109.さよなら
夢主名前設定
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江戸では夢主と沖田が旅立とうとしていた。
「比古師匠は帰ってしまうのですか」
「あぁ、沖田がいれば俺は不要だろう。せっかくの二人旅を邪魔してはいかんからな」
「もう師匠ってば、そういうのでは……」
「分かっているさ夢主、だが俺がいれば沖田の顔が立たんのも事実だ。そうだろう沖田、男として守って見せろ、ひとりで出来るな」
「ははっ、お任せください!色々と……ありがとうございました」
「うむ、頑張れよ」
比古に留守宅を任せたいが、流石に比古は待っていられんと京に帰っていった。
仕方なく大家に夢主の夫を探しにいくと旅の目的を誤魔化して、留守宅を託した。
幕末以前より、商人による定期船は運行されている。米に酒、醤油や味噌から海産物や鉱物までが船で運ばれた。
江戸を出て西に向かう船もあれば、津軽海峡を回り日本海を通る船もある。日本をぐるりと船で一周出来るほど航路は栄えていた。
幕末にもなると、各地に国際港が開かれた。蝦夷の箱館にも国際港があり、鎖国と言えど異国との交易が行われ、船の行き来は盛んであった。
その箱館に向かう土方を捉まえる為、二人は仙台行きの船に乗り込んだ。
二人が自分に合う為にこちらへ向かっている──
そんな事を知らない土方は、仙台青葉城に入り官軍との戦いを望み、働き掛けていた。
しかし仙台藩に拒否された為、北上中の旧幕軍と合流後、僅かに伴っている新選組隊士と共に蝦夷地に向かう船に乗り込む手筈を整えた。
幕府の海軍を指揮した榎本武揚の艦隊だ。
彼らと蝦夷に渡り新たな日本を作ろうと、沈む心に小さな光を見出した。
「少し海を見てくる」
部下にそう言い残しひとり高台を目指した。
吹き付ける寒風に髪をなびかせ、胸の隠しから懐中時計を取り出して、針が進むのを眺めた。
……時は止まらない、ただ進むだけだ……
土方は時計を取り出した隠しにもう一度手を入れ、中から桜の陶器を取り出した。
京で受け取ってからずっと懐にあったそれは、洋装になっても変わらない。今は時計と共に胸元にある。
「江戸も、もう大丈夫だろう……元気で暮らせよ、幸せになれ……」
優しい形の桜の陶器を愛おしむように触れて頬を緩め、時計と共にそっと胸の近くに戻した。
これから目指す北の海を目にし、それから南に目を移すと、相も変わらずやって来る商船が目に入った。
立派なその船は接岸し、早速とばかりに荷を降ろし始める。
「商人は逞しいな……懐かしい」
そういえば俺も薬を売り歩いたっけ……
戦を恐れず海を渡る貫禄ある商船を目に、土方は薬の行商をしていた頃の自分を思い出した。
「稽古をつけてもらって薬を売る……今思えば随分と都合のいい話だ」
薬箱に竹刀や木刀を括り付けて各地を歩き、道場を訪ねては飛び込みの稽古を願い出た。
そんな懐かしい日々の思い出に、戦の最中の緊張を忘れフフッと小さく声を出した。
「土方さん!!」
「なっ……」
誰もいないはずの海を見下ろす高台で突然名前を呼ばれた土方は、呼び掛けよりもその声に驚いて振り返った。
「何やってんだ……お前ら……」
呆然とするのも仕方があるまい。
確かに江戸の植木屋にいた二人が今、丘を上がって目の前にやって来る。
「総司……夢主!」
沖田は顔を隠していた衿巻を下ろし、土方には懐かしい明るい笑顔を見せ、夢主も隣で微笑んだ。
「ははっ、顔を隠したままでどうしようかと思いましたが、新選組の知った顔がいて助かりましたよ!夢主ちゃんを見て嬉しそうにしてましたね、すぐ僕らに土方さんの居場所を教えてくれましたよ」
「そりゃあ構わねぇが……何だってこんな所にいるんだよ!」
「船で来たんですよ、ほら、あの船です。随分と揺れました」
「そぉじゃねぇだろう!ここは仙台だぞ!何しに来た!」
「何って……土方さんに会いに……」
