108.闇に消える狼
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
住む場所の定まらない不安から解放された二人は、早速家の手入れに取り掛かった。
門の看板は暫く掛けないと決めた。
以前の看板はもう無く道場は畳まれており、沖田が看板を掲げるには時期尚早だ。
今は門柱に看板が掛かっていた場所の色が変わった跡だけが目立っている。
貧乏道場だったのだろうか、庭には畑を作ったあとも残されていた。
耕し直せばそのうちに何か育てることも出来るだろう。
「斎藤さんとの家はまた探しましょう」
急がなくて良い。江戸に戻り警察に勤務する斎藤が通いやすく住みやすい家を。
夢主は二人が暮らす家はどんなものになるのだろうと思い浮かべながら掃除を続けた。
二人は暮らす為に必要な場所を優先して片付けた。
はたきを掛け箒で掃き雑巾掛けをする。使わない荷物は一箇所に纏め、寝る場所も確保した。
これから時間は沢山ある。
空いている部屋の手入れと道場の掃除に修繕。ゆっくりと行えば良い。
家は見つかっていないが、これで斎藤を待つことが出来る。夢主は自然と笑んでいた。
気持ちが落ち着くと、夢主は次に土方のことを考えてしまった。
一日一日が過ぎてゆき、日が変わる度に土方の死に近付いていると苦しくなるのだ。
沖田の力を借りねばならないが、沖田は迷いを顔に浮かべていた。
「もう一度会ってお礼を、土方さんとしっかり……お別れをしたいです」
障子を開け放して部屋の前で縁側に腰掛ける二人。
穏やかな庭が見える。
「確かに住む場所も見つかったし、考えられなくはありません。しかし道が……」
「街道は……籠とかまたお馬さんで……」
「無理ですよ、今江戸から北上する道はどこも戦場になっています。どうしてそこまで土方さんに」
「……会うのが怖いのですか」
本心を突かれた沖田、目を見開いて驚いた。
「私……土方さんに会って仕返しをしたいんです」
「仕返し?」
「ふふっ、内緒ですよ、ずーーっと考えてきたんです。土方さんに……笑って欲しくて……最後に笑って欲しいんです。だからどうしても仙台に行きたいんです」
「そう……笑って……」
何をする気か分からないが、夢主の我が儘を聞いてあげたくとも素直に頷けない。沖田は目を落として考え込んだ。
その時、話す二人に大きな影が近付いた。
「臆したか沖田」
「えっ」
迫力ある懐かしい声が聞こえ、夢主が驚く声が短く続いた。
「どこへでも連れて行ってやるんじゃなかったのか、沖田」
「比古さん!」
「比古師匠!!」
「江戸城が明け渡されたと聞いてな、江戸の町が焼かれるという噂が向こうまで届いてきた。無事に江戸に着いたのかも気になって心配で見に来たのさ。随分と探し回ったぞ……ほら、ついでに土産だ」
「あっ!!ありがとうございます!道中大変では……」
「体の小さいお前らと違ってこれくらいの荷物、何てことは無い」
比古は肩に担いで来た荷物を夢主のそばの縁側に置いた。
京の山で比古に預けた荷物だ。逸る思いで荷を解くと、中から大切な品々が姿を現した。
「これからあっと言う間に寒くなる。丁度良いだろう」
「はい!斎藤さんの半纏……嬉しいです」
急に冷え込んだある秋の日、斎藤が巡察帰りに寄り道をして買ってきてくれた品だ。夢主は久しぶりに見る藍色の半纏を胸に抱えた。
「随分と立派な道場屋敷だな」
「道場屋敷にしては控えめですが……縁あって住まわせていただける事になったんです」
沖田が少し気まずげに語るのは、自分の迷っている姿を見られてしまったからだろう。
それを目にした比古は遠慮なく沖田に凄んで視線をぶつけた。
門の看板は暫く掛けないと決めた。
以前の看板はもう無く道場は畳まれており、沖田が看板を掲げるには時期尚早だ。
今は門柱に看板が掛かっていた場所の色が変わった跡だけが目立っている。
貧乏道場だったのだろうか、庭には畑を作ったあとも残されていた。
耕し直せばそのうちに何か育てることも出来るだろう。
「斎藤さんとの家はまた探しましょう」
急がなくて良い。江戸に戻り警察に勤務する斎藤が通いやすく住みやすい家を。
夢主は二人が暮らす家はどんなものになるのだろうと思い浮かべながら掃除を続けた。
二人は暮らす為に必要な場所を優先して片付けた。
はたきを掛け箒で掃き雑巾掛けをする。使わない荷物は一箇所に纏め、寝る場所も確保した。
これから時間は沢山ある。
空いている部屋の手入れと道場の掃除に修繕。ゆっくりと行えば良い。
家は見つかっていないが、これで斎藤を待つことが出来る。夢主は自然と笑んでいた。
気持ちが落ち着くと、夢主は次に土方のことを考えてしまった。
一日一日が過ぎてゆき、日が変わる度に土方の死に近付いていると苦しくなるのだ。
沖田の力を借りねばならないが、沖田は迷いを顔に浮かべていた。
「もう一度会ってお礼を、土方さんとしっかり……お別れをしたいです」
障子を開け放して部屋の前で縁側に腰掛ける二人。
穏やかな庭が見える。
「確かに住む場所も見つかったし、考えられなくはありません。しかし道が……」
「街道は……籠とかまたお馬さんで……」
「無理ですよ、今江戸から北上する道はどこも戦場になっています。どうしてそこまで土方さんに」
「……会うのが怖いのですか」
本心を突かれた沖田、目を見開いて驚いた。
「私……土方さんに会って仕返しをしたいんです」
「仕返し?」
「ふふっ、内緒ですよ、ずーーっと考えてきたんです。土方さんに……笑って欲しくて……最後に笑って欲しいんです。だからどうしても仙台に行きたいんです」
「そう……笑って……」
何をする気か分からないが、夢主の我が儘を聞いてあげたくとも素直に頷けない。沖田は目を落として考え込んだ。
その時、話す二人に大きな影が近付いた。
「臆したか沖田」
「えっ」
迫力ある懐かしい声が聞こえ、夢主が驚く声が短く続いた。
「どこへでも連れて行ってやるんじゃなかったのか、沖田」
「比古さん!」
「比古師匠!!」
「江戸城が明け渡されたと聞いてな、江戸の町が焼かれるという噂が向こうまで届いてきた。無事に江戸に着いたのかも気になって心配で見に来たのさ。随分と探し回ったぞ……ほら、ついでに土産だ」
「あっ!!ありがとうございます!道中大変では……」
「体の小さいお前らと違ってこれくらいの荷物、何てことは無い」
比古は肩に担いで来た荷物を夢主のそばの縁側に置いた。
京の山で比古に預けた荷物だ。逸る思いで荷を解くと、中から大切な品々が姿を現した。
「これからあっと言う間に寒くなる。丁度良いだろう」
「はい!斎藤さんの半纏……嬉しいです」
急に冷え込んだある秋の日、斎藤が巡察帰りに寄り道をして買ってきてくれた品だ。夢主は久しぶりに見る藍色の半纏を胸に抱えた。
「随分と立派な道場屋敷だな」
「道場屋敷にしては控えめですが……縁あって住まわせていただける事になったんです」
沖田が少し気まずげに語るのは、自分の迷っている姿を見られてしまったからだろう。
それを目にした比古は遠慮なく沖田に凄んで視線をぶつけた。