106.冷たい船の燭
夢主名前設定
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「総司と夢主が船で江戸か……やれやれ、最初から言ってくれりゃあな」
しかし嬉しいとばかりに顔を崩し顎に触れながら歩いていると、部屋の前に誰かがいると気付き顔をしかめた。
「何してる斎藤、お前はあっちの船だろう」
あっち……とは言ったものの既に昨日出航してしまっている。
確かに永倉や原田達と先発したはずだ。その斎藤が目の前にいるとは。
土方は大きく太い息を吐いて諦めをつけた。
「しょうがねぇな……」
「一人くらいまともに戦えるのがいるでしょう」
「そうだな、その時はお前一人で存分に戦ってくれよ」
厭味な言葉に斎藤はフッと息を漏らして腰の刀の柄に手を添えた。
「喜んで」
「やれやれだぜ……所で」
今までの土方のふざけた声が意味ありげに低く変わり、斎藤も態度を改めて土方の言葉を待った。
「夢主がいる。この船にだ」
「何……」
「総司も一緒だ。何やら山で剣術の稽古をしていたらしい……総司の目が輝いてやがった。相当な腕の持ち主に相手してもらったんだろう。それで京を出そびれて、この船を思い出してここまで来たそうだ」
「凄腕の剣客なら一人心当たりがあるが……よく京からここまで来れたもんだ」
「あぁ、馬で夜の山道を来たそうだ」
「夜の山を馬で、随分と無茶をするな」
「まぁ総司は夜目も利くし馬の扱いも上手いからな。それより……一応伝えておくぜ、夢主はお前には会いたくないそうだ」
沖田から聞いた話を伝え、続いて夢主の言葉を隠さず伝えた。
鉢合わせるかもしれないと気を利かせた。
「今は……と言うことだがな」
「お互い様だ」
「何だ、お前も会いたくねぇのか」
土方の問いに斎藤は薄暗い船の廊下の先を見つめ、少し間を置いて応えた。
「会えば揺らぐ、あいつの考えでしょう。俺も似たようなものです。今は……必要ない」
「そうか」
戦いに女は要らない、そんな意味にも聞こえる言葉を土方は小さく笑って扉に手を掛けた。
「ずっとそこにいる気か」
「護衛を買って出ようってんだ、用があれば小間使いもな。邪魔ですか」
「いや、ありがたい。すまない」
小さく頭を下げて土方は部屋の中に姿を消した。
「夢主がこの船に……沖田君は近藤さんに会いたかろう」
つと廊下の先に目をやるが、すぐに戻して壁にもたれ目を閉じた。
どれくらい時が経っただろうか、いつしか寝てしまっていた夢主が目を覚ますと、共に寝ていたのか眠たげに微笑む沖田の顔が見えた。
山で夢主が仮眠が取り休憩した時もずっと起きていたのだろう。
「大丈夫ですか……総司さん……」
「えぇ、僕も少し眠っていたようですね、山崎さんは……」
「寝ているみたいです。容体が落ち着いてるのかな……」
江戸へ退く船とは言え配給は少ないながら行われ、食事には困らなかった。
夢主は沖田と共に、世話役に任じられている隊士も加え、山崎の世話をして船の生活を送った。
「何だか申し訳ない……沖田先生に夢主さんまで……こんな事を」
「今までたくさんお世話していただいたのは私です。お食事のお手伝いくらいは……山崎さんのご迷惑でなければ」
「嬉しいですよ……ありがとうございます」
小さく開く山崎の口に少しずつ粥を運んで食事に付き合うのは夢主の役目になっていた。
驚くほど少しずつしか口に含めない状態だが、それでも何かを胃に入れてくれる事が夢主にも励みとなった。
食事を終えすぐに寝てしまう山崎、回復しそうな兆しが見えるが史実ならばこのまま生を終えてしまう。今は穏やかに眠る顔を見つめると、胸が苦しくなった。
