107.会津新選組
夢主名前設定
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「違いますよ、浮かない顔をしていたのは申し訳ありません。僕もつい色々と考えてしまう時はあります……でも、貴女の傍にいたいのが一番の気持ちです。迷いはありません」
「だとよ、夢主」
「土方さん……」
「お前らすっかり馴染んでるじゃねぇか。斎藤の奴が戻ってこなかったら総司に面倒見てもらうんだな!それが嫌なら俺が戻るのを待ってろよ」
フフンと悪戯に笑って今度こそと別れを告げる土方の洋装の上着の裾を、気付けば夢主は掴んでいた。
「……夢主?」
「ぁ……いぇ……ご武運を、お気をつけて……」
笑顔を取り繕いさよならをする夢主の胸はこの時、心臓が飛び出しそうなほど強く鼓動していた。
門を開いてくぐり、見えなくなる土方の背中が遥か彼方の光の中に吸い込まれていくようだ。
このままもう二度とあの背中は見られないのか、土方の消えた門の向こうを見つめる夢主の頬がいつしか濡れていた。
「戻ろう、夢主ちゃん……ここにいては誰かに見られてしまいます」
「はぃ……」
手の中に小さな梅の花を抱いたまま、夢主は元の離れへと戻って行った。
……沖田さんの方がよっぽど辛いはずなのに……私が泣いてちゃいけない……
恐らくひと月ほどで近藤が捕らえられ斬首される。
それから原田が戦の中で命を落とし、沖田の命日を越えて土方は会津を離れる……会津が降伏した後に土方は蝦夷へ……そしてかの地で最期を迎える。
……悲しい事しか起こらない……
そんな想いで潰されてしまいそうな夢主に、いつしか沖田の思いも寄り添っていた。
小さな離れ、涙が止まらなくなった夢主のそばに座り、ただ庭を眺めていた。
狭い庭だが植木屋の庭だけに綺麗に整えられている。
植えられている木も種類があり、冬も葉を広げ寒々しい庭を緑に彩る木があれば、すっかり葉落ちしてしまう木もある。
初めてやって来てこの離れに入った頃には枯れ枝ばかりだった木にも、今は小さな葉芽が見えていた。
景色に心奪われることなど滅多に無かった沖田だが、今こうして涙に濡れる大切な人のそばで眺めていると、小さな景色の中に様々な物があり、変化を生んで感情にさえ影響を与えると気付く。
そんなことを思う自分も奇妙だと考えていた。
夢主の涙がおさまって来た頃に、沖田がようやく口を開いた。
「それでも斎藤さんは生き延びます。そうでしょう」
「総司……さん……」
「それで、充分だよ。……お茶でも持ってこようかな……」
夢主の一番愛しい者はきっと生き延びるだろう。沖田の一番愛しい者は今ここにいる。
皆はそれぞれの道を進むだけ。
その結果は誰の責任でも無い、時代に見放されてしまった悲しい結末でも、受け入れるしかないのだ。
沖田はそう悟り気持ちに区切りをつけた。
既に去ってしまった仲間と、これから去り逝く仲間を次々と思い浮かべるが、みな頼もしい顔で笑っている。沖田にはそんな仲間が誇りに思えた。
「どんな末路を辿ろうとも、僕にとっては誇り高き仲間達だ」
離れを出た沖田は独りこぼした。
「だとよ、夢主」
「土方さん……」
「お前らすっかり馴染んでるじゃねぇか。斎藤の奴が戻ってこなかったら総司に面倒見てもらうんだな!それが嫌なら俺が戻るのを待ってろよ」
フフンと悪戯に笑って今度こそと別れを告げる土方の洋装の上着の裾を、気付けば夢主は掴んでいた。
「……夢主?」
「ぁ……いぇ……ご武運を、お気をつけて……」
笑顔を取り繕いさよならをする夢主の胸はこの時、心臓が飛び出しそうなほど強く鼓動していた。
門を開いてくぐり、見えなくなる土方の背中が遥か彼方の光の中に吸い込まれていくようだ。
このままもう二度とあの背中は見られないのか、土方の消えた門の向こうを見つめる夢主の頬がいつしか濡れていた。
「戻ろう、夢主ちゃん……ここにいては誰かに見られてしまいます」
「はぃ……」
手の中に小さな梅の花を抱いたまま、夢主は元の離れへと戻って行った。
……沖田さんの方がよっぽど辛いはずなのに……私が泣いてちゃいけない……
恐らくひと月ほどで近藤が捕らえられ斬首される。
それから原田が戦の中で命を落とし、沖田の命日を越えて土方は会津を離れる……会津が降伏した後に土方は蝦夷へ……そしてかの地で最期を迎える。
……悲しい事しか起こらない……
そんな想いで潰されてしまいそうな夢主に、いつしか沖田の思いも寄り添っていた。
小さな離れ、涙が止まらなくなった夢主のそばに座り、ただ庭を眺めていた。
狭い庭だが植木屋の庭だけに綺麗に整えられている。
植えられている木も種類があり、冬も葉を広げ寒々しい庭を緑に彩る木があれば、すっかり葉落ちしてしまう木もある。
初めてやって来てこの離れに入った頃には枯れ枝ばかりだった木にも、今は小さな葉芽が見えていた。
景色に心奪われることなど滅多に無かった沖田だが、今こうして涙に濡れる大切な人のそばで眺めていると、小さな景色の中に様々な物があり、変化を生んで感情にさえ影響を与えると気付く。
そんなことを思う自分も奇妙だと考えていた。
夢主の涙がおさまって来た頃に、沖田がようやく口を開いた。
「それでも斎藤さんは生き延びます。そうでしょう」
「総司……さん……」
「それで、充分だよ。……お茶でも持ってこようかな……」
夢主の一番愛しい者はきっと生き延びるだろう。沖田の一番愛しい者は今ここにいる。
皆はそれぞれの道を進むだけ。
その結果は誰の責任でも無い、時代に見放されてしまった悲しい結末でも、受け入れるしかないのだ。
沖田はそう悟り気持ちに区切りをつけた。
既に去ってしまった仲間と、これから去り逝く仲間を次々と思い浮かべるが、みな頼もしい顔で笑っている。沖田にはそんな仲間が誇りに思えた。
「どんな末路を辿ろうとも、僕にとっては誇り高き仲間達だ」
離れを出た沖田は独りこぼした。