108.闇に消える狼
夢主名前設定
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近藤の死を知らせる便りから一月以上が過ぎると、狭い庭に蝉の声が聞こえ始めた。
この隠れ場所を晒さない為か、余程の出来事がなければ土方も筆を取らないのだろう、もしくはその余裕も無いほどに必死の状況なのか。
夢主と沖田は町の噂で伝わってくる話を老婦伝手に聞き、戦況を確認していた。
「上野の山でも戦が……白河城でもやり合っているようですね」
「上野は確か彰義隊の……白河城では斎藤さんが戦っていると思います」
「斎藤さんが」
「はい……一さんが率いる新選組も参戦しているはずです。一度は城を落とします。でもその後、総督に付いた方の失策が原因だったような……最後には白河城を取られてしまうんです」
「斎藤さんが率いているんですね」
「はい……土方さんは足を怪我しているかと……」
「そうでしたか……上野の彰義隊の動きはご存知ですか」
「この戦争で確か壊滅……もしかしたら原田さんがここにいるかもしれません……」
「そうですか……原田さん……歴史が変わってくれればいいのですが……。土方さんの怪我は酷いのですか」
「よくわかりませんが、暫く経つと戦線に戻られるのできっとそこまででは……」
「そっか、良かった……それで斎藤さんと合流するのですね」
土方がここで終わりではないと分かり、ほっと息を吐くが、頷く夢主の顔が冴えない。
沖田も再び険しい顔に戻ってしまった。
土方は新選組と合流するも、暫くして旧幕府の者と行動を共に仙台へ向かう。
それから遠くないうちに会津が降伏、斎藤は捕虜になり会津藩士らと共に謹慎生活に入る。
語られた話に沖田の顔は青ざめた。
「斎藤さんが」
信じられないと言った顔だ。
最後まで抗い命を燃やし尽きる、そんな男が屈辱ともいえる捕虜となり生きる道を選ぶのは、もう一度会いたい人がいるからなのか。
目の前の夢主を見つめずには、いられなかった。
「でもよく……近藤さんみたいに捕らわれて殺されてもおかしくないのに……」
ついこぼしてしまった沖田は慌てて口を閉ざした。
「大丈夫です、斎藤さんはきっと偽名を名乗って逃れるんでしょうね……変な名前の記録が残ってました、ふふっ」
「変な名前?」
「はい、一戸伝八って」
「ぷっ……いちのへ、でんぱち??あははははっ!斎藤さんらしくないっ、ふははははっ!!でんぱち!今度会ったらそれで呼んでみましょう、ククククッ」
「駄目ですよっ!揶揄っちゃ!」
「あはははっ、なんでそんな名前に……あぁ久しぶりに大笑いしましたよ!斎藤さんに感謝しないとね!」
「ふふっ、そうですね……」
「それで……会津が降伏して……」
沖田が真面目な声に戻ると、夢主も真面目に顔を縦に動かした。
いずれ仙台へ辿り着く土方はやがて船で蝦夷へ、そこで冬を越して夏を前に戦場で最期を遂げる。
その話に沖田は暫く口を閉ざしていた。
「土方さん……戦いの中で逝くんですね……」
「五月十一日に命を……」
「五月……そこまで覚えているのですか」
「はぃ……土方さんの命日は何だか特別な思い入れが……土方さんが亡くなってすぐ、この戦が終わるんです」
土方の死を待っていたかのように、長かった戊辰戦争が終結に向けて動き出す。
これからの一年を思うだけで夢主は胸が苦しくなった。
「それで土方さんにもう一度会いたいという訳ですか」
「はい……総司さんも会いたくありませんか」
先日無理だと言い切られた土方との再会をもう一度頼んでみるが、沖田の表情は晴れない。
……僕だって会いたい、それでも会いに行かないのは……そうか、僕は怖いのか。死に逝く土方さんに会うのが……認めたくないんだな……
「それはもちろん……でも、やっぱり考えさせてください……難しいお話です。斎藤さんは、捕虜になった後どうなるのですか」
