107.会津新選組
夢主名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
辺りは静かで、各地で起きている戦を忘れてしまいそうな平穏があった。
小屋は住み良いよう綺麗に改築され、狭いながらも温かな日が差し込んでくる。
畳は敷かれたばかりなのかイ草の香りが残っていた。
まだ肌寒い季節だがそのイ草の香りの中で障子を開いて座り、夢主は穏やかな日差しを仰ぎ見て、沖田の最期を思い浮かべた。
「夏の……暑い日……」
「え?」
「総司さんの亡くなられた日、確か夏の暑い日です。旧暦……今の暦で五月の終わり……」
「そうでしたか。ではあと少し、もう少し踏ん張れば僕の一仕事が終わるってわけですね、ははっ」
「良順先生のお言葉通りなら病の影も無い、良かったですね」
土方に言われたままに良順の診察を受けた沖田、幸い病は見つからなかった。
「えぇ。夢主ちゃんの教え通り、苦手な壬生菜を山盛り食べて、頑張って寝て休息を沢山取ったおかげでしょうか。手洗いもしっかりしましたし、咳を身近で受けないように気をつけました!道中襟巻きまでして喉を守りましたよ!」
「あはは……すみません、色々押し付けてしまったみたいで……」
「いえ、そのおかげで今があるのですから。ありがとう」
「いえっ、良かったです……」
満面の笑みで感謝の気持ちを伝えられ、沖田の笑顔に慣れたはずの夢主も流石に頬を染めた。
だが沖田が続けた言葉に、すぐにその火照りはおさまった。
「近藤さんが死に、次が僕……そして土方さん」
「……はい」
「原田さんも、って仰いましたよね」
「そうです、生き延びたって言い伝えもあるんですが、近藤さんと別れる永倉さんと原田さんなんですけど、原田さんは更に一人で行動を……理由は分からないんですけど奥さんやお子さんに会いに行こうとしてたのでは、そんなお話も……官軍が川を渡る辺りで一人工作しようとしたって話もありますし……」
「官軍……」
沖田の呟きで夢主は幕府が旧政府、旧幕府となり、賊軍にされている現実を突きつけてしまったと気が付いた。
「ごめんなさい」
「いえ、世間でもそれが事実に変わっていくのでしょう。許せません……あれだけ尽くしていたのに」
「総司さん……」
本当は戦場に出向きたいのでは、その顔色から本音を知ってしまったようで夢主は目を伏せた。
「私、土方さんが船に乗る前に一度お会いしたいです」
「えっ、船?また乗るのですか」
「はい、土方さんは最終的に蝦夷に向かうんです」
「蝦夷に?!」
幕府の中心は江戸。そこから離れて未開の地ともいえる蝦夷に渡るのは、敗走でしかない。
沖田は力が抜けたようにへたり込んだ。
そんな所で自分の大好きな土方は命尽きるのか。呆然としてしまい涙も出てこなかった。
「でも……それでも無理ですよ、夢主ちゃん……どこから船に乗るのかは知りませんが……行けたとしても帰れるかどうか……ここに、江戸に居なくては……」
「そうですね……でも……」
それなりに整えられた松前や箱館からも離れた淋しい場所から蝦夷に上陸する土方、荒れた冬の海を越えてなお広がる白い世界を目にしたら、どれ程の思いを抱えるのか。
その地で経験する苦労の数々、そして訪れる最期。
何ができる訳でも無いが、最後にもう一目……
船で何も伝えられず別れた夢主は、土方の「じゃあな」と何事も無かったように背を向け去って行く姿を思い出し、そう願ってしまった。
最後に見た顔は、少し困ったように微笑んでいた。
小屋は住み良いよう綺麗に改築され、狭いながらも温かな日が差し込んでくる。
畳は敷かれたばかりなのかイ草の香りが残っていた。
まだ肌寒い季節だがそのイ草の香りの中で障子を開いて座り、夢主は穏やかな日差しを仰ぎ見て、沖田の最期を思い浮かべた。
「夏の……暑い日……」
「え?」
「総司さんの亡くなられた日、確か夏の暑い日です。旧暦……今の暦で五月の終わり……」
「そうでしたか。ではあと少し、もう少し踏ん張れば僕の一仕事が終わるってわけですね、ははっ」
「良順先生のお言葉通りなら病の影も無い、良かったですね」
土方に言われたままに良順の診察を受けた沖田、幸い病は見つからなかった。
「えぇ。夢主ちゃんの教え通り、苦手な壬生菜を山盛り食べて、頑張って寝て休息を沢山取ったおかげでしょうか。手洗いもしっかりしましたし、咳を身近で受けないように気をつけました!道中襟巻きまでして喉を守りましたよ!」
「あはは……すみません、色々押し付けてしまったみたいで……」
「いえ、そのおかげで今があるのですから。ありがとう」
「いえっ、良かったです……」
満面の笑みで感謝の気持ちを伝えられ、沖田の笑顔に慣れたはずの夢主も流石に頬を染めた。
だが沖田が続けた言葉に、すぐにその火照りはおさまった。
「近藤さんが死に、次が僕……そして土方さん」
「……はい」
「原田さんも、って仰いましたよね」
「そうです、生き延びたって言い伝えもあるんですが、近藤さんと別れる永倉さんと原田さんなんですけど、原田さんは更に一人で行動を……理由は分からないんですけど奥さんやお子さんに会いに行こうとしてたのでは、そんなお話も……官軍が川を渡る辺りで一人工作しようとしたって話もありますし……」
「官軍……」
沖田の呟きで夢主は幕府が旧政府、旧幕府となり、賊軍にされている現実を突きつけてしまったと気が付いた。
「ごめんなさい」
「いえ、世間でもそれが事実に変わっていくのでしょう。許せません……あれだけ尽くしていたのに」
「総司さん……」
本当は戦場に出向きたいのでは、その顔色から本音を知ってしまったようで夢主は目を伏せた。
「私、土方さんが船に乗る前に一度お会いしたいです」
「えっ、船?また乗るのですか」
「はい、土方さんは最終的に蝦夷に向かうんです」
「蝦夷に?!」
幕府の中心は江戸。そこから離れて未開の地ともいえる蝦夷に渡るのは、敗走でしかない。
沖田は力が抜けたようにへたり込んだ。
そんな所で自分の大好きな土方は命尽きるのか。呆然としてしまい涙も出てこなかった。
「でも……それでも無理ですよ、夢主ちゃん……どこから船に乗るのかは知りませんが……行けたとしても帰れるかどうか……ここに、江戸に居なくては……」
「そうですね……でも……」
それなりに整えられた松前や箱館からも離れた淋しい場所から蝦夷に上陸する土方、荒れた冬の海を越えてなお広がる白い世界を目にしたら、どれ程の思いを抱えるのか。
その地で経験する苦労の数々、そして訪れる最期。
何ができる訳でも無いが、最後にもう一目……
船で何も伝えられず別れた夢主は、土方の「じゃあな」と何事も無かったように背を向け去って行く姿を思い出し、そう願ってしまった。
最後に見た顔は、少し困ったように微笑んでいた。