夢主の呟きにクスクスと笑う沖田、そんなふたりに土方は顔を抱えて項垂れた。
「比古師匠は帰ってしまうのですか」
「あぁ、沖田がいれば俺は不要だろう。せっかくの二人旅を邪魔してはいかんからな」
「もう師匠ってば、そういうのでは……」
「分かっているさ夢主、だが俺がいれば沖田の顔が立たんのも事実だ。そうだろう沖田、男として守って見せろ、ひとりで出来るな」
「ははっ、お任せください!色々と……ありがとうございました」
「うむ、頑張れよ」
比古に留守宅を任せたいが、流石に比古は待っていられんと京に帰っていった。
仕方なく大家に夢主の夫を探しにいくと旅の目的を誤魔化して、留守宅を託した。
幕末以前より、商人による定期船は運行されている。米に酒、醤油や味噌から海産物や鉱物までが船で運ばれた。
江戸を出て西に向かう船もあれば、津軽海峡を回り日本海を通る船もある。日本をぐるりと船で一周出来るほど航路は栄えていた。
幕末にもなると、各地に国際港が開かれた。蝦夷の箱館にも国際港があり、鎖国と言えど異国との交易が行われ、船の行き来は盛んであった。
その箱館に向かう土方を捉まえる為、二人は仙台行きの船に乗り込んだ。
二人が自分に合う為にこちらへ向かっている──
そんな事を知らない土方は、仙台青葉城に入り官軍との戦いを望み、働き掛けていた。
しかし仙台藩に拒否された為、北上中の旧幕軍と合流後、僅かに伴っている新選組隊士と共に蝦夷地に向かう船に乗り込む手筈を整えた。
幕府の海軍を指揮した榎本武揚の艦隊だ。
彼らと蝦夷に渡り新たな日本を作ろうと、沈む心に小さな光を見出した。
「少し海を見てくる」
部下にそう言い残しひとり高台を目指した。
吹き付ける寒風に髪をなびかせ、胸の隠しから懐中時計を取り出して、針が進むのを眺めた。
……時は止まらない、ただ進むだけだ……
土方は時計を取り出した隠しにもう一度手を入れ、中から桜の陶器を取り出した。
京で受け取ってからずっと懐にあったそれは、洋装になっても変わらない。今は時計と共に胸元にある。
「江戸も、もう大丈夫だろう……元気で暮らせよ、幸せになれ……」
優しい形の桜の陶器を愛おしむように触れて頬を緩め、時計と共にそっと胸の近くに戻した。
これから目指す北の海を目にし、それから南に目を移すと、相も変わらずやって来る商船が目に入った。
立派なその船は接岸し、早速とばかりに荷を降ろし始める。
「商人は逞しいな……懐かしい」
そういえば俺も薬を売り歩いたっけ……
戦を恐れず海を渡る貫禄ある商船を目に、土方は薬の行商をしていた頃の自分を思い出した。
「稽古をつけてもらって薬を売る……今思えば随分と都合のいい話だ」
薬箱に竹刀や木刀を括り付けて各地を歩き、道場を訪ねては飛び込みの稽古を願い出た。
そんな懐かしい日々の思い出に、戦の最中の緊張を忘れフフッと小さく声を出した。
「土方さん!!」
「なっ……」
誰もいないはずの海を見下ろす高台で突然名前を呼ばれた土方は、呼び掛けよりもその声に驚いて振り返った。
「何やってんだ……お前ら……」
呆然とするのも仕方があるまい。
確かに江戸の植木屋にいた二人が今、丘を上がって目の前にやって来る。
「総司……夢主!」
沖田は顔を隠していた衿巻を下ろし、土方には懐かしい明るい笑顔を見せ、夢主も隣で微笑んだ。
「ははっ、顔を隠したままでどうしようかと思いましたが、新選組の知った顔がいて助かりましたよ!夢主ちゃんを見て嬉しそうにしてましたね、すぐ僕らに土方さんの居場所を教えてくれましたよ」
「そりゃあ構わねぇが……何だってこんな所にいるんだよ!」
「船で来たんですよ、ほら、あの船です。随分と揺れました」
「そぉじゃねぇだろう!ここは仙台だぞ!何しに来た!」
「何って……土方さんに会いに……」
夢主の呟きにクスクスと笑う沖田、そんなふたりに土方は顔を抱えて項垂れた。