111.別れ、そして新時代へ
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「箱館市中に敵軍が進行、弁天台場が孤立しています!このままでは……堕ちます!!」
箱館にやって来る敵艦に対抗する唯一にして絶対的要所、海に突き出た弁天台場。
新選組の隊士が守るその弁天台場の危機に土方は動いた。
五稜郭から千代ヶ岡陣屋に入り、陣屋にいた小隊を率いて出陣すると一本木関門まで進み、先に交戦する隊の弁天台場進行を援護した。
土方は弁天台場で援軍を待つ仲間達を想いながら、一本木関門を死守する為に必死に馬上から指揮を執っていた。
蝦夷に渡り新しい要職に就いた土方だが、新選組の仲間達は特別な存在だ。
「ここで失って堪るかっ!!」
──大事な仲間を、俺達の信じたものを!!
圧倒的な数の差は理解しているが、ここで引く訳にはいかない。
僅かな味方の後援部隊がやって来るまで、せめてここで堪えなければ。
強い意思を持ち、不利な状況をどうにか変えようと味方の兵に声の限り指示を届けていた。
「あっ」
飛び交う銃声の中、パン……乾いた音がひとつだけ、男者達の耳にこだました。
奇妙に耳に残る銃声に振り向くと、自分達の指揮官・土方歳三が腹部に被弾し、衝撃のまま馬上から地面の上にゆっくりと倒れていく。
「土方さん!!!」
「っ……怯むな……俺に構うなっ、弁天台場を……」
土方に駆け寄った兵は苦しげに搾り出された指示に頷き、持ち場に戻って敵に向かった。
上官の指示は絶対、更に負傷した状態で出された指示は意地でも叶えたい。
土方に率いられてやってきた男達は、我武者羅に敵へ向かって行った。
「ちきしょう……銃でやられたか……」
苦しそうに息を吐く土方は、ぼんやりとした意識の中で辺りを見回した。
一本木関門の木柱が見える。
「ここか……夢主のやつが言ってたな……味方と合流できる……のか……」
一本木関門の傍で待っていれば迎えが来る。そんな言葉を思い出し、その場に横たわった。
腹に手を添えて、空を見上げる。
空を見上げると不思議なことに、ぶつかり合う敵味方の声も激しい銃声も、どこか遠くの出来事のように感じられた。
手を濡らす己の血が止まらない。
「あぁ……意識が遠のきそうだ・・・綺麗な空だ……」
青く澄んだ空に、筆で引いたような綺麗な雲が幾つか浮かび、ゆっくりと流れていた。
戦などお構い無しに、蒼穹の空を鳥達がどこかへと飛んでいく。
「天飛ぶ鳥……お前らはどこまで行こうとしてるんだ……」
絵のような趣のある空を見ていると、土方は時を失って感じた。
そして、気が付いた。
「迎え・・・はは……ははっ……ふはははははっ!!」
「副長……」
傷を負い苦しそうな呼吸を繰り返していた土方が突然笑い出した。
土方をよく知る馬丁の男は不安になり駆け寄った。
容態を見て声を掛けるが、土方はクククッと笑い続ける。
陸軍奉行並となった今も、副長と呼ばれて喜ぶ自分がいる。副長と呼んだ馬丁の男に微かに頷いて笑って見せた。
頭の中にはその副長時代に見守っていた女が浮かんでいた。
「いや、大丈夫だ、っくっくっく……そうか……迎えは迎えでも、そっちの迎えかよ……はははははっ!!!」
「副長、傷に触ります、どうか……」
「いや、構わない。夢主のやつ!!最後の最後にやりやがったな!!しっかり俺をはめてくれやがって、くっくっ……」
馬丁の男は更に心配になり、寄り添うように土方を見守っている。
笑いがおさまった土方はもう一度綺麗な蝦夷の空を見上げた。
「おかげで楽しく逝けそうだぜ……夢主……」
……俺は……土方歳三になれたか、夢主……
……お前の知る、土方歳三に……
「最後に……抱いてやりたかったよ……本当だぜ……」
閉じゆく瞳の中で、二羽の鳥が勢いよく視界の空を飛び抜けていった。
……斎藤に……幸せにしてもらいな……
……泣かされたら……俺が枕元に……立ってやる……ははっ……夢主……
……やっとみんなに会いにいけるぜ……
……ありがとよ…………
土方歳三、享年三十五歳。明治二年五月十一日。
箱館一本木関門付近に倒れる。
静まり返っていた一本木関門の戦場に再び銃声の嵐が吹き荒れた。
低く続く銃撃の音と高く乾いた銃声が途切れなく続いた。
箱館にやって来る敵艦に対抗する唯一にして絶対的要所、海に突き出た弁天台場。
新選組の隊士が守るその弁天台場の危機に土方は動いた。
五稜郭から千代ヶ岡陣屋に入り、陣屋にいた小隊を率いて出陣すると一本木関門まで進み、先に交戦する隊の弁天台場進行を援護した。
土方は弁天台場で援軍を待つ仲間達を想いながら、一本木関門を死守する為に必死に馬上から指揮を執っていた。
蝦夷に渡り新しい要職に就いた土方だが、新選組の仲間達は特別な存在だ。
「ここで失って堪るかっ!!」
──大事な仲間を、俺達の信じたものを!!
