12.二人の朝
夢主名前設定
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「ほな、ごゆるりと……」
齢のいった女将に案内され、二人は部屋へ揚がった。
身を隠したい思いと夢主への気遣いから女将に金子を余分に渡し、一番静かな部屋へ通してもらった。
抜かり無く周りの部屋へ客を通さないよう頼んである。
「大丈夫か。飯も頼んだが、先に休むか」
「そうですね……せっかくなので、頂いてから」
夢主がそう答えると、暫く無言が続いた。
斎藤はさりげなく距離を取って腰を下ろした。窓際に座り、そこから動く気配がない。
「斎藤さん、ひと仕事って……今夜の仕事は大丈夫なのですか」
斎藤は閉じた窓の障子戸を開け、外を覗いている。
「お前と一緒にいるのが、今宵の仕事さ」
さらりと言った斎藤は外に異変が無いか確認し、少しだけ隙間を残して障子戸を閉めた。
「私と……」
どういう事か分からなかった。
黙って続きを待つが、斎藤はただ窓の外を見ている。
沈黙の時間が続き、やがて二つの膳が運ばれてきた。酒も一緒だ。斎藤が頼んだのだ。
「お前はやめておけよ」
「はぃ」
先日の失態よりも、今日の体調を気に掛けた言葉。
夢主は素直に応じて、食事を始めた。
夢主と二人になれば案外と言葉の多い斎藤だが、今日はいつにも増して静かだ。言葉にならない緊張感が漂っている。
「……今日は何か……起こるのでしょうか……」
いつもと異なる屯所の気配、外での食事、土方の許可、斎藤の仕事。嫌でも気に掛かる。
斎藤は答えず、暫く夢主の顔を見つめた。
「分かるなら考えろ、分からぬなら……知らぬ方が良い」
そう答え、酒を口にした。
……分かるなら……夢主は思い当たる節が無いか記憶を呼び起こした。
「……新見さん」
その言葉に斎藤の瞳孔が僅かに開いた。そして厳しい目つきのまま頷いた。
この夜、土方を中心とした近藤一派の策略により、陥れられるように芹沢鴨の腹心、新見錦が切腹した。
どう転ぶか分からない粛清の夜、新選組という血生臭い存在から夢主を遠ざける。
それが斎藤が受けた任務だった。
あらかた食事が終わると、斎藤は窓の隙間から夜空を見つつ酒を進めていた。
そんな斎藤を、夢主は休まなくて良いのか不安に思い、眺めた。
血生臭い場所から遠ざける任務だとしても、忙しく眠れぬ日々は事実だ。
「布団に入っていろ」
布団を勧めるつもりが、逆に勧められてしまった。
男女の営みの為の部屋なので布団は一組しかない。
自分が使ってしまっては……そう思うが、斎藤は酒を止める気配が無い。
「ありがとうございます……」
自分が布団に入れば、斎藤も座ったままでも仮眠を取るかもしれない。夢主は寝たふりを試みた。
齢のいった女将に案内され、二人は部屋へ揚がった。
身を隠したい思いと夢主への気遣いから女将に金子を余分に渡し、一番静かな部屋へ通してもらった。
抜かり無く周りの部屋へ客を通さないよう頼んである。
「大丈夫か。飯も頼んだが、先に休むか」
「そうですね……せっかくなので、頂いてから」
夢主がそう答えると、暫く無言が続いた。
斎藤はさりげなく距離を取って腰を下ろした。窓際に座り、そこから動く気配がない。
「斎藤さん、ひと仕事って……今夜の仕事は大丈夫なのですか」
斎藤は閉じた窓の障子戸を開け、外を覗いている。
「お前と一緒にいるのが、今宵の仕事さ」
さらりと言った斎藤は外に異変が無いか確認し、少しだけ隙間を残して障子戸を閉めた。
「私と……」
どういう事か分からなかった。
黙って続きを待つが、斎藤はただ窓の外を見ている。
沈黙の時間が続き、やがて二つの膳が運ばれてきた。酒も一緒だ。斎藤が頼んだのだ。
「お前はやめておけよ」
「はぃ」
先日の失態よりも、今日の体調を気に掛けた言葉。
夢主は素直に応じて、食事を始めた。
夢主と二人になれば案外と言葉の多い斎藤だが、今日はいつにも増して静かだ。言葉にならない緊張感が漂っている。
「……今日は何か……起こるのでしょうか……」
いつもと異なる屯所の気配、外での食事、土方の許可、斎藤の仕事。嫌でも気に掛かる。
斎藤は答えず、暫く夢主の顔を見つめた。
「分かるなら考えろ、分からぬなら……知らぬ方が良い」
そう答え、酒を口にした。
……分かるなら……夢主は思い当たる節が無いか記憶を呼び起こした。
「……新見さん」
その言葉に斎藤の瞳孔が僅かに開いた。そして厳しい目つきのまま頷いた。
この夜、土方を中心とした近藤一派の策略により、陥れられるように芹沢鴨の腹心、新見錦が切腹した。
どう転ぶか分からない粛清の夜、新選組という血生臭い存在から夢主を遠ざける。
それが斎藤が受けた任務だった。
あらかた食事が終わると、斎藤は窓の隙間から夜空を見つつ酒を進めていた。
そんな斎藤を、夢主は休まなくて良いのか不安に思い、眺めた。
血生臭い場所から遠ざける任務だとしても、忙しく眠れぬ日々は事実だ。
「布団に入っていろ」
布団を勧めるつもりが、逆に勧められてしまった。
男女の営みの為の部屋なので布団は一組しかない。
自分が使ってしまっては……そう思うが、斎藤は酒を止める気配が無い。
「ありがとうございます……」
自分が布団に入れば、斎藤も座ったままでも仮眠を取るかもしれない。夢主は寝たふりを試みた。