【明】明治の沖田
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時は明治。
斎藤が再び姿を現してから間もなくのこと。
沖田は、仕事帰りの斎藤とすれ違った。
夜分出歩く沖田は珍しい。立ち止まった斎藤に呼び止められて、沖田は半身だけで振り返った。
「こんな所で何をしている」
「僕だって夜歩きくらいしますよ。今宵は静かな夜です。何も起きないでしょう」
夢主と再会して共に暮らし始めた斎藤だが、早速仕事で家を空けている。
不在の夫に代わり、沖田が引き続き夢主に気を配っていた。けれども今宵は、そんな気分にはなれなかった。静かな夜だ、厄災の気配が無いというのは本当だった。
「これから帰るのでしょう、でしたら尚更僕は帰らなくとも問題ないでしょう」
それから頭の後ろで手を組むと、沖田は後ろに立つ斎藤に聞こえるように本音を溢した。
「このまま帰るのも癪ですから、花街にでも寄って行こうかな~っ」
「何……」
「驚かなくてもいいでしょう、僕だって男ですよ、あははっ」
「おいっ」
らしくない言葉は捨て台詞のようだった。
斎藤が呼び止めようとしているのを感じた沖田は、待てと言われる前に手を振りながら歩きだした。
沖田は本当に花街へ向かい、妓を買った。
ふたりが夜の町ですれ違ってからひと月ほどが経った頃、沖田の屋敷に手伝いに来ていた夢主が、沖田の変化にはたと気づいた。
何かが違う。言葉にしがたい何かだ。沖田は縁側に腰かけ、刀を鞘から抜いて様子を見ている。夢主は洗濯物を抱えて、沖田の前で足を止めた。
「総司さん……何か、ありましたか」
「んっ?」
「何だか……少し変わりました」
沖田は夢主は近寄れるよう刀をしまった。
「そうですか?」
そう言って笑う沖田だが、いつものにこりとした笑顔ではなかった。優しく笑んでいるが、フフンと聞こえてきそうな影が見えた。心の闇とは違う、自ら作り出す影、秘密を持つ顔とでも言えるだろうか。手にした刀を置いて顔を上げた沖田は、笑顔をさらに強めた。
「変わったのなら夢主ちゃんのおかげですね、誰かを本当に好きになった事が無かったから楽しくなかったのかもしれません」
「えっ、総司さん?」
言っている意味が分かりませんがと、夢主は首を傾げた。白い洗濯物を抱えて首をかしげる姿は、とても愛らしく、沖田はふふっと笑った。
それから、夢主に向ける眼差しに全くそぐわない言葉を口にした。
「女の子を苛めるというのは楽しいですね」
「えぇっ?!」
「あははっ、何でもありませんよ」
「は、はぃ……」
思いもしない言葉が沖田の口から飛び出て、夢主は口を隠すように洗濯物を持ち上げた。洗濯物の陰からこっそり覗くように目を見せている。
「それより、夢主ちゃんも変わりましたよ」
「へっ?」
沖田を観察しようとして、逆に観察されて感想を告げられてしまい、夢主は間の抜けた声を出していた。
沖田が艶を含んだ目つきで、夢主を揶揄う。らくしない冗談を受けて、夢主は恥じらいを覚えた。
斎藤さんと通じたからでしょう?