圧倒的な数の差は理解しているが、ここで引く訳にはいかない。
僅かな味方の後援部隊がやって来るまで、せめてここで堪えなければ。
強い意思を持ち、不利な状況をどうにか変えようと味方の兵に声の限り指示を届けていた。
「あっ」
飛び交う銃声の中、パン……乾いた音がひとつだけ、男者達の耳にこだました。
奇妙に耳に残る銃声に振り向くと、自分達の指揮官・土方歳三が腹部に被弾し、衝撃のまま馬上から地面の上にゆっくりと倒れていく。
「土方さん!!!」
「っ……怯むな……俺に構うなっ、弁天台場を……」
土方に駆け寄った兵は苦しげに搾り出された指示に頷き、持ち場に戻って敵に向かった。
上官の指示は絶対、更に負傷した状態で出された指示は意地でも叶えたい。
土方に率いられてやってきた男達は、我武者羅に敵へ向かって行った。
「ちきしょう……銃でやられたか……」
苦しそうに息を吐く土方は、ぼんやりとした意識の中で辺りを見回した。
一本木関門の木柱が見える。
「ここか……夢主のやつが言ってたな……味方と合流できる……のか……」
一本木関門の傍で待っていれば迎えが来る。そんな言葉を思い出し、その場に横たわった。
腹に手を添えて、空を見上げる。
空を見上げると不思議なことに、ぶつかり合う敵味方の声も激しい銃声も、どこか遠くの出来事のように感じられた。
手を濡らす己の血が止まらない。
「あぁ……意識が遠のきそうだ・・・綺麗な空だ……」
青く澄んだ空に、筆で引いたような綺麗な雲が幾つか浮かび、ゆっくりと流れていた。
戦などお構い無しに、蒼穹の空を鳥達がどこかへと飛んでいく。
「天飛ぶ鳥……お前らはどこまで行こうとしてるんだ……」
絵のような趣のある空を見ていると、土方は時を失って感じた。
そして、気が付いた。
「迎え・・・はは……ははっ……ふはははははっ!!」
「副長……」
傷を負い苦しそうな呼吸を繰り返していた土方が突然笑い出した。
土方をよく知る馬丁の男は不安になり駆け寄った。
容態を見て声を掛けるが、土方はクククッと笑い続ける。
陸軍奉行並となった今も、副長と呼ばれて喜ぶ自分がいる。副長と呼んだ馬丁の男に微かに頷いて笑って見せた。
頭の中にはその副長時代に見守っていた女が浮かんでいた。
「いや、大丈夫だ、っくっくっく……そうか……迎えは迎えでも、そっちの迎えかよ……はははははっ!!!」
「副長、傷に触ります、どうか……」
「いや、構わない。夢主のやつ!!最後の最後にやりやがったな!!しっかり俺をはめてくれやがって、くっくっ……」
馬丁の男は更に心配になり、寄り添うように土方を見守っている。
笑いがおさまった土方はもう一度綺麗な蝦夷の空を見上げた。
「おかげで楽しく逝けそうだぜ……夢主……」
……俺は……土方歳三になれたか、夢主……
……お前の知る、土方歳三に……
「最後に……抱いてやりたかったよ……本当だぜ……」
閉じゆく瞳の中で、二羽の鳥が勢いよく視界の空を飛び抜けていった。
……斎藤に……幸せにしてもらいな……
……泣かされたら……俺が枕元に……立ってやる……ははっ……夢主……
……やっとみんなに会いにいけるぜ……
……ありがとよ…………
土方歳三、享年三十五歳。明治二年五月十一日。
箱館一本木関門付近に倒れる。
静まり返っていた一本木関門の戦場に再び銃声の嵐が吹き荒れた。
低く続く銃撃の音と高く乾いた銃声が途切れなく続いた。