108.闇に消える狼
夢主名前設定
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「斗南……今は別の名前が、仙台より北の寒い土地です」
「斎藤さんも苦労するんですね……いつ江戸に来られるのかな」
「わかりません……途中で斗南を抜ける理由もわかりませんし……」
「斎藤さんにその意志があれば江戸に戻る時期が早くなるかもしれない、そうですね!夢主ちゃん、落ち込むことはありませんよ」
「総司さん……ありがとうございます。そうですよね、斎藤さんの歴史はきっと変わるでしょうね。大きく変わってしまうかも……良い方向に変わってくれたらいいのですが……」
「大丈夫!月が変わったら僕らも一度、市中に出てみましょう、まだ戦の最中で不安ですが」
「確かに……でも江戸の町は戦火を免れるんです、歴史通りならばですが」
「江戸城が明け渡されて、江戸の町も守られると言うわけですか」
「はい。新政府軍の人が歩いてはいると思うのですが、結局終戦まで江戸一帯を治めきれなかったはず……町では大火が起こるという噂を信じて逃げ出す人が続出したとか……」
「空き家だらけ、それが町の実情ですね。大家さんが残っているなら、やはり一度歩いてみましょう」
五月三十日、沖田総司病死……その時を越えた日、沖田は清々しい気持ちで朝を迎えた。
気持ちに沿うようにカラリと爽やかな風が吹いている。
日差しは暑いくらいだが、今の沖田には心地よかった。
「おはようございます、総司さん!」
「おはよう、夢主ちゃん」
にこりと心からの微笑みに沖田の気持ちが伝わってきた。
生きて、新しい歴史を作る時が来たのだ。
「さて、早速町に出てみましょうか!」
「はいっ」
晴々とした笑顔で二人は出かける仕度に取り掛かった。
「あっ……」
「どうしたんですか、夢主ちゃん」
「いえ……今、黒猫が走っていったんです」
「へぇ、そいつはクロですよ」
「クロ?」
「えぇ。庭で稽古をしていると、たまに塀の上や木の枝から僕を見ていましたね、黒猫は嫌がる人もいるけれど、僕は案外好きですよ」
「私も好きですよ、猫は可愛いですね」
なぁん……とっくに走り去ったと思われた猫が近くにいたのか、小さな甘えた鳴き声が聞こえてきた。
「黒猫……」
「どうかしましたか」
「いえ……なんでもありません、行きましょう」
ふふっと笑い、夢主は沖田の黒猫話を告げなかった。
弱った沖田が斬れば労咳に効くと言われた迷信を信じ、現れた黒猫を斬ろうとするが斬れず「猫も斬れなかった」と嘆く逸話や創作があった。
夢主は一人思い出して心の中で笑っていた。
「良かった、総司さん……本当に……」
「これからが楽しみです」
「はい」
二人は緊張の面持ちで江戸の町へ踏み出した。
二人はある土地を目指していた。
……斎藤さんの為の家……だったらきっと上野……
夢主は記憶の中で、斎藤が後年住んでいた上野付近を目指していた。
「上野ですか……」
「はい、斎藤が勤めるはずの警視庁が確か東京駅の場所だったはず……浅草にも歩いていけて……警視庁から少し距離はあるけど……斎藤さんの足なら……」
「とうきょう?」
「えぇと……戦の後に、江戸から東京と名前が変わってしまうんです」
「えぇっ!?そんな事が起こるのですか……信じられないな……」
「しーーっ、それにしても……上野まで……結構ありますね……」
沖田の大声を制するが、周りに人影はなくその必要も無かった。
沖田はそれでも申し訳ないと小さく頭を下げ、顔を隠す為に巻いている藍染の衿巻きを引っ張り、改めて顔を隠した。
人気の無い道を歩き始めて一刻程が過ぎていた。
「もうすぐ着きます、大丈夫」
「そうなんですか……総司さんはこの辺りに詳しいのですか……」
「まぁ、植木屋と上野の間には試衛館がありますしね」
「……えぇっ!!」
「しー……っ」
沖田がにこりと先程の仕返しをするが、夢主は驚きそれどころではないと目をしばたいた。
「えっ……試衛館、寄らなくていいんですか、私も覗いてみたいです」
「いや、この状況では駄目ですよ、騒ぎになってしまいます。僕の存在は暫く隠さなくてはでしょう」
「そうでしたね……すみません。でも総司さんに土地勘があるって頼もしいです」
「そうですか、良かった。で……上野なんですが……もしかしたら難しいかもしれませんよ」
「どうしてですか」
