106.冷たい船の燭
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もうすぐ横浜港へ寄港する、そんな話を耳にした夜、沖田はふと部屋の外に気配を察知した。
入り口を振り返ると、閉じた重たい扉の向こうに感じるものがある。
「どうしたんですか……」
「いえ……すみません、少し用を足しに……」
厠を理由に立ち上がった沖田、部屋の外に出てやはりと驚きながら扉を閉めた。
頑丈な船室の戸は周りの騒音も手伝って扉の向こうの音を遮断する。
「まさかと思いましたが斎藤さん、こっちの船に乗っていたんですか」
「まぁな。局長と副長の護衛だ」
「近藤さんと土方さんの……なら、夢主ちゃんがいるのもご存知だったんですね。それでいて敢えて避けていたのですか……」
「それが望みだろう。それより……いいのか、近藤さんに会いに行かず」
「僕の役目は……」
「俺がここにいる。中に入らずとも君が戻るまでここにいるさ。行って来い、後悔するぞ」
「斎藤さん……ありがとうございます。すぐに戻りますから!」
船を降りれば再びそれぞれがどうなるか分からない歴史の流れに放り込まれる。
何のわだかまりも無いのならば、会いに行けば良い。
斎藤の気遣いに沖田は深く頭を下げ、廊下を斎藤の指し示す方角へ走り去った。
「安心しろ、俺がいてやる」
斎藤は土方の部屋の前に立っていた時と同じように壁にもたれ、目を伏せて耳を澄ました。
中の声が聞こえはしまいか……船内に響く駆動音の中、無意識に夢主の声を探していた。
沖田が出て行き二人きりになった狭い船室。
弱々しくも笑顔で語る山崎、横になっている体の胸が苦しそうに上下している。
「まさかこうしてまた、お会いできるとは思いませんでした……」
「そうですね……私もです。みなさんの顔がまた見られて嬉しいです。山崎さんに土方さん……」
……でもこんなに辛そうに……
よく姿を見かけた壬生屯所の頃には、遠慮がちながらも凛々しい顔を見せていた山崎。
今は体が弱っているせいか、線が細くふわふわと落ち着かない笑顔を見せている。
「斎藤先生には……お会いにならないのですか……」
「えっ、斎藤さんはもう一つの船で先に江戸へ……」
「先日……出航間際に……顔を見せてくださいました……」
「嘘……」
にこりと目の表情で「嘘ではありません」と伝える山崎を、夢主は信じられないと見つめ返した。
「でも……そうだとしても斎藤さんには……会っても……困らせてしまうから……」
……会いたいから、だから会っちゃいけない……
これからは斎藤が自らの運命を辿る時、何にも縛られず、出会うものと向き合っていく時間。
出しゃばってはいけないと自らを諭すのが精一杯だった。
「今は……会えません」
「そうですか、本当にお優しいのですね……夢主さんは……」
「そんな事はっ!そんな事ありません……山崎さんの方がよっぽど優しいじゃありませんか!新津さんの所へ向かう時もこっそりついて来てくれてたり……休息所も凄く綺麗にしてくれて……いつも気に掛けて、見守ってくださっていたんですよね」
外の廊下では、大好きな者との面会を追えた沖田が戻っていた。
ゆっくり戸を開くと、中からは山崎の幸せそうな声が聞こえてくる。沖田は思わず手を止めた。
「ははっ……あれは、ばれていたんですね……いやぁ……お恥ずかしい……」
上役だった自分に気を使っていたのか、この船旅の間、会話はしてもこれ程長く話すことは無かった。
何よりこんなに笑っている山崎を見るのは、初めてだった。
入り口を振り返ると、閉じた重たい扉の向こうに感じるものがある。
「どうしたんですか……」
「いえ……すみません、少し用を足しに……」
厠を理由に立ち上がった沖田、部屋の外に出てやはりと驚きながら扉を閉めた。
頑丈な船室の戸は周りの騒音も手伝って扉の向こうの音を遮断する。
「まさかと思いましたが斎藤さん、こっちの船に乗っていたんですか」
「まぁな。局長と副長の護衛だ」
「近藤さんと土方さんの……なら、夢主ちゃんがいるのもご存知だったんですね。それでいて敢えて避けていたのですか……」
「それが望みだろう。それより……いいのか、近藤さんに会いに行かず」
「僕の役目は……」
「俺がここにいる。中に入らずとも君が戻るまでここにいるさ。行って来い、後悔するぞ」
「斎藤さん……ありがとうございます。すぐに戻りますから!」
船を降りれば再びそれぞれがどうなるか分からない歴史の流れに放り込まれる。
何のわだかまりも無いのならば、会いに行けば良い。
斎藤の気遣いに沖田は深く頭を下げ、廊下を斎藤の指し示す方角へ走り去った。
「安心しろ、俺がいてやる」
斎藤は土方の部屋の前に立っていた時と同じように壁にもたれ、目を伏せて耳を澄ました。
中の声が聞こえはしまいか……船内に響く駆動音の中、無意識に夢主の声を探していた。
沖田が出て行き二人きりになった狭い船室。
弱々しくも笑顔で語る山崎、横になっている体の胸が苦しそうに上下している。
「まさかこうしてまた、お会いできるとは思いませんでした……」
「そうですね……私もです。みなさんの顔がまた見られて嬉しいです。山崎さんに土方さん……」
……でもこんなに辛そうに……
よく姿を見かけた壬生屯所の頃には、遠慮がちながらも凛々しい顔を見せていた山崎。
今は体が弱っているせいか、線が細くふわふわと落ち着かない笑顔を見せている。
「斎藤先生には……お会いにならないのですか……」
「えっ、斎藤さんはもう一つの船で先に江戸へ……」
「先日……出航間際に……顔を見せてくださいました……」
「嘘……」
にこりと目の表情で「嘘ではありません」と伝える山崎を、夢主は信じられないと見つめ返した。
「でも……そうだとしても斎藤さんには……会っても……困らせてしまうから……」
……会いたいから、だから会っちゃいけない……
これからは斎藤が自らの運命を辿る時、何にも縛られず、出会うものと向き合っていく時間。
出しゃばってはいけないと自らを諭すのが精一杯だった。
「今は……会えません」
「そうですか、本当にお優しいのですね……夢主さんは……」
「そんな事はっ!そんな事ありません……山崎さんの方がよっぽど優しいじゃありませんか!新津さんの所へ向かう時もこっそりついて来てくれてたり……休息所も凄く綺麗にしてくれて……いつも気に掛けて、見守ってくださっていたんですよね」
外の廊下では、大好きな者との面会を追えた沖田が戻っていた。
ゆっくり戸を開くと、中からは山崎の幸せそうな声が聞こえてくる。沖田は思わず手を止めた。
「ははっ……あれは、ばれていたんですね……いやぁ……お恥ずかしい……」
上役だった自分に気を使っていたのか、この船旅の間、会話はしてもこれ程長く話すことは無かった。
何よりこんなに笑っている山崎を見るのは、初めてだった。