111.別れ、そして新時代へ
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言い返せなくなるまで説得してくれた倉沢に頭を下げて、斎藤は東京行きを決めた。
少ないながら、斗南から東京へ向かう支度金が渡された。
加えて江戸の頃から今も松平家が所有している東京の地を一部分け与えると容保直筆の証書を受け取った。
東京で安住の地とせよと、容保から特別な男への異例の餞別だ。
そしてもう一つの書状が渡された。川路から預かっていた通行所と紹介状だ。
「お主への士官の話は山ほど届いておる。藤田五郎が新選組の生き残り……薩長のお偉方にはその立場はとうに知られておる。知った上での誘いだ」
士官の話……斎藤は眉間に皺を寄せた。
官賊軍の元で働くのは虫唾が走る。しかし生きていく為には稼ぎがいる。
自分一人ならいざ知らず、守りたい女がいる。苦労などさせられようか。
守る者も今は一人だが、いずれは増えるかもしれない……斎藤は柄にも無く淡い夢を思い描くと、眉の間に深く刻んでいた皺を薄くした。
「しかしお主の生き方はよく知っておる。ひとつだけ、お主に合う話が来ておる」
「俺に合う話とは」
「邏卒。いわば、明治における新選組だ」
「邏卒……」
斎藤が新選組という言葉に反応しないわけが無い。東京の治安を守る役割。悪く無い話だ。
この邏卒は数年後に警察と名を変え犯罪の予防や取締り、治安維持に当たる。
フランスで警察組織を学ぶ川路により警視庁が設置される。
斎藤もそこに身を置き特務に就くことになるだろう。
「国と民を守る為に働く。お主の上司となる男は薩摩藩の男だ。それでも引き受けるか」
「敗者として出来ることを、俺は奴らの傍で目を光らせましょう。そして正義に背く行いをしたならば、容赦なく斬り捨てる。悪即斬のもとに」
斎藤の強い眼光に倉沢も嬉しそうに頷いた。
戊辰戦争の敗者の全ての想いをこの男は背負ってくれるだろう、そう期待してしまう瞳だ。
「それで良い。ここを離れれば私は一切口出しはせぬ。お主の思うように生きるが良い」
「御意。……最後まで、お世話をお掛けしました」
「構わぬ」
斎藤は最果ての地とも言える荒涼とした斗南をひっそりと抜け出した。
向かうは東京。
容保に帰還の挨拶をし、譲り受ける土地建物を確認、そして川路紹介の仕事を受ける為の手続きをし……夢主のもとへ。
どこにいるか、場所は分からない。
だが捜すのは得意だ。
歩み出した足は自ずと速まった。
少ないながら、斗南から東京へ向かう支度金が渡された。
加えて江戸の頃から今も松平家が所有している東京の地を一部分け与えると容保直筆の証書を受け取った。
東京で安住の地とせよと、容保から特別な男への異例の餞別だ。
そしてもう一つの書状が渡された。川路から預かっていた通行所と紹介状だ。
「お主への士官の話は山ほど届いておる。藤田五郎が新選組の生き残り……薩長のお偉方にはその立場はとうに知られておる。知った上での誘いだ」
士官の話……斎藤は眉間に皺を寄せた。
官賊軍の元で働くのは虫唾が走る。しかし生きていく為には稼ぎがいる。
自分一人ならいざ知らず、守りたい女がいる。苦労などさせられようか。
守る者も今は一人だが、いずれは増えるかもしれない……斎藤は柄にも無く淡い夢を思い描くと、眉の間に深く刻んでいた皺を薄くした。
「しかしお主の生き方はよく知っておる。ひとつだけ、お主に合う話が来ておる」
「俺に合う話とは」
「邏卒。いわば、明治における新選組だ」
「邏卒……」
斎藤が新選組という言葉に反応しないわけが無い。東京の治安を守る役割。悪く無い話だ。
この邏卒は数年後に警察と名を変え犯罪の予防や取締り、治安維持に当たる。
フランスで警察組織を学ぶ川路により警視庁が設置される。
斎藤もそこに身を置き特務に就くことになるだろう。
「国と民を守る為に働く。お主の上司となる男は薩摩藩の男だ。それでも引き受けるか」
「敗者として出来ることを、俺は奴らの傍で目を光らせましょう。そして正義に背く行いをしたならば、容赦なく斬り捨てる。悪即斬のもとに」
斎藤の強い眼光に倉沢も嬉しそうに頷いた。
戊辰戦争の敗者の全ての想いをこの男は背負ってくれるだろう、そう期待してしまう瞳だ。
「それで良い。ここを離れれば私は一切口出しはせぬ。お主の思うように生きるが良い」
「御意。……最後まで、お世話をお掛けしました」
「構わぬ」
斎藤は最果ての地とも言える荒涼とした斗南をひっそりと抜け出した。
向かうは東京。
容保に帰還の挨拶をし、譲り受ける土地建物を確認、そして川路紹介の仕事を受ける為の手続きをし……夢主のもとへ。
どこにいるか、場所は分からない。
だが捜すのは得意だ。
歩み出した足は自ずと速まった。