111.別れ、そして新時代へ
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「もっと……もっとずっと、何年も後だと思ってましたっ……」
「フッ……早過ぎたか」
「いいえっ……嬉しいです……嬉しい……」
やがて顔を上げた夢主の瞳は流れる涙はおさまっても、ゆらゆらと潤んでいた。
斎藤の渡した着物に身を包み、夢主の顔はその乙女椿のように色付いている。
再び泣き出しそうな表情に、斎藤は堪らず手を動かした。
頭に手を添え、懐かしい髪の滑りを楽しむように、ゆっくりそっと一撫でした。
「ずっと……ずっと、待ってました」
「それはこちらの台詞だ、随分と待ち焦がれたぞ、こんなにも待たせやがって……」
……そうだ、こんなにも時間を掛けて、遠回りをさせやがって……
斎藤は腕の中の夢主に少し意地悪な眼差しを向けた。
夢主は感情が昂ぶりすぎて途切れてしまう言葉で、必死に想いを伝えようとしている。
「す……すみません……でも、嬉しいです……戻って……くれて……」
やっと一つになれる……何のしがらみも無く、身も心もお前と一つに……
斎藤は目を閉じ、再び夢主の顔を自分の胸に引き寄せて抱きしめた。
「あぁ、約束だろ。俺の望んだ約束だ。お前と共に生きる……」
「一さん……」
「藤田五郎」
「あっ……」
「会津で貰った名だ。今は藤田五郎と名乗っている」
「五郎さん……ふふっ……」
「くすぐったいな」
目尻に涙を残して小さく肩を揺らして笑う夢主に、斎藤ははにかんで応えた。
戦の最中には、すっかり消えていた優しい瞳の色が戻っていた。
「一さん……二人の時はそう呼んでもいいですか」
「好きにしろ」
そう言いながら斎藤は指先で夢主の目尻を拭った。
久しぶりに感じる斎藤の指の感触に頬を染めて身を任せる。くすぐったくて温かい、大好きな感触だ。
「一さん、だいぶ……痩せました……長い戦……大変でしたよね」
自分には分からない戦地の厳しさ。元より細い斎藤だが、見上げる顔が更に細くなっている。
刀を振るい飛び交う銃弾や砲弾の中を走り続けた斎藤、京で別れた頃よりも痩せていた。
斎藤の味わった辛さを思うと再び夢主の瞳が揺れ始めた。
「フッ。お前は変わらん。泣き虫だ」
健やかなまま変わらない夢主を満足そうに見つめ、僅かに首を傾げた。
夢主はその仕種に誘われ、首を傾げて微笑んだ。
「はぃ……泣いちゃい……ますっ……あの、美味しいご飯……ご用意します」
「あぁ、頼む」
握り飯がいい……耳元で囁く斎藤に、夢主は小さく頷きながら笑い声を上げた。
「ふふっ……」
もう一度流れそうな夢主の涙を落ちる前に拭ってやると、斎藤はそのまま頬に手を添えてそっと近付いた。
人目をはばからず顔を寄せる斎藤、激動の時代の流れで裂かれる前に触れたきり、それからずっと触れたくて触れたくて求めていた夢主の唇に重なった。
二人は再会と互いの想いを確かめるように、慈しむよう穏やかに唇を求め合い、熱く熱く二人の体を駆け巡る何かに導かれ、口付けは次第に深くなっていった。
明治三年春、斎藤は新時代に生きる為、共に歩む為に夢主の元へ戻ってきた。
二人の新しい時が始まろうとしていた。
幕末編・斎藤一京都夢物語 妾奉公 完
斎藤一夢物語 明治妻奉公 1.コトハジメ へ続く
妾奉公、最後までご覧いただきありがとうございます。
コチラ👏から感想などお待ちしております。
引き続き明治編・明治妻奉公を少しずつ掲載します。どうぞお楽しみください。</div>
「フッ……早過ぎたか」
「いいえっ……嬉しいです……嬉しい……」
やがて顔を上げた夢主の瞳は流れる涙はおさまっても、ゆらゆらと潤んでいた。
斎藤の渡した着物に身を包み、夢主の顔はその乙女椿のように色付いている。
再び泣き出しそうな表情に、斎藤は堪らず手を動かした。
頭に手を添え、懐かしい髪の滑りを楽しむように、ゆっくりそっと一撫でした。
「ずっと……ずっと、待ってました」
「それはこちらの台詞だ、随分と待ち焦がれたぞ、こんなにも待たせやがって……」
……そうだ、こんなにも時間を掛けて、遠回りをさせやがって……
斎藤は腕の中の夢主に少し意地悪な眼差しを向けた。
夢主は感情が昂ぶりすぎて途切れてしまう言葉で、必死に想いを伝えようとしている。
「す……すみません……でも、嬉しいです……戻って……くれて……」
やっと一つになれる……何のしがらみも無く、身も心もお前と一つに……
斎藤は目を閉じ、再び夢主の顔を自分の胸に引き寄せて抱きしめた。
「あぁ、約束だろ。俺の望んだ約束だ。お前と共に生きる……」
「一さん……」
「藤田五郎」
「あっ……」
「会津で貰った名だ。今は藤田五郎と名乗っている」
「五郎さん……ふふっ……」
「くすぐったいな」
目尻に涙を残して小さく肩を揺らして笑う夢主に、斎藤ははにかんで応えた。
戦の最中には、すっかり消えていた優しい瞳の色が戻っていた。
「一さん……二人の時はそう呼んでもいいですか」
「好きにしろ」
そう言いながら斎藤は指先で夢主の目尻を拭った。
久しぶりに感じる斎藤の指の感触に頬を染めて身を任せる。くすぐったくて温かい、大好きな感触だ。
「一さん、だいぶ……痩せました……長い戦……大変でしたよね」
自分には分からない戦地の厳しさ。元より細い斎藤だが、見上げる顔が更に細くなっている。
刀を振るい飛び交う銃弾や砲弾の中を走り続けた斎藤、京で別れた頃よりも痩せていた。
斎藤の味わった辛さを思うと再び夢主の瞳が揺れ始めた。
「フッ。お前は変わらん。泣き虫だ」
健やかなまま変わらない夢主を満足そうに見つめ、僅かに首を傾げた。
夢主はその仕種に誘われ、首を傾げて微笑んだ。
「はぃ……泣いちゃい……ますっ……あの、美味しいご飯……ご用意します」
「あぁ、頼む」
握り飯がいい……耳元で囁く斎藤に、夢主は小さく頷きながら笑い声を上げた。
「ふふっ……」
もう一度流れそうな夢主の涙を落ちる前に拭ってやると、斎藤はそのまま頬に手を添えてそっと近付いた。
人目をはばからず顔を寄せる斎藤、激動の時代の流れで裂かれる前に触れたきり、それからずっと触れたくて触れたくて求めていた夢主の唇に重なった。
二人は再会と互いの想いを確かめるように、慈しむよう穏やかに唇を求め合い、熱く熱く二人の体を駆け巡る何かに導かれ、口付けは次第に深くなっていった。
明治三年春、斎藤は新時代に生きる為、共に歩む為に夢主の元へ戻ってきた。
二人の新しい時が始まろうとしていた。
幕末編・斎藤一京都夢物語 妾奉公 完
斎藤一夢物語 明治妻奉公 1.コトハジメ へ続く
妾奉公、最後までご覧いただきありがとうございます。
コチラ👏から感想などお待ちしております。
引き続き明治編・明治妻奉公を少しずつ掲載します。どうぞお楽しみください。</div>
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