10.斎藤の嗜好品
夢主名前設定
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「煙草は……わかりましたから……お願いです、こっ……拒まないでください」
「何っ」
「一さんに拒まれたら……」
「拒んでなど」
久しぶりの体の重さを夢主のせいにして八つ当たりをしていか……
斎藤は今日一日、夢主に辛く当たっていた己に気が付いた。
煙草のせいとばかり思っていたが、苛立ちをぶつけてしまった己の態度を悲しんでいたのだ。
……すっかり忘れていると思ったが夢主はまだ自分の存在を不安に感じているのか。いや、俺に存在を否定される事を恐れているのか、頼りに……してくれているのか……
「すまない、少し……過ぎたようだな」
久しぶりの怒った顔でもと思っていた先程までの自分を愚かしく感じた斎藤は、沈んだ声で静かに詫びた。
夢主はその通りですと遠慮なく首を縦に振った。顔には少し笑顔が戻っていた。
「雨で風邪を引くなんて子供みたい」
「フッ、体が鈍っていたか……雨の中の行軍などザラだったがな」
自嘲した一言にクスッと笑みを溢した。その小さな笑い声にほっと安堵した斎藤は、その場に胡坐をかいて座り込んだ。
ほっとした途端、脱力していったのだ。
「お布団敷くので休んでくさい、そうしたら許してあげます」
怒ってなどいませんが……夢主の涙を湛えた笑顔に観念し、斎藤は太い息を吐いて頷いた。
「お粥も食べてくださいよ」
「おいおい、病人扱いするんじゃないよ」
言葉とは裏腹に、どうにでもしてくれと斎藤の顔は笑っている。
「いいんです、一さんは今日一日寝なきゃいけません」
「それでお前の機嫌は直るのか」
「はいっ、いい子いい子してあげますよ」
「阿呆ぅ」
ようやく腰を浮かせた斎藤は、以前夢主が買って来た紺碧色の長着に着替え始めた。
妙に借りて着ている夢主の花浅葱と並び立つと、互いに寄って見えるいい青だ。
「揃いの様だな」
フッと緩んだ顔と飛び出した言葉に、夢主は驚いて目をしばたたかせた。
「はっ……はいっ……お揃いみたいです……」
嬉しさで頬が染まった夢主は、熱が移ったのではないかと両手で頬を覆った。
斎藤は贖罪のつもりで寝床に入り、黙って夢主に布団を掛けられた。
「大人しくしていてくださいね」
「あぁ、分かったよ」
布団に己を押し込めた妻は、満足そうに微笑むと粥を作りに台所へ向かった。
部屋の仕切り越しに伝わってくる物音がやけに心地良い。
天井を見上げれば見事な木目が目に入った。普段は天井の板がずれていないか、侵入者がいないかと見る事はあっても、木目の美しさを楽しんだ事はない。
「今日は初めてづくしだな」
……夢主のおかげか。あぁ初めてといえばあの薬も……後で、粥を食ってから……だな……
聞こえてきた夢主の鼻歌に口元を緩め、斎藤はゆっくりと目を閉じた。
台所からは鍋の中で粥がくつくつと炊かれる音が聞こえ始めた。たまにはこうして休むのも悪くは無いな、そう感じながら、斎藤は久しぶりの穏やかな時を楽しんだ。
「何っ」
「一さんに拒まれたら……」
「拒んでなど」
久しぶりの体の重さを夢主のせいにして八つ当たりをしていか……
斎藤は今日一日、夢主に辛く当たっていた己に気が付いた。
煙草のせいとばかり思っていたが、苛立ちをぶつけてしまった己の態度を悲しんでいたのだ。
……すっかり忘れていると思ったが夢主はまだ自分の存在を不安に感じているのか。いや、俺に存在を否定される事を恐れているのか、頼りに……してくれているのか……
「すまない、少し……過ぎたようだな」
久しぶりの怒った顔でもと思っていた先程までの自分を愚かしく感じた斎藤は、沈んだ声で静かに詫びた。
夢主はその通りですと遠慮なく首を縦に振った。顔には少し笑顔が戻っていた。
「雨で風邪を引くなんて子供みたい」
「フッ、体が鈍っていたか……雨の中の行軍などザラだったがな」
自嘲した一言にクスッと笑みを溢した。その小さな笑い声にほっと安堵した斎藤は、その場に胡坐をかいて座り込んだ。
ほっとした途端、脱力していったのだ。
「お布団敷くので休んでくさい、そうしたら許してあげます」
怒ってなどいませんが……夢主の涙を湛えた笑顔に観念し、斎藤は太い息を吐いて頷いた。
「お粥も食べてくださいよ」
「おいおい、病人扱いするんじゃないよ」
言葉とは裏腹に、どうにでもしてくれと斎藤の顔は笑っている。
「いいんです、一さんは今日一日寝なきゃいけません」
「それでお前の機嫌は直るのか」
「はいっ、いい子いい子してあげますよ」
「阿呆ぅ」
ようやく腰を浮かせた斎藤は、以前夢主が買って来た紺碧色の長着に着替え始めた。
妙に借りて着ている夢主の花浅葱と並び立つと、互いに寄って見えるいい青だ。
「揃いの様だな」
フッと緩んだ顔と飛び出した言葉に、夢主は驚いて目をしばたたかせた。
「はっ……はいっ……お揃いみたいです……」
嬉しさで頬が染まった夢主は、熱が移ったのではないかと両手で頬を覆った。
斎藤は贖罪のつもりで寝床に入り、黙って夢主に布団を掛けられた。
「大人しくしていてくださいね」
「あぁ、分かったよ」
布団に己を押し込めた妻は、満足そうに微笑むと粥を作りに台所へ向かった。
部屋の仕切り越しに伝わってくる物音がやけに心地良い。
天井を見上げれば見事な木目が目に入った。普段は天井の板がずれていないか、侵入者がいないかと見る事はあっても、木目の美しさを楽しんだ事はない。
「今日は初めてづくしだな」
……夢主のおかげか。あぁ初めてといえばあの薬も……後で、粥を食ってから……だな……
聞こえてきた夢主の鼻歌に口元を緩め、斎藤はゆっくりと目を閉じた。
台所からは鍋の中で粥がくつくつと炊かれる音が聞こえ始めた。たまにはこうして休むのも悪くは無いな、そう感じながら、斎藤は久しぶりの穏やかな時を楽しんだ。