っていると、沖田は痛い所を突ついて笑う。
斎藤は不機嫌に溜め息を吐いて顔を逸らした。梅粥を好むのは知っている。
「君に全て話したのが間違いか」
「いえいえ、全てお話してくださるなんて嬉しいですよ、斎藤さんが熱を出すなんて珍しいですし、面白いでしょう。貴方が夢主ちゃんを悲しませる冷たい仕打ちをしたなんて、知っておいて良かったですよ。慰めてあげられるじゃありませんか」
「仕打ちと言うな」
すっかり信頼して夕べの夫婦のすれ違いまで何故話してしまったのか、斎藤は自分を責めた。
そうだ、こいつは人を揶揄うのが好きな男だったと、気付いた時には目の前で沖田が笑っていた。
昨日夢主の足跡を辿り、行き着いた赤べこと言う小間物屋で手に入れた紙煙草。
煙管で味わう煙草に比べ、口に含んだ時の香りが遥かに良い。
自分の前では吸わないよう夢主は望んでいた。家で忘れていたのは好都合だ。
胸に手を伸ばして箱を取り出すと、底を指先で数回刺激し、煙草を一本浮かせ引き抜いた。
火をつけた燐寸は知らずのうちに投げ捨てた。そこが既に沖田の屋敷の敷地内とは気にしていない。
口の中から広がる香り充分に味わい、白い煙を細く長く吐き出した。
「やはり、いいな」
自らの周りに広がる香りを満足そうに感じ、タバコを咥えて歩き出した。
沖田家の庭を進むと、真剣を手に素振りをする家主の姿が目に入った。
木刀を振るよりも鋭く切れた高い音、繰り返される小気味良い音に口元が緩む。
刀の真似をした木の棒よりもやはり真剣だな、そんな事を考えていると、沖田が人懐っこい笑顔を斎藤に向けて刀を下ろした。
「お早うございます、斎藤さん・・・煙草ですか」
「あぁ」
斎藤の口元、白く短い紙煙草が沖田の目に留まる。
見慣れぬ姿を揶揄したくなるが、やけに似合っているので文句のつけようがない。
斎藤は沖田の物言いたげな顔に、煙草だ、見れば分かるだろうと無愛想に言い捨てたかったが、頼み事がある今日はと言葉を飲み込んだ。
「昨日小間物屋でな、手に入れた。所で悪いんだが一つ頼まれてくれんか」
「頼み事ですか、何でしょう」
納めた刀を確認するよう両手で整えながら歩いてくる沖田の見上げてくる視線に、斎藤は話しにくそうに「うむ」と一呼吸置いてから事情を説明した。
昨日の体調不良も隠さず伝え、今朝の夢主の不調の話を続けた。
沖田はにやにやと面白そうに耳を傾け、相槌を繰り返している。
「へぇ、それでそれで?」
「だから夢主の様子を見に行ってやってくれんか」
「ふぅん、斎藤さんが風邪を移しちゃったって訳ですね!どうしようもありませんねぇ、この人は」
ピクリと動いた斎藤のこめかみに沖田は気付いたはずだ。
それでも沖田はにんまり笑顔を崩さずに、制帽の下の渋い顔を覗き込んでいる。
「お手伝いつも来ていただいて夢主ちゃんには本当に感謝しているんですよ、もちろん看病にお伺いしますね。昨日もお庭掃除手伝ってくれて本当に助かりました。僕の作るお粥食べてくれるかなぁ、心を込めて作りますよ」
「ちっ」
己のいない時間をわざと想像させようと余計なことを語る沖田に、斎藤は大きく舌打ちをした。
「あはははっ、夢主ちゃんはさっぱりした梅粥がお好きなんですよ~斎藤さん、ご存知でしたか」
同じ部屋で過ごした新選組の時代と違い、外で仕事に忙殺される今は、夫の斎藤よりも一緒に過ごす時間が多い隣人の己の方が夢主を良く知っていると、沖田は痛い所を突ついて笑う。
斎藤は不機嫌に溜め息を吐いて顔を逸らした。梅粥を好むのは知っている。
「君に全て話したのが間違いか」
「いえいえ、全てお話してくださるなんて嬉しいですよ、斎藤さんが熱を出すなんて珍しいですし、面白いでしょう。貴方が夢主ちゃんを悲しませる冷たい仕打ちをしたなんて、知っておいて良かったですよ。慰めてあげられるじゃありませんか」
「仕打ちと言うな」
すっかり信頼して夕べの夫婦のすれ違いまで何故話してしまったのか、斎藤は自分を責めた。
そうだ、こいつは人を揶揄うのが好きな男だったと、気付いた時には目の前で沖田が笑っていた。