「まぁ着けば分かりますよ」
その目で見るまでは分かるまいと、沖田は夢主を上野に連れて行った。
「斎藤さんも苦労するんですね……いつ江戸に来られるのかな」
「わかりません……途中で斗南を抜ける理由もわかりませんし……」
「斎藤さんにその意志があれば江戸に戻る時期が早くなるかもしれない、そうですね!夢主ちゃん、落ち込むことはありませんよ」
「総司さん……ありがとうございます。そうですよね、斎藤さんの歴史はきっと変わるでしょうね。大きく変わってしまうかも……良い方向に変わってくれたらいいのですが……」
「大丈夫!月が変わったら僕らも一度、市中に出てみましょう、まだ戦の最中で不安ですが」
「確かに……でも江戸の町は戦火を免れるんです、歴史通りならばですが」
「江戸城が明け渡されて、江戸の町も守られると言うわけですか」
「はい。新政府軍の人が歩いてはいると思うのですが、結局終戦まで江戸一帯を治めきれなかったはず……町では大火が起こるという噂を信じて逃げ出す人が続出したとか……」
「空き家だらけ、それが町の実情ですね。大家さんが残っているなら、やはり一度歩いてみましょう」
五月三十日、沖田総司病死……その時を越えた日、沖田は清々しい気持ちで朝を迎えた。
気持ちに沿うようにカラリと爽やかな風が吹いている。
日差しは暑いくらいだが、今の沖田には心地よかった。
「おはようございます、総司さん!」
「おはよう、夢主ちゃん」
にこりと心からの微笑みに沖田の気持ちが伝わってきた。
生きて、新しい歴史を作る時が来たのだ。
「さて、早速町に出てみましょうか!」
「はいっ」
晴々とした笑顔で二人は出かける仕度に取り掛かった。
「あっ……」
「どうしたんですか、夢主ちゃん」
「いえ……今、黒猫が走っていったんです」
「へぇ、そいつはクロですよ」
「クロ?」
「えぇ。庭で稽古をしていると、たまに塀の上や木の枝から僕を見ていましたね、黒猫は嫌がる人もいるけれど、僕は案外好きですよ」
「私も好きですよ、猫は可愛いですね」
なぁん……とっくに走り去ったと思われた猫が近くにいたのか、小さな甘えた鳴き声が聞こえてきた。
「黒猫……」
「どうかしましたか」
「いえ……なんでもありません、行きましょう」
ふふっと笑い、夢主は沖田の黒猫話を告げなかった。
弱った沖田が斬れば労咳に効くと言われた迷信を信じ、現れた黒猫を斬ろうとするが斬れず「猫も斬れなかった」と嘆く逸話や創作があった。
夢主は一人思い出して心の中で笑っていた。
「良かった、総司さん……本当に……」
「これからが楽しみです」
「はい」
二人は緊張の面持ちで江戸の町へ踏み出した。
二人はある土地を目指していた。
……斎藤さんの為の家……だったらきっと上野……
夢主は記憶の中で、斎藤が後年住んでいた上野付近を目指していた。
「上野ですか……」
「はい、斎藤が勤めるはずの警視庁が確か東京駅の場所だったはず……浅草にも歩いていけて……警視庁から少し距離はあるけど……斎藤さんの足なら……」
「とうきょう?」
「えぇと……戦の後に、江戸から東京と名前が変わってしまうんです」
「えぇっ!?そんな事が起こるのですか……信じられないな……」
「しーーっ、それにしても……上野まで……結構ありますね……」
沖田の大声を制するが、周りに人影はなくその必要も無かった。
沖田はそれでも申し訳ないと小さく頭を下げ、顔を隠す為に巻いている藍染の衿巻きを引っ張り、改めて顔を隠した。
人気の無い道を歩き始めて一刻程が過ぎていた。
「もうすぐ着きます、大丈夫」
「そうなんですか……総司さんはこの辺りに詳しいのですか……」
「まぁ、植木屋と上野の間には試衛館がありますしね」
「……えぇっ!!」
「しー……っ」
沖田がにこりと先程の仕返しをするが、夢主は驚きそれどころではないと目をしばたいた。
「えっ……試衛館、寄らなくていいんですか、私も覗いてみたいです」
「いや、この状況では駄目ですよ、騒ぎになってしまいます。僕の存在は暫く隠さなくてはでしょう」
「そうでしたね……すみません。でも総司さんに土地勘があるって頼もしいです」
「そうですか、良かった。で……上野なんですが……もしかしたら難しいかもしれませんよ」
「どうしてですか」
「まぁ着けば分かりますよ」
その目で見るまでは分かるまいと、沖田は夢主を上野に連れて行った。