そんな沖田の声が、夢主の脳裏に届いた。
「……っ嘘です、変わってません!」
真っ赤な顔を隠して、更に洗濯物を掲げた。
「あはははは! もう顔にすぐ出るなぁ、夢主ちゃんは。可愛いね」
沖田は顔を隠す洗濯物を取り上げて、夢主に微笑みかけた。洗濯物を取り返そうとする夢主に、首を振る。手が届かないよう、縁側の奥に置いた。あとは沖田が自分で畳むつもりだった。
「これは僕の洗濯物ですから、預かりますね。取り込んでくれて、ありがとう」
「きょ、今日の沖田さんは変ですっ」
にこりと首を傾げ返してくる沖田に向かって叫ぶと、夢主はその場を逃げ出した。
近づいた沖田から、白粉の香りが漂っていた。
斎藤が再び姿を現してから間もなくのこと。
沖田は、仕事帰りの斎藤とすれ違った。
夜分出歩く沖田は珍しい。立ち止まった斎藤に呼び止められて、沖田は半身だけで振り返った。
「こんな所で何をしている」
「僕だって夜歩きくらいしますよ。今宵は静かな夜です。何も起きないでしょう」
夢主と再会して共に暮らし始めた斎藤だが、早速仕事で家を空けている。
不在の夫に代わり、沖田が引き続き夢主に気を配っていた。けれども今宵は、そんな気分にはなれなかった。静かな夜だ、厄災の気配が無いというのは本当だった。
「これから帰るのでしょう、でしたら尚更僕は帰らなくとも問題ないでしょう」
それから頭の後ろで手を組むと、沖田は後ろに立つ斎藤に聞こえるように本音を溢した。
「このまま帰るのも癪ですから、花街にでも寄って行こうかな~っ」
「何……」
「驚かなくてもいいでしょう、僕だって男ですよ、あははっ」
「おいっ」
らしくない言葉は捨て台詞のようだった。
斎藤が呼び止めようとしているのを感じた沖田は、待てと言われる前に手を振りながら歩きだした。
沖田は本当に花街へ向かい、妓を買った。
ふたりが夜の町ですれ違ってからひと月ほどが経った頃、沖田の屋敷に手伝いに来ていた夢主が、沖田の変化にはたと気づいた。
何かが違う。言葉にしがたい何かだ。沖田は縁側に腰かけ、刀を鞘から抜いて様子を見ている。夢主は洗濯物を抱えて、沖田の前で足を止めた。
「総司さん……何か、ありましたか」
「んっ?」
「何だか……少し変わりました」
沖田は夢主は近寄れるよう刀をしまった。
「そうですか?」
そう言って笑う沖田だが、いつものにこりとした笑顔ではなかった。優しく笑んでいるが、フフンと聞こえてきそうな影が見えた。心の闇とは違う、自ら作り出す影、秘密を持つ顔とでも言えるだろうか。手にした刀を置いて顔を上げた沖田は、笑顔をさらに強めた。
「変わったのなら夢主ちゃんのおかげですね、誰かを本当に好きになった事が無かったから楽しくなかったのかもしれません」
「えっ、総司さん?」
言っている意味が分かりませんがと、夢主は首を傾げた。白い洗濯物を抱えて首をかしげる姿は、とても愛らしく、沖田はふふっと笑った。
それから、夢主に向ける眼差しに全くそぐわない言葉を口にした。
「女の子を苛めるというのは楽しいですね」
「えぇっ?!」
「あははっ、何でもありませんよ」
「は、はぃ……」
思いもしない言葉が沖田の口から飛び出て、夢主は口を隠すように洗濯物を持ち上げた。洗濯物の陰からこっそり覗くように目を見せている。
「それより、夢主ちゃんも変わりましたよ」
「へっ?」
沖田を観察しようとして、逆に観察されて感想を告げられてしまい、夢主は間の抜けた声を出していた。
沖田が艶を含んだ目つきで、夢主を揶揄う。らくしない冗談を受けて、夢主は恥じらいを覚えた。
斎藤さんと通じたからでしょう?
そんな沖田の声が、夢主の脳裏に届いた。
「……っ嘘です、変わってません!」
真っ赤な顔を隠して、更に洗濯物を掲げた。
「あはははは! もう顔にすぐ出るなぁ、夢主ちゃんは。可愛いね」
沖田は顔を隠す洗濯物を取り上げて、夢主に微笑みかけた。洗濯物を取り返そうとする夢主に、首を振る。手が届かないよう、縁側の奥に置いた。あとは沖田が自分で畳むつもりだった。
「これは僕の洗濯物ですから、預かりますね。取り込んでくれて、ありがとう」
「きょ、今日の沖田さんは変ですっ」
にこりと首を傾げ返してくる沖田に向かって叫ぶと、夢主はその場を逃げ出した。
近づいた沖田から、白粉の香りが漂っていた。