沖田は言葉通り夢主に付き添って行動し、土方と近藤のいる部屋を訪れてはいない。
しかし嬉しいとばかりに顔を崩し顎に触れながら歩いていると、部屋の前に誰かがいると気付き顔をしかめた。
「何してる斎藤、お前はあっちの船だろう」
あっち……とは言ったものの既に昨日出航してしまっている。
確かに永倉や原田達と先発したはずだ。その斎藤が目の前にいるとは。
土方は大きく太い息を吐いて諦めをつけた。
「しょうがねぇな……」
「一人くらいまともに戦えるのがいるでしょう」
「そうだな、その時はお前一人で存分に戦ってくれよ」
厭味な言葉に斎藤はフッと息を漏らして腰の刀の柄に手を添えた。
「喜んで」
「やれやれだぜ……所で」
今までの土方のふざけた声が意味ありげに低く変わり、斎藤も態度を改めて土方の言葉を待った。
「夢主がいる。この船にだ」
「何……」
「総司も一緒だ。何やら山で剣術の稽古をしていたらしい……総司の目が輝いてやがった。相当な腕の持ち主に相手してもらったんだろう。それで京を出そびれて、この船を思い出してここまで来たそうだ」
「凄腕の剣客なら一人心当たりがあるが……よく京からここまで来れたもんだ」
「あぁ、馬で夜の山道を来たそうだ」
「夜の山を馬で、随分と無茶をするな」
「まぁ総司は夜目も利くし馬の扱いも上手いからな。それより……一応伝えておくぜ、夢主はお前には会いたくないそうだ」
沖田から聞いた話を伝え、続いて夢主の言葉を隠さず伝えた。
鉢合わせるかもしれないと気を利かせた。
「今は……と言うことだがな」
「お互い様だ」
「何だ、お前も会いたくねぇのか」
土方の問いに斎藤は薄暗い船の廊下の先を見つめ、少し間を置いて応えた。
「会えば揺らぐ、あいつの考えでしょう。俺も似たようなものです。今は……必要ない」
「そうか」
戦いに女は要らない、そんな意味にも聞こえる言葉を土方は小さく笑って扉に手を掛けた。
「ずっとそこにいる気か」
「護衛を買って出ようってんだ、用があれば小間使いもな。邪魔ですか」
「いや、ありがたい。すまない」
小さく頭を下げて土方は部屋の中に姿を消した。
「夢主がこの船に……沖田君は近藤さんに会いたかろう」
つと廊下の先に目をやるが、すぐに戻して壁にもたれ目を閉じた。
どれくらい時が経っただろうか、いつしか寝てしまっていた夢主が目を覚ますと、共に寝ていたのか眠たげに微笑む沖田の顔が見えた。
山で夢主が仮眠が取り休憩した時もずっと起きていたのだろう。
「大丈夫ですか……総司さん……」
「えぇ、僕も少し眠っていたようですね、山崎さんは……」
「寝ているみたいです。容体が落ち着いてるのかな……」
江戸へ退く船とは言え配給は少ないながら行われ、食事には困らなかった。
夢主は沖田と共に、世話役に任じられている隊士も加え、山崎の世話をして船の生活を送った。
「何だか申し訳ない……沖田先生に夢主さんまで……こんな事を」
「今までたくさんお世話していただいたのは私です。お食事のお手伝いくらいは……山崎さんのご迷惑でなければ」
「嬉しいですよ……ありがとうございます」
小さく開く山崎の口に少しずつ粥を運んで食事に付き合うのは夢主の役目になっていた。
驚くほど少しずつしか口に含めない状態だが、それでも何かを胃に入れてくれる事が夢主にも励みとなった。
食事を終えすぐに寝てしまう山崎、回復しそうな兆しが見えるが史実ならばこのまま生を終えてしまう。今は穏やかに眠る顔を見つめると、胸が苦しくなった。
沖田は言葉通り夢主に付き添って行動し、土方と近藤のいる部屋を訪れてはいない。