「暫く謹慎生活を送って、会津の方々と斗南って場所に移住させられちゃうんです」
「斗南?」
この隠れ場所を晒さない為か、余程の出来事がなければ土方も筆を取らないのだろう、もしくはその余裕も無いほどに必死の状況なのか。
夢主と沖田は町の噂で伝わってくる話を老婦伝手に聞き、戦況を確認していた。
「上野の山でも戦が……白河城でもやり合っているようですね」
「上野は確か彰義隊の……白河城では斎藤さんが戦っていると思います」
「斎藤さんが」
「はい……一さんが率いる新選組も参戦しているはずです。一度は城を落とします。でもその後、総督に付いた方の失策が原因だったような……最後には白河城を取られてしまうんです」
「斎藤さんが率いているんですね」
「はい……土方さんは足を怪我しているかと……」
「そうでしたか……上野の彰義隊の動きはご存知ですか」
「この戦争で確か壊滅……もしかしたら原田さんがここにいるかもしれません……」
「そうですか……原田さん……歴史が変わってくれればいいのですが……。土方さんの怪我は酷いのですか」
「よくわかりませんが、暫く経つと戦線に戻られるのできっとそこまででは……」
「そっか、良かった……それで斎藤さんと合流するのですね」
土方がここで終わりではないと分かり、ほっと息を吐くが、頷く夢主の顔が冴えない。
沖田も再び険しい顔に戻ってしまった。
土方は新選組と合流するも、暫くして旧幕府の者と行動を共に仙台へ向かう。
それから遠くないうちに会津が降伏、斎藤は捕虜になり会津藩士らと共に謹慎生活に入る。
語られた話に沖田の顔は青ざめた。
「斎藤さんが」
信じられないと言った顔だ。
最後まで抗い命を燃やし尽きる、そんな男が屈辱ともいえる捕虜となり生きる道を選ぶのは、もう一度会いたい人がいるからなのか。
目の前の夢主を見つめずには、いられなかった。
「でもよく……近藤さんみたいに捕らわれて殺されてもおかしくないのに……」
ついこぼしてしまった沖田は慌てて口を閉ざした。
「大丈夫です、斎藤さんはきっと偽名を名乗って逃れるんでしょうね……変な名前の記録が残ってました、ふふっ」
「変な名前?」
「はい、一戸伝八って」
「ぷっ……いちのへ、でんぱち??あははははっ!斎藤さんらしくないっ、ふははははっ!!でんぱち!今度会ったらそれで呼んでみましょう、ククククッ」
「駄目ですよっ!揶揄っちゃ!」
「あはははっ、なんでそんな名前に……あぁ久しぶりに大笑いしましたよ!斎藤さんに感謝しないとね!」
「ふふっ、そうですね……」
「それで……会津が降伏して……」
沖田が真面目な声に戻ると、夢主も真面目に顔を縦に動かした。
いずれ仙台へ辿り着く土方はやがて船で蝦夷へ、そこで冬を越して夏を前に戦場で最期を遂げる。
その話に沖田は暫く口を閉ざしていた。
「土方さん……戦いの中で逝くんですね……」
「五月十一日に命を……」
「五月……そこまで覚えているのですか」
「はぃ……土方さんの命日は何だか特別な思い入れが……土方さんが亡くなってすぐ、この戦が終わるんです」
土方の死を待っていたかのように、長かった戊辰戦争が終結に向けて動き出す。
これからの一年を思うだけで夢主は胸が苦しくなった。
「それで土方さんにもう一度会いたいという訳ですか」
「はい……総司さんも会いたくありませんか」
先日無理だと言い切られた土方との再会をもう一度頼んでみるが、沖田の表情は晴れない。
……僕だって会いたい、それでも会いに行かないのは……そうか、僕は怖いのか。死に逝く土方さんに会うのが……認めたくないんだな……
「それはもちろん……でも、やっぱり考えさせてください……難しいお話です。斎藤さんは、捕虜になった後どうなるのですか」
「暫く謹慎生活を送って、会津の方々と斗南って場所に移住させられちゃうんです」
「斗南?」