108.闇に消える狼
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「あんたら、ここに住んだらいぃ。家賃はそうね……本当なら長屋と同じとはいかんがこんな状態だ、綺麗に直して使ってくれるんなら長屋と同じで構わんよ」
「本当ですかっ!!」
道場付きの大事な土地。
ただ同然で貸すわけにはいかないと一旦は首を振るが、最初からそう考えていたように、すんなりと住処を提供してくれた。
「あぁ、あたしが住むには広すぎる。跡を継ぐ者はいないし売るには惜しい。だから、門弟が戻ってきた時にはすまんが門を通してやってくれんか、看板は無いが弟を慕ってくれる者がもし戻ってきたら……」
「お婆さん……もちろんです!!ありがとうございます!!言葉に出来ないくらい嬉しいです!!」
「おやまぁ、男が泣くんじゃないよぉ」
「泣いてなどは……おりませんよっ、あははははっ」
ほんのり赤い鼻で笑う沖田、見知った土地とは言え住処と道場を探す苦難が続くと覚悟していた。
この話に気が抜け、嬉しさの余り込み上げてくる涙を堪えていた。それは隣りの夢主も同じだった。
「優しいお兄さんだねぇ、あんたも力を合わせて頑張んな!こんなに器用良しなんだ、独り身なんだったらあたしが好い人を見つけてきたげようかぃ。こんな時だ、何だかんだと離れちまった男も多いが、まだまだ地方から出てきた独り身の男は残っておるよ」
「あぁっ、それはですねお婆さん」
縁談を勧める老女を慌てて止めたのは沖田だった。
「いっ、妹には夫婦約束をした者がおりまして、この戦で訳あって今は別々に暮らしているのですが……」
この老女に薩摩や長州の知り合いがいてもおかしくないだろう。
相手が戦に出て戻れないとまでは話せず言葉を濁すが、大家の老女は優しく頷いた。
「そうかい、そうかい。そいつは辛いだろう、帰りを待つのかい。待つ気持ちはよく分かるよ、弟を待って何年経ったか……突然死んだと知らされて涙も出なかったね。あたしの旦那もとうに戦で死んでるからね、大家の当てがなければ行き倒れてる所さ。感謝しかないねぇ……だからあんたらも、甘えればいい」
「大家さん……」
「誰にでも話したくない事はあるだろう、こんな世知辛い世の中だ。ここでぐらい甘えたらいい。それより……随分荷物が少ないが、どこかに置いてあるのかい」
「はい、身を置いていた場所に……」
「そうかい、そいつを持っておいで、明日でもいい。またここにおいで。鍵を用意して待っているからよ、必ず来るんだよ」
「はい、ありがとうございます!……あのこれを」
「何だねこれは……」
「桜の花びら……私が作ったんです。大事な物で夫になる人の物とつがいになっているんです」
「あんたが作ったのかい!そんな大事な物を……」
夫……頬を染め初々しく話す夢主に大家の老女もその大切さを感じた。
「大事な物ですから、必ず取りに戻ります。ですから、預かってください」
「そうかい……なら預かるよ。井上さんかね、あんたの稽古を見ていたら涙が出そうになっちまってね……すまないがまた稽古を見せておくれ、必ず帰って来ておくれよ」
「大家さん、僕こそこんな立派な道場をお借りできて嬉しいです。心からお礼を……」
深く頭を下げ、二人は一旦荷物を取りに植木屋に戻り、翌日荷物を抱えて道場を目指した。
まだ朝も早いが、大家は朝の澄んだ空気の中、待ちわびたとばかりに箒で門前を履きながら二人を待っていた。
夢主の預けた陶器と道場屋敷の鍵を交換する。
小さな鍵が大きな安心を与えてくれた。
「本当ですかっ!!」
道場付きの大事な土地。
ただ同然で貸すわけにはいかないと一旦は首を振るが、最初からそう考えていたように、すんなりと住処を提供してくれた。
「あぁ、あたしが住むには広すぎる。跡を継ぐ者はいないし売るには惜しい。だから、門弟が戻ってきた時にはすまんが門を通してやってくれんか、看板は無いが弟を慕ってくれる者がもし戻ってきたら……」
「お婆さん……もちろんです!!ありがとうございます!!言葉に出来ないくらい嬉しいです!!」
「おやまぁ、男が泣くんじゃないよぉ」
「泣いてなどは……おりませんよっ、あははははっ」
ほんのり赤い鼻で笑う沖田、見知った土地とは言え住処と道場を探す苦難が続くと覚悟していた。
この話に気が抜け、嬉しさの余り込み上げてくる涙を堪えていた。それは隣りの夢主も同じだった。
「優しいお兄さんだねぇ、あんたも力を合わせて頑張んな!こんなに器用良しなんだ、独り身なんだったらあたしが好い人を見つけてきたげようかぃ。こんな時だ、何だかんだと離れちまった男も多いが、まだまだ地方から出てきた独り身の男は残っておるよ」
「あぁっ、それはですねお婆さん」
縁談を勧める老女を慌てて止めたのは沖田だった。
「いっ、妹には夫婦約束をした者がおりまして、この戦で訳あって今は別々に暮らしているのですが……」
この老女に薩摩や長州の知り合いがいてもおかしくないだろう。
相手が戦に出て戻れないとまでは話せず言葉を濁すが、大家の老女は優しく頷いた。
「そうかい、そうかい。そいつは辛いだろう、帰りを待つのかい。待つ気持ちはよく分かるよ、弟を待って何年経ったか……突然死んだと知らされて涙も出なかったね。あたしの旦那もとうに戦で死んでるからね、大家の当てがなければ行き倒れてる所さ。感謝しかないねぇ……だからあんたらも、甘えればいい」
「大家さん……」
「誰にでも話したくない事はあるだろう、こんな世知辛い世の中だ。ここでぐらい甘えたらいい。それより……随分荷物が少ないが、どこかに置いてあるのかい」
「はい、身を置いていた場所に……」
「そうかい、そいつを持っておいで、明日でもいい。またここにおいで。鍵を用意して待っているからよ、必ず来るんだよ」
「はい、ありがとうございます!……あのこれを」
「何だねこれは……」
「桜の花びら……私が作ったんです。大事な物で夫になる人の物とつがいになっているんです」
「あんたが作ったのかい!そんな大事な物を……」
夫……頬を染め初々しく話す夢主に大家の老女もその大切さを感じた。
「大事な物ですから、必ず取りに戻ります。ですから、預かってください」
「そうかい……なら預かるよ。井上さんかね、あんたの稽古を見ていたら涙が出そうになっちまってね……すまないがまた稽古を見せておくれ、必ず帰って来ておくれよ」
「大家さん、僕こそこんな立派な道場をお借りできて嬉しいです。心からお礼を……」
深く頭を下げ、二人は一旦荷物を取りに植木屋に戻り、翌日荷物を抱えて道場を目指した。
まだ朝も早いが、大家は朝の澄んだ空気の中、待ちわびたとばかりに箒で門前を履きながら二人を待っていた。
夢主の預けた陶器と道場屋敷の鍵を交換する。
小さな鍵が大きな安心を与えてくれた。